第十九章 謎の宇宙病原体『ねこチ○コ』
◆ 登場人物 ◆
ダイチ(大地)
オレ。中学二年生。メガネをかけている。
宇宙テロリストの破壊活動に巻き込まれたり、罠にかかったりして、これまでに三回死んだが、地球の時間が巻き戻されて、生きていた頃に戻る。
ショウビ(薔薇)
オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。
どういう訳か、離れた場所にいてもオレのピンチを察知できるようなのだが…………。
スイショウ(水晶)
オレの幼馴染。同い年。家がとなり。
時間が巻き戻されたので、オレに赤ちゃんはどうやったらできるのか真顔で聞いてきた事や、オレと幼稚園以来のキスをした事もなかった事になってしまった。
P1(ピーワン)
赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
ショウビの下半身に寄生している。
P2(ピーツー)
青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
スイショウの下半身に寄生している。
コハク(琥珀)
オレの中学で生徒指導を担当する先生。
実は痴女で、オレを性奴隷にしようと企んでいる。
タイヨウ(太陽)
小学生の時にショウビの悪いうわさを流していて、オレが投げ飛ばしたヤツ。
それなのに、宇宙テロリストの破壊活動に巻き込まれた時、オレを助けようとしてくれた。
◆ これまでのあらすじ ◆
ビキニ型宇宙人のテロリストに殺されたオレは、同じ宇宙人のパトロール隊員が地球の時間を巻き戻してくれたおかげで、生きていた頃に戻り、そのパトロール隊員たちとともに、テロリスト抹殺作戦を実行する。
その作戦は、オレたちの学校に潜んでいる全ての宇宙テロリストを、事前の調査で特定しておいて、宇宙兵器を出される前に、全員まとめて抹殺してしまおうというものだ。
だが特定した全ての宇宙テロリストを抹殺して、作戦は成功したと思われたのに、見逃したヤツが一体だけいたらしく、オレたちはそいつに殺されて、また地球の時間が巻き戻される。
しかし事前の調査で、全ての宇宙テロリストを特定できたはずなのに、なぜ一体だけ見逃してしまったのか…………。
その日の朝を迎えるのも、ついに五回目。
ベッドで上半身を起こしたオレは、宇宙テロリストの破壊活動によって生徒たちが死んでいくシーンを思い出して、ため息を吐く。
時間の巻き戻しによって、それらの死もなかった事になったから、もう気に病む必要はないのだが、目の前でそれを見たショックは頭から離れない。
とくにオレを助けようとしたタイヨウの死は、なかった事になったからといって、忘れるなんて絶対に無理だ。
だが小学生の時に、妹のショウビの悪いうわさを流していた彼を投げ飛ばして以来、オレも彼もずっと互いを避けるようになっていた。
それなのに、なぜタイヨウはオレを助けようとしたのか。
その理由を確かめない事には、心のモヤモヤが消えない。
時間が巻き戻される前の出来事を憶えていない彼に、どう尋ねていいかは分からないが、とにかく会って話をしなければ…………。
タイヨウの事以外にも、幼馴染のスイショウにキスされた事も何とかしなければいけなかったが、彼の事を放ったままでは他の事が手に付きそうにないから、そっちを先に何とかしよう。
オレはそう決めると、メガネをかけながらカーテンを開け、差し込む日差しを背にして、スマホで今日の予定を確認する。
すると、なぜかそこに宇宙パトロールのP1とP2からの伝言があった。
どうやらその二人は、宇宙船を使ってオレのスマホをハッキングして、それを書き込んだようだ。
しかし、いつもはどんな事も直接会って話すのに、なぜわざわざスマホに伝言を残したのだろうか。
そう思いつつそれを読んでみると、二人は夜が明ける前に宇宙船から呼び出されて、ビキニ本体だけで、宇宙船に戻ったらしい。
そして明日の朝まで地球には帰れないから、それまでの間、オレは自由に行動していいと書いてあった。
つまりオレは今日一日、ビキニハンターとしての任務を一切しなくていい訳だ。
ならば時間を作って、タイヨウと話をしてみよう。
オレはそう考えながら部屋を出て、廊下にいた妹を呼び止める。
「ショウビ。今日は柔道の稽古がある日だが、放課後に予定が入ったから、オレはおじいちゃんの道場には行けなくなった。お前とスイショウの二人だけで行ってくれ」
「ぐ…………スイショウさんと……二人でですか…………」
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
「……いえ…………ところで、どんな予定が入ったのですか?」
そう聞かれて、どう答えたものかと一瞬迷うが、いま言っておかなければ、ショウビを余計に傷付けてしまう事になるかもしれないから、正直に話す。
「実はタイヨウと二人だけで会って、話をしようと思うんだ」
その名前を聞いて妹の身体がこわばる。
タイヨウは小学生の時に学校で、ショウビの本当の父親が浮気相手と失踪した事を、尾ヒレを付けて言いふらしたのだから、そうなるのも無理はない。
「……あいつのせいでお前が、すごくつらい想いをした事は、ちゃんと憶えている。でもどうしても、あいつと話をしなければいけない事ができたんだ…………これ以上詳しい事は言えないんだが……」
「…………兄さん……彼と二人だけで会うのなら、私の事を悪く言われても、絶対に手を出さないと約束してくれますか? 兄さんが暴力行為で処分されるところなんて、見たくありませんから……」
「……ああ、約束するよ…………」
そうやってタイヨウの事をショウビに話した後、登校中にスイショウにもオレが今日の柔道の稽古には行けない事を伝えると、学校に着いてすぐに彼の教室まで行ってその前で待つ。
そしてしばらくすると彼が五人くらいの男子生徒たちといっしょに現れるが、そのほとんどが、オレが風紀委員の当番をしている時に注意をした事がある連中なので、こちらを見る目はあまり好意的ではない。
「タイヨウ。ちょっといいか」
そんな雰囲気の中でオレがそう呼びかけると、彼はちょっと驚きながらも、周りにいた男子生徒たちに教室に入るようにうながして、廊下の窓際に寄る。
「何の用だ?」
「今日の放課後に二人だけで話がしたい」
小学生の時に自分を投げ飛ばした相手が、何年かぶりにそんな事を言ってきたら、断るのが当然だが、どういう訳か彼はあっさりそれを承諾する。
「…………そうか……でも今日は家の用事があって、それを先に済ませないといけない…………放課後になって二時間ほど経ってから、俺の家に来てくれるか」
「分かった。放課後、二時間してから、お前の家だな……」
昔はよくいっしょに遊んでいたので、タイヨウの家の場所は分かっている。
けれど放課後になってから二時間、どこでヒマをつぶそう……。
学校の図書室に寄って本でも読むか…………。
そう思ったオレは、放課後に一人でカバンを持って図書室に向かうが、その途中で、宇宙テロリストの一体目が寄生した文芸部の部長が、取り壊される予定の旧校舎に向かうところを見てしまう。
旧校舎は、時間の巻き戻しがまだ一回目だった時に、ダイナマイトの罠が仕掛けられていた場所だ。
だが以前、文芸部の部長が旧校舎に向かったのは、確か昼休みの終りかけの時刻だった。
そいつが放課後になってから、部室にも行かずに旧校舎に行くパターンは、今までになかったものだ。
それでオレは危険だと分かっていながらも、文芸部の部長を追いかける。
もしかしたら、そいつが行く先で、オレたちがまだ特定できていない六体目の宇宙テロリストが、誰に寄生しているか分かるかもしれないからだ。
ところが、立ち入り禁止の旧校舎に忍び込んで、文芸部の部長を探しながら進んでいると、カバンの中でスマホが振動する。
校内でのスマホの使用は禁止されているので電源を切ったはずなのに、なぜ振動するのか。
不思議に思いながらそれを出すと、操作もしていないのに勝手に通話状態になって、P2の声が聞こえてくる。
「ダイチ! 心配だったから電話してみたニャ! そっちの様子はどうニャ?」
オレはあわててスマホを耳に当てると、その建物のどこかにいるはずの、文芸部の部長に気付かれないように、廊下の柱の陰に隠れて、声をひそめて答える。
「……電話って…………これ普通の通話じゃなくて、オレのスマホをハッキングしているだろ……と言うか、お前ら、電源を切ってあるスマホにも、ハッキングできるのか…………あれ? でもオレは今、旧校舎にいるんだけど、ここには宇宙結界が張ってあって、お前たちの宇宙船からでは、モニターできないんじゃなかったのか?」
「確かに以前は、そこには宇宙結界が張ってあったけど、今回はそんニャものはないニャ……何かの影響で、宇宙テロリストの動きが変わったようだニャ…………それより、ダイチ! まさか一人でヤツらを追っているんじゃないニャ?」
「えーと、一体目のヤツが今までと違う動きをしていたから、つい…………」
「つい、じゃないニャ! すぐにそこから離れるニャ! ヤツらが長くいる場所には、罠とは関係なく、地球人にとって、いろいろとマズい事があるのニャ!」
「え? そうなのか? じゃあ、すぐにここから出るよ……」
そう言いながら入口に戻ろうとしたとたんに、突然、股間が痛みだして、オレは歩けなくなる。
「うっ…………何だ、これ……」
ズボンの上からそこを触ると、なぜかチ○コが、パンパンにはれ上がっているようだ。
「ちょ……マジか…………」
それでオレは、今いるのが立ち入り禁止の旧校舎で、文芸部の部長以外は誰もいないはずだから、カバンを床に置くと、急いでベルトを外してファスナーを下げ、自分のチ○コがどうなっているか見ようとトランクスを下げるが、それを見た瞬間に思わず大声を出してしまう。
「うわっ!」
「ニャんだ、ダイチ!」
「い、いや…………あの……オレのチ○コが…………猫になっているんだけど……」
なぜかは分からないが、オレの股間から猫の上半身が生えていたのだ。
それに触ると、ちゃんと触られた感覚が伝わってきたので、それが自分の身体の一部である事は間違いない。
あと、どうやら股間が痛みだしたのは、猫になったチ○コが、ズボンの中にギュウギュウに押し込められていたからで、それを外に出した事で痛みはすぐに引いた。
しかし何で突然、チ○コが猫になってしまったのか。
そうやってオレが呆然としていると、スマホの向こうでP2が叫ぶ。
「ダイチ! それは宇宙病原体『ねこチ○コ』の仕業ニャ!」
「ええっ? 何だよ、それ?」
「われわれビキニ型宇宙人の中には、まれにそういう宇宙病原体を保菌している者がいるのニャ! ただ宇宙病原体は、われわれの体内から外に出て、地球環境にさらされればすぐに死ぬし、遺伝子的に地球人で感染する者はごくわずかだから、滅多にそんニャ事にはならニャいんだが……」
「おいおい! どうしたらいいんだよ! こんな状態じゃ、オレはどこにも行けないじゃないか! すぐに時間を巻き戻してくれ!」
「大丈夫ニャ、ダイチ! その病気は一時間もすれば治るニャ! だから、それまでしばらく、誰にも見付からニャいようにするのニャ それじゃあ、こっちはまだ会議が残っているから、これで電話は切るニャ!」
「あっ、待て! …………くそっ……まだ聞きたい事があったのに……」
オレは文句を言いながら、電源の切れたスマホをカバンにしまう。
P2からの電話はハッキングされたもので、こちらからかけ直す事ができないからだ。
そしてオレは、その猫を片方の手で支えると、シャツのすそを外に出しながら、もう片方の手でズボンを持ち上げて、自分の股間からそれが生えているのがバレないようにする。
けれど、もしも誰かに見付かったら、どうやって誤魔化そうかと思って後ろを見ると、そこにショウビが立っていた。
「おわっ! …………ショ、ショウビ……お前、おじいちゃんの道場に行ったんじゃないのか?」
「ええ……そのつもりで廊下を歩いていたんですけど……旧校舎へ向かう兄さんの姿が見えて、まさか彼と決闘とかするつもりじゃないかと思って、心配で来てみたんです…………あの……兄さん…………今、お腹のところに何を隠したんですか?」
「う……な、何も隠してなんか…………あっ!」
「まあ、猫ですね! ここに住んでいる猫ですか?」
妹は持っていたカバンを床に置くと、猫を見ようとくっ付いてくる。
「いや、あ……あんまりこの猫を、じろじろ見るんじゃない!」
「? なぜですか? 私にも、もっと見せてください」
「くっ、こら、触っちゃダメだ! この猫は人見知りが激しいんだ!」
「あら、私は、猫がどこを触られたら喜ぶのか、ちゃんと知っているのですよ…………ほら、耳の後ろをなでると、気持ちよさそうにするでしょう?」
「むぅ!」
「あと頭の後ろも、なでるとうっとりします」
「ふぁっ!」
「それから、ほおも、やさしくなでると、うれしそうにしますよ」
「んぐぅ!」
「そしてもちろん、あごの下とか、のどとか、首のところをなでれば、絶対に喜びます!」
「はうあっ!」
「きゃっ!」
「ご……ごめん……ショウビ…………」
「え? 何で、兄さんが謝るのですか? 猫がゲロを吐くのは、よくある事ですよ。自分の毛をなめていると、どうしてもお腹の中に毛が溜まりますから…………でも、このゲロ、何だか変な匂いがしますね……」
手に付いたゲロをハンカチで拭くと、妹は床に置いた自分のカバンを持つ。
「それでは私は、制服がベトベトなので、トイレでジャージに着替えてから、おじいちゃんの道場に行きます。明日もその猫を触らせてくださいね、兄さん」
そう言って去って行くショウビを見ながら、オレは今あった出来事を正当化する理由を必死に考える。
チ〇コがあった場所から生えていても、猫は猫だし、猫なんだからゲロを吐くのは当然で、そのゲロが妹の手や制服にかかったからといって、気にする必要はぜんぜんないはず…………。
……………………という訳にはいかないよな、やっぱり……。
だがスイショウにキスされた事も放ってはおけないのに、ショウビに『ねこチ〇コ』のゲロをかけたなんて、どうすればいいのか…………。
それ以外にも、オレを助けようとして死んだタイヨウの事や、正体の分からない六体目の宇宙テロリストの事もあるというのに…………。
どうするんだよ、オレ……………………。