第五章 地球人の男子が出せるもの
◆ 登場人物 ◆
ダイチ(大地)
オレ。中学二年生。メガネをかけている。
風紀委員の副委員長。
ショウビ(薔薇)
オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。
風紀委員の一人。
スイショウ(水晶)
オレの幼馴染。同い年。家がとなり。
風紀委員の一人。
P1(ピーワン)
赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
ショウビの下半身に寄生している。
P2(ピーツー)
青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
スイショウの下半身に寄生している。
コハク(琥珀)
オレの中学で生徒指導を担当する先生。
実は痴女。
◆ これまでのあらすじ ◆
女子中学生の下半身に寄生して、地球で破壊活動をしようと計画する、ビキニ型宇宙人のテロリストたち。
そいつらと戦う正義のヒーロー、ビキニハンターに任命されてしまったオレは、妹と幼馴染に寄生した宇宙パトロールの二人から、スカートの中に水鉄砲で液体をかける訓練を強要される。
さらに学校で生徒指導を担当するコハク先生は、オレがそんなハレンチな行為をしていた事を知ると、停学になりたくなければ、放課後に先生のパンツに液体をかけろと、意味不明な事を言い出す。
一体どうやったらこの泥沼から抜け出せるのか……。
コハク先生に解放されて教室に戻ったオレは、放課後に再び先生のところに行ったら、自分がどうなってしまうのかが心配で、勉強に集中できず、しきりにメガネを拭く。
雨が降り始めた外の景色のように、オレの心もどんよりだ。
授業の合間にクラスメイトたちが、コハク先生に連れ出された理由を聞いてくるが、妹と幼馴染のスカートの中に水鉄砲で液体をかけていたのが先生にバレたとは答えられないので、風紀委員の活動だと言って誤魔化す。
昼休みになっても心は一向に晴れないが、オレは自分の弁当を持って、中庭のベンチへとぼとぼと歩く。
昼食はいつもそこで、妹のショウビと幼馴染のスイショウと三人で食べていたからだ。
雨は相変わらず降り続いているが小雨だったし、その場所には屋根があったので、風が強くなければ問題ない。
そしてそこに着いてからは、妹と幼馴染に心配をかけないように、できるだけいつもどおりに振る舞って、とにかくこの日常を壊さないようにしなければと思いながら、オレは弁当を食べる。
その食事中にスイショウが、オレたちの真ん中に座っているショウビに、
「私のハンバーグとその唐揚げ、交換しない?」
と尋ねると、ショウビは無言で首を横に振るが、オレがスイショウに向かって、
「じゃあ、オレのと交換するか?」
と言うと、ショウビは眉間にしわを寄せながらも、自分の唐揚げをスイショウのご飯の上に乗せて、その横にある小さなハンバーグをつまむ。
妹は幼馴染の少女の事が大好きなので、本当はおかずの交換をするのがうれしいのに、素直じゃないから最初はいつも断るのだ。
そんなショウビにスイショウが微笑むのを見て、オレもいつもなら、つられて笑うところだが、今日はそんな気分になれない。
すると妹は、オレの様子がいつもと違うのに気が付いて、
「兄さん、何か心配な事でもあるのですか?」
と聞いてくるが、オレは適当な事を言って話をそらす。
そして食事が終わり、周りに誰もいないのを確認してから、二人に寄生している宇宙パトロールを呼び出して、早朝にオレたちがやったパンツに液体をかける訓練が、コハク先生にバレた事を話すと、妹に寄生しているP1があきれる。
「えぇえ! お兄たん、だから最初に、人目につかないところに連れて行ってって言ったでしょぉ!」
「いや、ごめん、P1。まさか生徒指導室に、隠しカメラが仕掛けてあるとは思わなくて……」
オレがそう言うと、幼馴染の少女に寄生しているP2が怒る。
「ニャんだ、その言い訳は! あの訓練を見られたのは、ダイチが考えているよりも、ずっと重大な事ニャ! その先生が普通の人間じゃニャくて、宇宙テロリストに寄生されていたニャら、われわれの存在がバレていたんだからニャ!」
それを聞いたオレは、第三者にあの訓練を見られた事の危険性に、ようやく気が付いて青ざめる。
「本当だ…………。もしもコハク先生が寄生されていたら、お前たちは殺されていたかもしれないのか……。危ないところだった…………」
「やっと分かったようだニャ! とにかく、その隠しカメラの映像は、今すぐ地球外にいる宇宙船から、ハッキングして消去してもらうニャ! そうすれば、もうわれわれの存在が、宇宙テロリストにバレる心配はないからニャ! でもダイチ、次からは気を付けるんだニャ!」
そう言われてオレは素直に頭を下げる。
「ああ、これからは本当に気を付けるよ…………。ところで、それはともかく、放課後になったら、オレはどうしたらいいんだ?」
「どうしたらって、お兄たん! せっかくその先生が、パンツに液体をかけさせてくれるって言っているんなら、かけてくればいいよぉ!」
「そのとおりニャ! あの先生はまだ若いし色香もあふれているから、そのパンツに液体をかけるのが平気になれば、女子中学生のパンツだって平気になるニャ!」
「いや、コハク先生のパンツに液体をかけてしまったら、それだけじゃ済まなくなると思うんだけど…………」
「ほええ? お兄たんは、童貞を失いたくないのぉ?」
「コラ、P1! ショウビの口から、童貞という言葉を出すな!」
「ニャんだ? ダイチは初めてのセックスが、あの先生が相手だと嫌なのかニャ?」
「お前もだ、P2! スイショウの口で、セックスとか言うんじゃない!」
「えーとぉ……お兄たんが何を問題にしているのか、アタシたちには分からないんだけどぉ、お互いに同意しているんなら、そういう事をしても問題はないんじゃないのぉ?」
「ダメだ、ダメだ! 生徒のオレが、先生とそういう関係になるなんて、絶対にダメだ!」
「それのニャにがダメなのか分からニャいけど、ダイチ自身がそう思っているニャら、先生のパンツに液体をかけてから、それ以上の事はしたくニャいと、はっきり言えばいいニャ! そしたら先生も無理強いはしニャいはずニャ!」
オレはその言葉に、ため息をつきながらメガネを直す。
「あのな、はっきり言うけど、先生のパンツに液体をかけてしまったら、オレ自身がどうなるか分からないんだよ!」
「……お兄たん…………それはお兄たんの意思が弱いのが、問題なんじゃないのぉ?」
「ぐ…………お前らビキニ型宇宙人には分からないだろうが、地球のオレくらいの年令の男子は、そんな状況で正常な意思なんか、保てなくなるのが普通なんだよ! …………だからお願いだ! ……もう一度、地球の時間を巻き戻してくれ!」
「なに言ってるニャ! 宇宙テロリストとは関係ニャい、そんな個人的な理由で、地球の時間を巻き戻せる訳がないニャ!」
「いいから聞け! 先生と不適切な関係になって、それが学校にバレれば、オレは停学になる危険がある! だからと言って、先生の言う事を聞かなければ、学校でハレンチな事をした罰で、オレは停学になってしまう! つまりこのままでは、どっちにしてもオレは停学になって、宇宙テロリストを見付けるのが難しくなるんだ! そうなったら、お前らだって困るだろう!」
だがオレがそう力説しても、P1とP2はどこ吹く風だ。
「アタシたちはそうなっても、ぜんぜん困らないよぉ! だってお兄たんは、たとえ停学になっても、学校に来て宇宙テロリストを探すんだからぁ!」
「そうニャ、そうニャ!」
「ちょっと待て! 停学中にそんな事をしたら、今度は退学になってしまうじゃないか!」
「地球の平和を守るためなんだからぁ、仕方がないよぉ!」
「そういう事ニャ! それがビキニハンターの使命ニャ!」
「ぐぬぬぬ…………勝手な事を言いやがって……………………」
こうなったらコハク先生をちゃんと説得して、先生のパンツに液体をかけずに、停学になるのを免れるしかない。
証拠の映像はもう消されているし、オレが必死に謝れば、コハク先生だってパンツに液体をかけられなくても、オレを停学にするのを思いとどまってくれるのではないか…………。
と言うか、先生のパンツに液体をかければ、停学になるのを許してもらえるというのが、そもそも意味が分からないのだが……………………。
そう考えているうちに、午後からの授業の時間が近付いて来たので、宇宙パトロールの二人には引っ込んでもらって、意識を戻した妹と幼馴染と三人で自分たちの教室へ戻る。
そして一階に教室があるショウビと別れて、スイショウと階段を上っている時に、オレは前に見た宇宙テロリストに寄生された女子生徒が、傘もささずに校庭を歩いているのに気が付く。
周りを見ると、もう次の授業が始まる直前だったので、ほとんどの生徒がすでに教室に入っていて誰もいない。
それでオレは、幼馴染の少女に寄生している宇宙パトロールを呼び出す。
「P2! いたぞ! あいつが宇宙テロリストだ!」
そう言いながら、その返事も待たずに階段を駆け下りるオレ。
今まで授業をサボった事なんか一度もないが、ビキニハンターの任務から解放されるには、一刻も早く宇宙テロリストを抹殺するしかないから必死に走る。
小雨の中、ぬかるんだ校庭を上履きのまま走って泥だらけになるのも、非常事態だからしょうがない。
そして足音からすぐ後ろにいると分かるP2に、オレは振り向かずに尋ねる。
「『ビキニキラー液』が入った水鉄砲は、いま持っているのか?」
「持ってないニャ! だから今は、どのクラスの生徒かだけ探るニャ!」
しかしその女子生徒は、校庭の反対側にある、老朽化して取り壊される予定の旧校舎に入っていく。
「おい、あれは使われていない、立ち入り禁止の校舎だぞ!」
「怪しいニャ! ひょっとしたら、宇宙テロリストのアジトかもしれないニャ!」
「いや、ちょっと待て! もしも罠だったら、どうするんだよ!」
「宇宙パトロールがそんニャものに、引っ掛かる訳がないニャ! 安心して突撃するニャ!」
…………その五分後、オレとP2の二人は、鎖でグルグル巻きにされて、旧校舎の教室の床に転がっていた……。
オレは横を向いて、雨で濡れたメガネ越しにP2をにらむ。
「……………………お前、自信たっぷりだったよな?」
「酷いニャ、ダイチ! 宇宙パトロールだって、失敗はあるニャ!」
そのセリフを聞きながら、こんなヤツの言う事をうのみにした自分がバカだったと思うオレ。
とにかくオレたちは今、とても危機的な状況に置かれている。
身体を縛る鎖は床にガッチリと固定されて全く動けず、教室の隅にはダイナマイトがあって、そこから伸びる導火線が壁沿いを一周して、その先に火が点いていたからだ。
「…………ところで、何で今どきダイナマイトなんだ?」
「電子部品を使った爆発物だと、われわれの宇宙船からハッキングして、止める事ができるからニャ! あまりにも文明が進むと、こういう原始的ニャものの方が脅威ニャ! 地球人だって、機密文書はハッキングされニャいようにPCには入れず、わざと紙に印刷して保管するニャ! それと同じことニャ」
「なるほど……確かにダイナマイトの爆発を止めるには、この場で火を消すしかないよな……」
そうつぶやきながらも、オレは落ち着いている。
たとえこのまま死んでも時間が巻き戻されれば、その死がなかった事になるのを、すでに体験していたからだ。
むしろオレにとっては、そうなってくれた方が都合がいい。
オレたちの死で時間が巻き戻されれば、今朝のハレンチな訓練がなかった事になって、放課後にコハク先生のパンツに液体をかけずに済むのだから。
そんな事を考えているオレとは対照的に、P2は鎖を解こうと必死にもがく。
「ぐぎぎぎ…………ニャ! やったニャ! 右手が抜けたニャ! この調子で……」
けれど、それからしばらくがんばっても、それ以上は解けず、右手だけが自由になった状態でP2はガックリする。
「だめニャ……もうこれ以上は解けないニャ…………」
「……でも、P2。お前たちの宇宙船は、この状況をモニターしているんだろ? だったら宇宙船からの連絡を受けて、P1が助けに来るんじゃないのか?」
「それがニャ、さっきから宇宙船との通信がつながらないのニャ…………。どうやらこの建物には宇宙結界が張ってあって、宇宙船の方からはモニターできニャいようニャ……。ただ、それでも放課後にニャれば、P1もわれわれの姿が見えニャい事に気が付いて、探し始めるはずニャんだけど…………」
そう言いながらP2は、ダイナマイトにつながる導火線の先に点いた火を見つめる。
それはすでに半分まで進み、どう考えても放課後になるより先に、ダイナマイトが爆発するのは間違いない。
「もうあきらめろ、P2。どうせオレたちが死ねば、時間が巻き戻されるんだろ? そしたら、今朝の家を出るところから、またやり直せるじゃないか」
だがP2はそれを聞いてカンカンに怒る。
「なに甘い事を言っているニャ! そんなふうに、またやり直せばいいニャんて思っていたら、何度くり返しても宇宙テロリストは抹殺できないニャ! 死ぬギリギリまであきらめたらダメニャ!」
「……いや、そうは言っても、この状況では何をやっても、あの導火線の火は消せないだろ?」
「…………そうニャけど……………………」
そうやってうなだれていたP2が、しばらくして突然、ガバっと身体を起こす。
「おしっこニャ!」
「はあ?」
「おしっこで、あの導火線の火を消すニャ!」
「えぇえ! って、お前、あそこまで、おしっこ飛ばせるのかよ?」
オレたちは教室の真ん中で縛られているから、壁沿いの導火線まで、四メートルくらいある。
「もちろん、わたしが寄生している女子の身体じゃ無理ニャ! でも……」
「おい、まさか」
「……わたしがこの右手で狙って、わたしの合図でダイチが出せば、可能ニャ!」
と言いつつ、P2は自由に動かせる右手で、オレの身体を探り始める。
「うわっ! 待て、待て! オレ、今は、おしっこ出ないよ!」
「何でニャ! さっき、お昼ご飯を食べてる時に、お茶だって飲んでいたニャ! だったら、おしっこが出ニャいのはおかしいニャ!」
「いや、本当に今は、ぜんぜんしたくないんだ!」
さすがに幼馴染の少女の手であそこを触られる訳にはいかないオレは、そう言って抵抗するが、P2はなかなか引き下がらない。
「…………怪しいニャ……。ダイチ、あんた、このまま死んで時間が巻き戻されたら、先生のパンツに液体をかけニャくて済むから、わざとおしっこを出さニャいんじゃニャいか?」
「オ……オレが、そんな事する訳ないだろ! だ、出せるなら、ちゃんと出すよ!」
オレのその言葉を聞きながら、P2が目を細める。
「…………そうニャのか……。ニャら仕方がないニャ。……………………でも地球人の男子が出せるのは、おしっこだけじゃないニャ……」
「え? …………ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
「ふふふふ……。こんニャ事もあろうかと、地球人の男子の身体をどうすれば、アレが出るのか、ちゃんと調べてあるニャ!」
「ま、待て! アレで導火線の火を消すのは、いくら何でも無理だ! そんなに遠くまで飛ばないから!」
「大丈夫ニャ! ドイツ人が五メートル以上飛ばしたという、世界記録があるニャ! 気合いを入れれば飛ぶ、いや、飛ばしてみせるニャ! わたしのテクニックで!」
「くそっ! P2! スイショウの口で、テクニックとか言う……あっ! ああっ!」
「ほら、ダイチ! 暴れるニャ! ファスナーを開けられないニャ!」
「や、やめっ! う! うわっ! あっ! ちょ! ま、待て! ぐわっ! がっ!」
「こら! そんニャに動いたら、ちゃんとつかめないニャ!」
「ああああああああああああああ! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお! ぐぬううううううううううううううううううううう! ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい! ぎえええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「ああん、もう、ダイチ! これじゃ、間に合わないニャ!」
そしてダイナマイトは爆発し、オレたちは死んで、地球の時間が再び巻き戻される。
二回目の巻き戻しなので、その朝に目覚めるのは三回目だ。
メガネをかけてカーテンを開けると、朝日が差し込む二階のベランダで、となりに住む幼馴染のスイショウが仁王立ちになっていた。
それを見てオレはため息をつく。
スイショウに寄生しているP2は、オレの抵抗がなければ導火線の火を消せたと思って、怒っているのが明らかだからだ。
まぁ、P2が怒る気持ちも分かるが、幼馴染の少女の手によって、アレを出される訳にはいかなかったオレの気持ちも分かってほしい。
いくら地球を守るためでも、もう二度とあんな事はしないでほしいのだが……。
しかし宇宙テロリストたちを抹殺できるまで、こんな事が、あと何回くり返されるのだろうか…………。