第十六章 女子生徒の下半身の匂いを調べる方法
◆ 登場人物 ◆
ダイチ(大地)
オレ。中学二年生。メガネをかけている。
ビキニハンターに任命されて、地球外の宇宙船に記憶がバックアップされるようになったので、時間が巻き戻されても、それ以前にあった出来事を憶えている。
ショウビ(薔薇)
オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。
時間が巻き戻されたので、彼女の肩のマッサージのためにオレが電話をかけてやった事や、ふくらはぎマッサージをしてやった事もなかった事になってしまった。
スイショウ(水晶)
オレの幼馴染。同い年。家がとなり。
時間が巻き戻されたので、オレに赤ちゃんはどうやったらできるのか真顔で聞いてきた事や、オレと幼稚園以来のキスをした事もなかった事になってしまった。
P1(ピーワン)
赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
ショウビの下半身に寄生している。
P2(ピーツー)
青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
スイショウの下半身に寄生している。
コハク(琥珀)
オレの中学で生徒指導を担当する先生。
実は痴女で、オレを性奴隷にしようと企んでいる。
タイヨウ(太陽)
小学生の時にオレが投げ飛ばしたヤツ。
その時にショウビの悪いうわさを流していた。
◆ これまでのあらすじ ◆
中学生のオレは女子生徒の下半身に寄生したビキニ型宇宙人のテロリストに殺されてしまうが、同じ宇宙人のパトロール隊員が地球の時間を巻き戻してくれたおかげで、生きていた日に戻る。
その時の成り行きでビキニハンターに任命されたオレは、妹と幼馴染に寄生した宇宙パトロールとともに、地球の平和を守るために宇宙テロリストたちを追う。
そして、ようやくそいつらの一体目を抹殺する事に成功するが、すぐに二体目が破壊活動を始めてしまい、そいつが寄生している女子生徒を見付けるために、オレは学校でチ○コを出すはめになる。
いくら地球の時間が巻き戻されれば、全てがなかった事になるとはいえ、恥ずかしい思いをするオレの精神的なダメージも考えてほしいのだが…………。
朝、妹のショウビといっしょに家を出ると、いつものようにとなりの家の前で幼馴染のスイショウが待っている。
「おはよう、ダイちゃん」
一昨日、スイショウがオレにキスをした事は、地球の時間が巻き戻されて、なかった事になってしまったので、彼女の笑顔はあどけないものに戻っている。
時間が巻き戻されて、いろいろな出来事がなかった事になると、地球外の宇宙船で記憶がバックアップされているオレと、他のみんなとで、気持ちにズレができるのが、けっこうつらい。
それでちょっと感傷的になったオレは、メガネを拭きながらスイショウから目をそらす。
「ああ、スイショウ、おはよう……」
「…………ダイちゃん、何かあったの? 元気がないよ?」
「……何でもない、大丈夫だ…………」
オレはそう返事をしながら、これまでのなかった事になってしまった出来事を思い出す。
早朝の生徒指導室で、P1(ショウビ)とP2(スイショウ)のスカートの中に、液体をかける訓練をした事。
その後でそれを知ったコハク先生のパンツにも液体をかけないといけなくなった事。
旧校舎でダイナマイトの火を消すために、P2(スイショウ)の手でアレを出されそうになった事。
食品工場の冷凍室でほぼ全裸のP2(スイショウ)に抱き付かれた事。
その後でそこに現れたショウビにハサミであそこを切断されそうになった事。
放課後の生徒指導室でコハク先生に肛門を見せられそうになった事。
学校帰りにスイショウに赤ちゃんはどうやったらできるのか真顔で尋ねられた事。
家のブレーカーが落ちて真っ暗になったバスルームで、ショウビに全裸で抱き付かれた事。
その後でショウビに、スマホの振動で肩のマッサージをするからと言われて、なぜか電話をかけさせられた事。
放課後の公園で、P2が離れてノーパンになったスイショウが泣いたので、安心させようとしたらキスされた事。
家でショウビにふくらはぎマッサージをしてやった事。
放課後の学校で、女子生徒に寄生した宇宙テロリストの死体であるビキニを回収するところを、ショウビとコハク先生に見られた事。
その後で二体目の宇宙テロリストに寄生された女子生徒を見付けるために、学校でチ〇コを出すはめになった事…………。
……まぁ、そのほとんどは、そのままだったらと思うとゾっとするものばかりで、学校でチ〇コを出した事なんかは、なかった事になってくれなければ、もう学校に行けなくなっていただろう。
できれば、そういう恥ずかしい思い出は記憶からもなくなってくれると、精神的なダメージが溜まらずに済むのだが…………。
だが、それはそれとして、スイショウにキスされた事は、このままなかった事にしては彼女に失礼だ。
しかしオレの方から彼女にアプローチするとなると、その前に妹に話しておかないとマズい。
ショウビはスイショウの事が大好きだから、オレが彼女と付き合う事になれば、ショックを受けるはずだからだ。
ならば学校が終わって家に帰ったら、すぐに妹に話した方がいいかと考えて、そういえば今日は夕方に両親から連絡が来て、二人とも仕事が忙しくて家に帰れないと知らされるんだったと思い出す。
それで両親がいない時にショウビが怒るような話をするのは危険かもしれないと思い、この事は明日話そうと心に留めておく。
そしてオレは、ビキニハンターの任務について聞こうと思って、近くに人がいないのを確認してから、妹と幼馴染の少女に寄生している宇宙パトロールの二人を呼び出す。
「P1、P2。ところで今日はどうするんだ? 寄生された女子生徒が特定できた二体の宇宙テロリストは、すぐに抹殺するんだろ?」
地球の時間を巻き戻して、宇宙テロリストの抹殺も最初からやり直しになってしまったが、身元が特定できた二体に関しては抹殺するのに手間はかからない。
二体目に寄生された女子生徒の身元も、P2が『ビキニキラー液』をかけた時に生徒手帳を奪って、そこに書かれた名前と生徒番号を宇宙船に伝えて特定できていたからだ。
なので一体目と二体目の宇宙テロリストは、人目さえなければいつでも抹殺できる。
けれどスイショウに寄生しているP2の表情は暗い。
「そうだニャ…………確かに身元が特定できたヤツの抹殺は簡単ニャんだけど……その直後に別のヤツが破壊活動を始めたら、結局、また時間を巻き戻す事になるニャ…………もちろん、新しい女子生徒をそこで特定できれば、その作業は無駄にはならニャいんだけど……」
その言葉に、時間を巻き戻す事のくり返しが精神的にキツくなってきたオレもうなずく。
「確かにこれからは、できるだけ時間を巻き戻さなくても済むようにしたいな…………でもそうなると、むしろ一体目と二体目の事は放っておいて、学校に潜んでいる全ての宇宙テロリストを特定してから、全員を一度に抹殺できるようにした方がいいんじゃないか?」
オレがそう言うと、ショウビに寄生しているP1がため息を吐く。
「……やっぱり、お兄たんも、そういう結論になるよねぇ…………」
「ダイチもそう思うのニャら、もうその作戦でいくしかないニャ……」
「え? ひょっとしてお前たち、最初っからそういう作戦でいく方がいいって分かっていたのか? …………だったら何で、一体目の宇宙テロリストの身元が特定できた後に、そいつを放っておいて、他のヤツを探そうとしなかったんだ?」
「……そ、それは、えーとぉ…………」
「ほ、本当だニャ……な、何でそうしなかったのかニャ……」
「…………おい、お前ら、何かオレに隠しているだろ? ……そう言えばお前らは、以前もオレに何か隠そうとしたな…………あの時は確か、ビキニハンターに任命された地球人が、オレ以外にもいるような事をP2が言って……」
「あ、あれはダイチの勘違いニャ! こ、この地球でビキニハンターにニャったのは、ダ、ダイチ一人だけニャ! そ、それはウソじゃないニャ!」
「そ、そうだよぉ、お兄たん! う、宇宙パトロールのアタシたちが、な、仲間であるお兄たんに、ウ、ウソなんて吐く訳がないよぉ!」
必死に誤魔化そうとする二人を見て、このまま問い詰めても、どうせ何も教えてくれないのだろうと思ったオレは、時間がもったいないので質問を変える。
「…………まあいい……で、一体目と二体目を放っておくとして、そいつらにバレないように他の宇宙テロリストを探すのに、どんな方法があるんだ?」
「そ、それニャら、まずは見た目で探すのが一番ニャ! こっそり女子生徒のパンツを見て、きわどいビキニパンツを履いている女子を特定していくのニャ! 学校にビキニパンツなんか履いて来るのは、ほとんどが宇宙人に寄生されている生徒だから、正解率はかなり高いはずニャ!」
「なるほど…………だけど、どうやって、こっそり女子生徒のパンツを見る?」
「簡単だよ、お兄たん! 女子トイレに隠しカメラを……」
「おいコラ! いくら地球の平和を守るためでも、やっていい事と悪い事があるだろ!」
「ニャ……そんなにカタい事を言うのはダイチだけニャ! 今までの男子は…………」
「ほら! やっぱりオレより前にも、ビキニハンターになったヤツがいるんじゃないか!」
「い、い、いないニャ! ウ、ウ、ウソじゃないニャ!」
「お、お兄たん、ア、アタシたちの言う事は、も、もっと信用してくれなきゃ……」
オレがメガネを直しながらにらむと、二人は目をふせて黙り込む。
「あのな…………お前ら宇宙パトロールにも事情があるだろうから、言えない事があるのは仕方がない……でもオレと組むからには、女子トイレに隠しカメラを仕掛けるなんて方法はダメだ。何かそれ以外に、ビキニ型宇宙人に寄生された女子生徒を識別する方法はないのか?」
そうオレが尋ねると、P2が小さくつぶやく。
「…………匂いかニャ」
「匂い?」
「……お兄たん、アタシたちビキニ型宇宙人の身体は、地球の生物とは根本的に違うから、地球人が嗅いだ事のない特殊な匂いがするんだよぉ! ……ただその匂いはそれほど強くないから、かなり鼻を近付けないと分からなくて……」
「じゃあ、こっそり調べる事には使えないんじゃないか?」
「……ダイチ、実は誰にも知られニャいで、女子生徒の下半身に寄生したビキニ型宇宙人の匂いを調べる方法が、一つだけあるのニャ…………」
「何だよ、それ……変な方法だったら怒るからな……」
…………という会話があった、その日の夜……。
ボールペンほどの小さな懐中電灯を持ったオレたちは、誰もいない真っ暗な学校に忍び込むと、スイショウの教室に行く。
そしてオレが心の中で、ごめんスイショウと謝りながら、彼女のイスの匂いを嗅ぐと、横に立ったP2が尋ねてくる。
「どうニャ、ダイチ! 分かるニャ?」
「……ああ…………確かに、生まれてから一度も嗅いだ事のない匂いが、かすかにする……」
夜の学校で、幼馴染の少女のイスの匂いを嗅ぐなんて、どう考えても正義のヒーローがする事じゃないが、この方法を拒否すれば、女子トイレに隠しカメラを仕掛けるしかなくなる。
それでオレがやるせない気持ちをぐっとこらえていると、P1がのん気に言う。
「じゃあ、お兄たん! 念のために一年生の教室にも行って、アタシのイスの匂いも嗅いでおこうか!」
「いや、もう十分だ……P2のイスの匂いが確認できれば、お前のイスは嗅がなくていい……」
いくら血がつながっていないとはいえ、妹のイスの匂いを嗅いでしまったら、兄としてのオレの精神が崩壊してしまう。
そう思いつつオレがメガネを拭いていると、P2が各教室の座席表がプリントされた紙をくれる。
「ダイチがビキニ型宇宙人の匂いを憶えたのニャら、これから三人で、女子が座るイスの匂いを嗅いでいくニャ! 女子は三つの学年ごとの五クラスに二十人ずついるから、全部で三百人分のイスの匂いを嗅ぐのニャ!」
「マジか……」
「お兄たん! イスの匂いを嗅ぐのなんて、一脚に一分もかからないから、三人で手分けをすれば一時間くらいで終わるよぉ!」
「お……おう…………」
こうしてオレたちは、それぞれが担当する座席の列を決めて、イスの匂いを嗅いでいく。
三人が暗闇の中で、小さな懐中電灯を頼りにイスの匂いを嗅ぐ様子は、どう考えても正気とは思えないが、その時のオレはそんな事よりも、もっと別の事が気になっていた。
それは、たった一時間で、この学校にいる宇宙テロリストに寄生された女子生徒の全員が特定できるのなら、宇宙パトロールの二人は、なぜこの方法を最初から使わなかったのか、という事だ。
こんなに簡単で効率のいい方法があると分かっていながら、それを今まで使わなかったのは絶対におかしい。
さらにこの方法をオレに話す前に、女子トイレに隠しカメラを仕掛けると言ったのもそうだが、どういう訳か宇宙パトロールの二人は、わざと効率の悪い方法から順に試しているようなのも気になる。
しかも二人は、オレをビキニハンターに任命する時にその理由を、宇宙テロリストに寄生された女子生徒を目撃した唯一の地球人だからと言っていたが、この方法を使うなら目撃情報など最初から必要なかったのだ。
ならば、オレをビキニハンターに任命したのは、なぜなのか。
そしてP1とP2は、地球人であるオレに何を隠しているのか…………。