第十四章 初めての宇宙テロリスト抹殺
◆ 登場人物 ◆
ダイチ(大地)
オレ。中学二年生。メガネをかけている。
宇宙テロリストに二度も殺されたが、時間が巻き戻されて、生きていた頃に戻る。
ショウビ(薔薇)
オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。
ふくらはぎマッサージをしてあげたら、明日もやってほしいと言われたが……。
スイショウ(水晶)
オレの幼馴染。同い年。家がとなり。
幼稚園の時には百回くらいキスをしたが、それ以来初めてのキスをした。
P1(ピーワン)
赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
ショウビの下半身に寄生している。
P2(ピーツー)
青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
スイショウの下半身に寄生している。
コハク(琥珀)
オレの中学で生徒指導を担当する先生。
実は痴女で、オレを性奴隷にしようと企んでいる。
タイヨウ(太陽)
小学生の時にオレが投げ飛ばしたヤツ。
その時にショウビの悪いうわさを流していた。
◆ これまでのあらすじ ◆
ビキニ型宇宙人のパトロール隊員に寄生された妹と幼馴染によって、ビキニハンターに任命されたオレは、そいつらとともに、女子生徒に寄生した宇宙テロリストを抹殺するための準備を進める。
それで女子生徒を宇宙テロリストから解放した後に、その子に履かせるためのパンツを盗みに行くが、そこでいろいろあって、オレは幼馴染の少女にキスされる。
それを見た妹が、わなわなと震えて走り去ったので、てっきり怒られるかと思ったが、家に帰るとどういう訳か、ふくらはぎマッサージを頼まれただけで終わる。
その事には何かが引っかかるものの、これで準備は整ったので、今度こそ宇宙テロリストを抹殺できるはずだが…………。
宇宙パトロールのP2が、宇宙テロリストに寄生された女子生徒のパンツを盗み、オレが幼馴染のスイショウにキスされた日の翌朝。
いつものように妹のショウビと二人で玄関を出ると、となりの家の前で待っていたスイショウが、オレを見て真っ赤になる。
その少女の事が大好きな妹なら、そんな様子を目にして不機嫌になるのが普通なのに、今日はすました顔でわずかに余裕の笑みさえ浮かべているのはなぜなのか。
さらにショウビはどういう訳か、それから学校へ向かう間も、昨日の事については一言も口にしない。
幼馴染の少女がオレにキスしたというのに、妹がその事に無関心でいるのは、どう考えても変だが、こちらから話を振って問題をこじらせたくはないので、オレもそれについては触れないでおく。
そして当たり障りのない話をしながら歩いていたオレは、ふとショウビの肌がいつもよりつやつやな事に気が付いて、メガネを直しつつちょっと考える。
ひょっとしてそれは、昨日のふくらはぎマッサージの効果なのだろうか……。
だが、あんなに適当にもんだだけなのに、いきなりこれほどの効果があるとは…………。
そう言えば今日も帰ったらマッサージをする約束をしていたな……と思ってから、その前にもっと重要な事があるぞと、オレは気を引き締める。
今日はいよいよ放課後に、オレを二度も殺したあの宇宙テロリストを抹殺するのだ。
それでオレは、その日は全ての授業が終わるまで普通の中学生らしく、おとなしく過ごすと、放課後になってから宇宙パトロールの二人を呼び出して、校庭の茂みから部室棟を見張り、文芸部の部長である宇宙テロリストに寄生された女子生徒が一人になるのを待つ。
そうやっていると、やがて最終下校時刻が近付いて、春の日差しが西に傾き、部室棟の窓に赤く染まった空が映る。
今日までいろいろあったので、ものすごく日にちが進んだように錯覚してしまうが、宇宙テロリストの破壊活動でオレが殺されて地球の時間が巻き戻されてから、まだ三日しか経っていないのだ……。
いや、一回目の巻き戻しの後に、わずか半日でオレが再び殺されて、二回目の巻き戻しがされたから、正確にはあれから三日半が経っているのか…………。
オレがそんな事を考えていると、何人かの生徒が部室棟から出てきて、渡り廊下を通って本校舎に入り、それを見ながらスイショウに寄生したP2が口を開く。
「これでもうあの部室棟に残っているのは、ターゲットの女子生徒だけニャ 念のためにもう五分だけ待って、誰も部室棟に近付かニャいのを確認したら、いよいよ中に入るニャ」
それを聞いてオレもつぶやく。
「これでやっと一人目か…………宇宙テロリストが地球に何人潜入しているのか分からないけど、次のヤツからは、もっとスピーディーに抹殺していきたいな……」
しかしオレのその言葉に、ショウビに寄生したP1が口をとがらせる。
「お兄たん。次の事を考えるのは、まだ早いよぉ。まずはあそこにいる宇宙テロリストを抹殺する事に専念しなきゃあ」
「そうだな……ごめん。もっと気合いを入れるよ…………」
そして五分後、P2の合図でオレたちは動き出す。
あの女子生徒がいる文芸部の部室は三階だが、その建物には出入口と階段が二つあるので、オレたちは二手に分かれ、P2が一人で建物の右へ向かうのを横目で見ながら、オレはP1を連れて左へ走る。
けれどここで予定外の事が起きてしまう。
オレが部室棟に入った直後に、すぐ後ろを走っていたP1が、中庭にいたコハク先生に呼び止められてしまったのだ。
「ショウビ。ちょうど良かった。このダンボール箱を運ぶのを手伝ってくれ」
その声を聞いて、オレはとっさに部室棟の出入口の陰に隠れる。
幸いオレは気付かれなかったようだが、P1は先生の前でアニメキャラみたいなしゃべり方をする訳にはいかないので意識を引っ込め、ショウビ本人の意識が表に出てしまう。
「…………あっ……先生? ……私はここで何をしていたんでしょうか…………」
「何だ、ショウビ。春だから、ボーっとしていたんじゃないのか? いいから手伝え」
「……兄さんと、何かやる予定だったような気もしますが…………分かりました……」
そう言ってP1が寄生した妹が、先生の方へ歩いて行ったので、オレは一瞬どうするか迷うが、すぐにあらかじめ打ち合わせていたとおりに動こうと決める。
オレたちの様子は地球外にある宇宙船がモニターしているので、P1が予定していた行動から外れた事は、P2にも伝わっているだろうし、もしも作戦を中止するなら、P2がオレを止めるはずだから、それまでは予定どおりに動こうと思ったのだ。
それでオレは廊下の窓よりも身体を低くして、外から見えないように階段まで行くと、足音を立てずに二階と三階の間にある踊り場まで行く。
そこで待ち伏せをして、階段を降りて来た女子生徒のスカートの中に、『ビキニキラー液』をかけるという、ビックリするくらい単純な作戦だ。
オレはポケットの中から水鉄砲を出すと、手すりの陰に隠れながらそれを構える。
するとしばらくして、ドアが開く音と、誰かが廊下に出て来る音が三階で響く。
もうここに残っているのはあの女子生徒だけだとP2が言っていたから、おそらくそれがターゲットだろう。
しかしドアにカギをかける音がした後で、その足音はオレから遠ざかっていく。
という事は、そいつはP2のいる方の階段に向かった訳か……。
そう思ったオレは、ついホっとしてメガネを拭く。
いくら地球の平和のためでも、女子生徒のパンツに液体をかけて、それを脱がせる行為には、まだちょっと抵抗があったからだ。
この三日半でいろいろあったので、その程度の行為でおたおたする事はなくなったものの、地球の社会で犯罪になるような行為をするのは、できれば避けたい。
オレがそう考えていると、突然、三階の廊下を誰かが走って来る音がして、それと同時にP2の声も聞こえてくる。
「こら! 待つニャ!」
……どうやらP2は、宇宙テロリストを抹殺しそこなったようだ……。
こんなに失敗ばかりで、なぜあいつは宇宙パトロールをクビにならないのだろうか…………。
そう思いながら、ため息を吐いたオレは、手にした水鉄砲を構えなおし、女子生徒が階段を駆け降りて来る音にタイミングを合わせて、手すりの陰から飛び出す。
すると体内に分泌されたアドレナリンのせいか何か分からないが、女子生徒のスカートがひらめくのがスローで見えて、そのすき間にある黒いビキニが目に焼き付く。
そして次の瞬間、オレの水鉄砲から発射された『ビキニキラー液』が、窓から差し込む夕日を反射してキラキラ光りながら、そのビキニにかかり、女子生徒がビクっとなって階段を踏み外して、オレの方に倒れてくる。
それでオレがあわてて水鉄砲を捨てて、その女子生徒の身体を受け止めると、上の階の廊下にすべり込んだP2が叫ぶ。
「そのビキニを脱がせて、代わりにこれを履かせるニャ!」
オレはP2が投げた、丸めたパンツを受け取ると、女子生徒の身体を階段の踊り場に寝かせて、スカートの中を見ないように注意しながらビキニを脱がせ、代わりのパンツを履かせる。
けれど誰かのパンツを脱がせたり履かせたりするなんて初めての事だから、意外と手こずって、P2から、
「だから事前にちゃんと練習した方がいいと、あれほど言ったのニャ!」
と言われるが、オレは、
「うるさい! 妹や幼馴染の身体を使ってパンツを脱がせる練習なんて、できる訳ないだろ!」
と言い返す。
そして何とか苦労してそれをやり遂げたオレは、思わず手に持った宇宙テロリストの死体である黒いビキニを高く掲げて叫ぶ。
「やったぞ、P2! 宇宙テロリストの抹殺と、その死体の回収に成功したぞ!」
「よくやったニャ、ダイチ! さすがは、わたしたちが選んだ、ビキニハンターニャ!」
ついに自分を殺した宇宙テロリストの抹殺に成功したオレは、ものすごい達成感で、ビキニを手にしたまま大声で笑う。
「ハハハハハハ…………」
ところがその時、階段の下でドサっという音がして、二人の人間の声が聞こえてくる。
「…………ダイチ副委員長……キサマ、風紀委員のくせに、そこで何をしているのだ…………」
「……兄さん…………こんな事をする前に、なぜ私に相談してくれなかったのですか……」
見ると二階の廊下に、コハク先生とショウビが立っていた。
二人の間の床にはダンボール箱が落ちていたので、どうやら、それをここまで運んでいたようだ。
その二人から見たオレは、女子生徒を押し倒して脱がせたパンツを手に持って喜んでいる、明らかな性犯罪者でしかない…………。
すると三階にいながら、どういう状況かを察したP2が、オレに向かって小声でささやく。
「ダイチ。とにかく逃げるのニャ」
「え? こんなところを見られたら、逃げてもどうにもならないだろ。すぐに時間を巻き戻してくれよ!」
「なに言ってるニャ。せっかく宇宙テロリストを抹殺したのに、時間を巻き戻すニャんて、もったいないニャ。とにかく逃げて言い訳を考えるニャ」
「いや、言い訳って…………これを、どう言い訳するんだよ!」
「……何だ、ダイチ副委員長。上にも誰かいるのか?」
「…………ああ、兄さん……私がもっと早く気が付いていれば…………」
そう言いながら、先生と妹が階段を上がって来る。
「早く逃げるのニャ、ダイチ!」
「バカ! ここで逃げたら完全に犯罪者だろ! 早く時間を巻き戻せ!」
「ほう……ダイチ副委員長…………キサマ、この状況で、これが同意の上での行為だと言い張るつもりか……」
「……やはり一昨日の夜は、兄さんが寝ている時に、部屋に忍び込むべきでした…………それなのに私は、兄さんに電話をかけさせただけで満足していたなんて……」
「くそ! P2! 早く時間を巻き戻せって、言ってるだろ!」
「ダメニャ! 誰も死んでニャいのに、時間を巻き戻すニャんて…………」
P2のその言葉の途中で、大地震が起こったかのように校舎がドーンと大きく揺れてガラスが次々と割れ、オレたちは床に手をついて踏ん張る。
「……こ、これは…………地震じゃないぞ!」
「ニャ…………別の宇宙テロリストが、われわれの行動を察知して、破壊活動を始めたニャ!」
その言葉と同時に、窓の外の夕日に照らされた校庭が陥没して、チェーンソーをいくつも付けた巨大な機械が現れる。
だがオレは不謹慎ながら、それを見て胸をなでおろす。
これで地球に被害が出れば、時間が巻き戻されるに違いない……。
また最初からやり直すのは面倒だけど、性犯罪で罰せられるよりはマシだ…………。