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第二十二章 最後の時間巻き戻し

◆ 登場人物 ◆


ダイチ(大地)

 オレ。中学二年生。メガネをかけている。

 何度も時間が巻き戻されて、妹や幼馴染の少女が殺されるところをくり返し見て、精神的にかなりヤバい状態になっている。


ショウビ(薔薇)

 オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。

 どういう訳か、離れた場所にいてもオレのピンチを察知できるようなのだが…………。


スイショウ(水晶)

 オレの幼馴染。同い年。家がとなり。

 時間が巻き戻されたので、オレに赤ちゃんはどうやったらできるのか真顔で聞いてきた事や、オレと幼稚園以来のキスをした事もなかった事になってしまった。


P1(ピーワン)

 赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。

 ショウビの下半身に寄生している。


P2(ピーツー)

 青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。

 スイショウの下半身に寄生している。


コハク(琥珀)

 オレの中学で生徒指導を担当する先生。

 実は痴女で、オレを性奴隷にしようと企んでいる。


タイヨウ(太陽)

 小学生の時にショウビの悪いうわさを流していて、オレが投げ飛ばしたヤツ。

 それなのに、宇宙テロリストの破壊活動に巻き込まれた時、オレを助けようとしてくれた。



◆ これまでのあらすじ ◆


 地球での破壊活動を企むビキニ型宇宙人のテロリストたちが、女子生徒の下半身に寄生して地球に潜伏し、それを追っていた同じ宇宙人のパトロール隊員も、同じ方法で地球に潜入する。


 それから地球では激しい攻防がくり返されるようになるが、地球に被害が出るたびに、宇宙パトロールによって時間が巻き戻されたので、今のところ地球は無傷で済んでいる。


 そして宇宙パトロールは、宇宙テロリストの五体目までの抹殺に成功するが、六体目だけがどうしても見付からないので、自分たちとは考え方の違う地球人をビキニハンターに任命する事で、この状況を変えようと計画する。


 そうやってビキニハンターに任命されたオレは、何とかして六体目を見付けようと努力はするものの、何度やっても結果が出ず、失敗のくり返しで精神的にも限界が近付いてきて…………。




 その朝を迎えるのは、オレの記憶にあるだけでも、すでに十二回目……。


 だがそれはオレが憶えていない時のも含めると、トータルで百三十回目の朝だ…………。


 ベッドで上半身を起こしたオレは、カーテンを閉めたまま、メガネもかけずに手でこめかみを押さえる。


 これだけ同じ時間をくり返しながら、六体目の宇宙テロリストが見つからないのはなぜか。


 そいつがオレの学校の女子生徒の誰かに寄生しているのは確実で、宇宙兵器が動いている時は必ずその周辺にいるという事も分かっているのに……。


 今日もこの後、宇宙兵器の破壊活動を見なければいけないのかと思うと胃が痛くなる。


 特に親しくない生徒でも死ぬところを見るのは凹むのに、P1が寄生している妹のショウビや、P2が寄生している幼馴染のスイショウが死ぬところを見るのは、本当にキツい。


 いっそ、これ以上はビキニハンターを続けられないと宇宙パトロールの二人に言って、次に時間が巻き戻された時に、バックアップされた記憶を戻さないでもらおうか……。


 そうすれば宇宙テロリストに関する記憶が全てなくなって、普通の生活に戻れる…………。


 しかし、それをしてしまうと、苦痛からは解放されるものの、自分たちの未来が他人任せになってしまう。


 自分の未来はともかく、ショウビやスイショウの未来が他人任せになるのは、どうあっても我慢できない。


 それでオレは気力をふり絞って、メガネをかけながら部屋を出る。


 すると、どうやらオレはかなりヤツれた顔をしていたようで、廊下にいたショウビに呼び止められる。


「あ……あの、兄さん……大丈夫なんですか?」


「……ああ。大丈夫だ。心配するな…………」


 けれどオレがそう答えても、妹は学校を休んだ方がいいのではないかと、しつこく言ってきて、家を出るとスイショウにも心配されたので、面倒になったオレは学校へ向かう途中で、用もないのに宇宙パトロールの二人を呼び出す。


「……P1、P2…………今日は何かいつもと違う事はないのか?」


 ところが、そんなオレの何気ない言葉に、なぜか二人は過剰に反応する。


「えっ、お、お兄たん! い、いつもと違う事なんて、あ、ある訳がないよぉ!」


「そ、そうニャ! きょ、今日もいつもどおり、ほ、放課後にニャったら、ろ、六体目を探すだけニャ!」


「…………何だよ、お前ら……まだ何か、オレに隠している事があるんじゃないだろうな……」


「か、か、か、隠している事なんて、な、な、な、何にもないよぉ!」


「わ、わ、わ、われわれ宇宙パトロールが、ウ、ウ、ウ、ウソなんて、吐く訳がないニャ!」


 しどろもどろで必死に誤魔化す二人を見て、オレは思わずため息を吐く。


「…………お前ら、いい加減に、隠し事をするのはやめろよな……」


 だが、それからいくら問い詰めても、二人は何を隠しているのか全くしゃべらず、そうしているうちに学校に着いて、オレは校門の前でコハク先生に腕をつかまれる。


「おい、ダイチ副委員長。キサマ、そんなにヤツれた顔をして、何で学校に来たんだ?」


「いえ、先生、オレはぜんぜん平気……」


「ウソをつけ! 今日は車で来ているから、すぐに病院に連れて行ってやる。こっちへ来い」


「えっ、先生、大丈夫ですよ。先生も仕事があるでしょう?」


「何を言っているんだ、ダイチ副委員長。体調を崩している生徒がいたなら、最優先でそれに対応するのが教師の務めだ」


「あ、あの、先生、本当に体調が悪ければ、オレは自分で保健室に……」


「ダメだ! あの保健室の女は、キサマに何をするか分からん! いいから私と来るんだ!」


 保健室の先生よりも、あなたの方が何をするか分からないだろと思いながらも、柔道の有段者であるコハク先生を振りほどく事はできず、オレは無理やり先生の車に乗せられてしまい、とにかくいつでも逃げ出せるように身構える。


「…………でも先生、いつもは電車で通勤しているのに、今日だけどうして車で来たんですか?」


「今朝、テレビでやっていた占いが、いつもと違う事をしたら、いい事があると言っていたんだ。それで車で来てみた」


 どうやら先生は、意外と周りに影響されやすい性格らしい。


 そう言えばちょっと前には、ネットの情報を見た先生が、学校でドーピング検査をすると言い出した事があったよな……。


 しかし、そんな事を思っていると、先生の運転する車は、なぜか廃工場の敷地に入って行く。


「ちょ、ちょっと、先生! 病院に行くって言ってたじゃないですか! オレは学校に戻りま…………あ、あれ?」


「ふふふふ……この車は、助手席のドアロックも、運転席側からしか解除できないように改造してあるんだ」


「な、何ですか、その改造は! 明らかに犯罪仕様じゃないですか!」


 そう言いながらオレはジタバタと必死に抵抗するが、覆い被さってきた先生に関節を極められて、助手席に座ったまま完全に動けなくなる。


「……安心しろ、ダイチ副委員長。私は童貞の中学生男子の身体には詳しいんだ…………たぶん、キサマがそんなにヤツれているのは、前立腺が原因だ……私が検査してやろう」


「ぐ……ぜ、前立腺って……そんな訳ないでしょう、先生…………あっ、ああ!」


「言っておくが、これはマジメな医療行為だ……じゅる……勘違いするな……じゅるるる」


「い、医療行為って言いながら…………よ、よだれが垂れているじゃないですか、先生…………む……むぐぅ!」


「……こら、そんなに抵抗するな、ダイチ副委員長……じゅるる…………指が入らんではないか……じゅるるじゅる……」


 と、オレが先生に凌辱されそうになっていると、突然、ガチャっという音とともに助手席のロックが解除されて、妹がドアをバンっと開ける。


「……先生…………兄さんに何をやっているのですか?」


「あ? なんでロックが?」


 先生はオレの上で驚いた後、続けて苦しい言い訳を始める。


「………………あ、ああ……いや、これはあれだ…………ダイチ副委員長の体調が回復したようなので、ちょっと柔道の寝技を教えてやろうと思ってだな……」


「……まあ、そうだったんですね……でも、兄の体調が回復したのなら、すぐに学校に戻りませんか?」


「あぁあ……もちろんだ…………」


 そう言って先生がオレの上からどいたので、オレは急いで助手席から降りる。


 見るといつの間にか、先生が運転していた車の後ろにタクシーが止まっていた。


「…………ショウビ……どうして先生の車がここに停まっていると分かったんだ?」


「……それが……自分でもよく分からないのですが…………何となく、ここで兄さんが危ない目に遭っていると思ったのです……」


 オレがピンチの時にショウビが現れたのは、これで四回目。


 この前、オレがタイヨウに『ねこチ〇コ』を触られた時はそれを察知できなかったショウビが、今回はちゃんと察知できたのはなぜか……。


 あと、もっと以前には、専用の電子キーでしか開かない生徒指導室のドアロックが、ショウビが来たタイミングで解除された事があったが、やっぱりそれも今回と同じく、ショウビが何らかの方法で解除したと考えるべきだろう…………。


 学校へ戻った後、授業中もずっとその事を考えていたオレは、昼休みになって、中庭でショウビとスイショウといっしょに弁当を食べてから、宇宙パトロールの二人を呼び出して尋ねる。


「P1、P2。確かお前たちの宇宙船は、オレたちの行動を常にモニターしていたよな? しかもその宇宙船は、地球上にある、あらゆる電子機器にハッキングできたはずだ」


 オレがそう言うと、ショウビに寄生しているP1が目を丸くする。


「えぇえ? まさか、お兄たん! この子が、アタシたちの宇宙船にアクセスして、お兄たんのピンチを察知したり、ドアのロックを解除したりしていると思っているのぉ? いくら何でも、普通の人間にそんな事ができる訳ないよぉ!」


 大きな声でそう言うP1を、オレは手で制する。


「まあ、聞け、P1…………お前たちの意識は、常に宇宙船とつながっているんだろ? ……さらにその意識は、寄生した人間ともつながっている…………ならば、お前たちに寄生されている側の人間が、無意識のうちに宇宙船にアクセスしていても不思議はないんじゃないか?」


 オレのその言葉を聞いて、スイショウに寄生しているP2が考え込む。


「ニャニャ……確かに、われわれビキニ型宇宙人が人間に寄生している時は、お互いの意識が深層で常につながっているニャ…………ニャらば、寄生された側の人間が無意識のうちに、われわれの宇宙船にアクセスしている事は、あり得るかもしれないニャ……」


「じゃあ、この子は今まで無意識のうちに、アタシとつながっている宇宙船にアクセスして、お兄たんのピンチを察知していたのぉ?」


「それ以外に考えられないだろ……オレとP2がダイナマイトの罠にかかった時や、オレがタイヨウに『ねこチ〇コ』を触られた時に、ショウビが察知できなかったのも、それなら説明がつく…………」


 ダイナマイトの罠が仕掛けられた時は、その場所に宇宙結界が張られていて宇宙船からはモニターできなかったし、タイヨウに『ねこチ〇コ』を触られた時は、P1が宇宙船に戻っていて、ショウビと宇宙船がつながっていなかった。


 だから、それらの時はショウビもオレのピンチを察知できなかったのだ。


 そして、そんな話をしているうちに、オレは突然、ある事に気が付いて、思わず声を上げる。


「あっ!」


「どうしたの、お兄たん?」


「ヤツも同じだったら……」


「ニャニャニャ?」


「宇宙テロリストの六体目も、ショウビと同じように宇宙船にアクセスできるとしたら…………それならオレたちの行動を全て知る事ができるから、ずっと逃げる事が可能じゃないか?」


「えっ! それって、アタシたちの宇宙船がハッキングされているって事? だけど、お兄たん! 六体目がアタシたちの行動の全てを知る事ができるのなら、宇宙テロリストたちは全員で逃げないとおかしいよぉ! 何で六体目だけが逃げて、他の五体は逃げないの?」


「…………たぶん六体目は、『エニグマ』を解読したイギリスと同じ事をしているんだ……」


「ニャ? 『エニグマ』って何ニャ?」


「『エニグマ』っていうのは、ドイツが昔の戦争中に使っていた暗号の名前だ…………その戦争でドイツと戦っていたイギリスは、暗号の解読に成功して、どこを攻撃されるのか分かるようになってからも、多くの味方をわざと見殺しにしたんだ…………そうやって自分たちが『エニグマ』を解読できる事をドイツに悟られないようにして、本当に重要な局面で勝つためにな……」


「なら六体目は、最初からアタシたちの行動を全て分かっていたのに、わざと仲間を見殺しにして、自分一人だけが生き延びてきたってことぉ?」


「ああ。きっとそうだ…………現にお前たち宇宙パトロールは、百回以上時間を巻き戻して、そいつを見付ける事ができなかったのに、自分たちの行動がそいつに知られている可能性については、全く考えていなかっただろ?」


「ニャ…………確かにダイチの言うとおりニャ……五体目まではちゃんと抹殺できていたから、こちらの行動が全て知られているニャんて事は、ぜんぜん予想しなかったニャ…………」


 P2がそうつぶやくと、P1は困った顔をする。


「でも、お兄たん! アタシたちがどう行動しても、それが全て知られてしまうのなら、六体目は絶対に捕まえられないよぉ! そんな相手をどうやって見付ければいいのぉ?」


「簡単だ。宇宙兵器が出現すると同時に、宇宙船にオレたちの行動のモニターをやめさせればいい。そうすればオレたちがどんな行動をするのか、六体目も知る事ができなくなる」


「…………だけどそうニャると、宇宙船でやっている記憶のバックアップもできなくなるニャ……」


「……そうだな…………でも、六体目を抹殺すれば宇宙兵器が停止するから、それを合図にして、オレたちの行動のモニターと記憶のバックアップを再開すれば問題ないだろ……その後で時間を巻き戻して、身元が確認できた六体目を改めて抹殺すれば、この学校での戦いは決着する」


 けれどオレがそう言うと、なぜかP1とP2が黙り込む。


「? どうした、P1、P2? ……まぁ、この後も何度か失敗は続くだろうが、六体目がずっと逃げ続けられたカラクリがさっきの予想どおりなら、もうちょっとがんばれば、何とかなる。あと少しの辛抱だ」


 その言葉を聞いて、二人は顔を見合わせてから、オレに向かって言いにくそうに口を開く。

「……………………えーと、実はね、お兄たん…………宇宙パトロールが地球でできる時間の巻き戻しは、次で最後なんだよぉ……」


「はあ?」


「ダイチ……前に、わたしとP1の二人が宇宙船に呼び出された時があったニャ……あの時、宇宙パトロールの予算を使いすぎている事を怒られたのニャ…………」


「えぇ? 予算?」


「お兄たん……地球の時間を巻き戻すには、ある程度のエネルギーが必要だから、それなりのお金が必要なのぉ…………それなのにアタシたちが、じゃんじゃん時間を巻き戻したから、すでに予算が残り少ないんだって……」


「……いや、オレだって、時間の巻き戻しがタダでできるとは思ってなかったよ……だけど、科学が発達した文明では、てっきり安価にできるもんだと…………って言うか、時間を巻き戻せるのが次で最後なら、その後で宇宙テロリストたちが破壊活動を始めたらどうするんだ?」


 オレがそう尋ねると、P2は目を伏せ、小さくつぶやく。


「……………………そうニャったら、地球に被害が出るのには目をつむって、宇宙船からの攻撃で殲滅するのニャ……」


 それを聞いてオレはクラっとする。


「…………と……という事は…………次に時間が巻き戻された後に、宇宙兵器が破壊活動を始めたら……その周りにいる者は、みんな死んで……その死はもう二度と、なかった事にはならない…………という事か……」


「ごめんね、お兄たん……この事を知ったら、きっとショックを受けるだろうから、黙っていたのぉ…………」


「……すまニャい、ダイチ…………できる限りの事はしたんだけど、しょせんはわれわれも、しがないパトロール隊員にすぎないのニャ……」


 そうやって謝る二人を、オレが責める事はできない。


 宇宙パトロールはこれまでもずっと、地球の平和のために戦ってくれたのだ。


 だが、こうなってしまった以上、オレたちは今日の放課後に、どんな事をしてでも六体目を見付けなければいけない。


 しかしまさか、ずっと苦痛に感じていた時間の巻き戻しが、次で最後になるとは…………。

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