第十三章 ふくらはぎマッサージの正しいやり方とは
◆ 登場人物 ◆
ダイチ(大地)
オレ。中学二年生。メガネをかけている。
ビキニ型宇宙人のテロリストと戦うビキニハンター。
ショウビ(薔薇)
オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。
スマホの振動で肩のマッサージをすると言って、オレに電話をかけさせるような、よく分からない行動をする時がある。
スイショウ(水晶)
オレの幼馴染。同い年。家がとなり。
幼稚園の時には百回くらいキスをしたが、それ以来初めてのキスをした。
P1(ピーワン)
赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
ショウビの下半身に寄生している。
P2(ピーツー)
青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
スイショウの下半身に寄生している。
コハク(琥珀)
オレの中学で生徒指導を担当する先生。
実は痴女で、オレを性奴隷にしようと企んでいる。
タイヨウ(太陽)
小学生の時にオレが投げ飛ばしたヤツ。
その時にショウビの悪いうわさを流していた。
◆ これまでのあらすじ ◆
ビキニハンターのオレは、ビキニ型宇宙人のパトロール隊員に寄生された妹と幼馴染とともに、女子生徒に寄生した宇宙テロリストを抹殺するための準備を進める。
そいつを抹殺して、死体を回収すれば、寄生されていた女子生徒が意識を取り戻した時に、ノーパン状態でパニックになってしまうので、本人のパンツをあらかじめ用意しておくのだ。
それで女子生徒の家にパンツを盗みに行くが、宇宙パトロールが離れてノーパン状態になった幼馴染の少女の方が取り乱してしまい、それを静めようとしたオレは、その少女にキスされてしまう。
そして気が付くと、いつの間にか、オレたちの前に妹が立っていて…………。
公園のベンチに座った幼馴染のスイショウとオレの前で、妹のショウビが身体をわなわなと震わせる。
感情があまりにも高ぶった時は、その本人の意識が、寄生しているビキニ型宇宙人の意識を押し退けて出るので、今はP1ではなく、ショウビ本人の意識が表に出ているはずだ。
何しろ妹はたった今、自分が大好きな幼馴染の少女に、兄であるオレがキスしているところを見てしまったのだから。
きっとショウビは、スイショウとオレが付き合う事になったら、自分がのけ者にされると思ってショックを受けているのだろう。
昔から妹は、オレが幼馴染の少女と二人でどこかに行こうとすると、自分も行きたいと言って必ず付いて来ていた。
それほどショウビは、スイショウの事が大好きなのだ。
だからオレは、幼馴染の少女の手が首に絡まった状態で、とにかく妹を安心させようとする。
「ショウビ。お前がスイショウの事を大好きなのは、オレだってちゃんと分かっている。スイショウといつもいっしょにいたいのなら、オレはそれを邪魔したりしないから……」
だがその言葉の途中で、妹は後ろを向いてダっと走り出す。
「ショウビ!」
本当ならすぐに追いかけなければいけないところだが、寄生していたP2が離れてノーパン状態で、ついさっきまで泣いていた幼馴染の少女を、ここで放り出す訳にはいかない。
それでオレがスイショウの手を振りほどけずに困っていると、ショウビの姿はあっという間に見えなくなって、思わずため息が出る。
やれやれ。
帰ったら何とかして、妹をなだめなければ…………。
そう思っていると、スイショウの側のベンチの端に、P2のビキニ本体がふわりと乗って、パンツを落とす。
どうやら宇宙テロリストに寄生された女子生徒の家から、盗み出すのに成功したようだ。
その動くビキニを見て、幼馴染の少女が小さく悲鳴を上げて、オレの首に絡めていた手を、さらに引き寄せる。
「きゃ!」
しかしP2は、そんなスイショウの反応など気にもせず、するりとベンチの下に降りると、ネズミのような素早さで、その少女の両脚を上ってスカートの中にシュっと入ってしまう。
「あっ!」
そして次の瞬間には、スイショウの意識を乗っ取ったP2が、オレをにらむ。
「何をやっているニャ、ダイチ! あの家を見張るという任務も忘れて、幼馴染とチューしていたニャんて、ビキニハンターとして失格ニャ!」
「えっ! お前もそれを見ていたのか?」
「わたしは自分の任務を遂行していたんだから、見ている訳ないニャ! ダイチの行動をモニターしている宇宙船からの連絡で聞いたのニャ! そんニャ事で地球の平和を守れるのかニャ!」
そう言われたオレは、メガネを拭きながら謝る。
「ごめん、P2。あの家をちゃんと見張っていなかった事は謝る。本当に悪かった……でも、お前のビキニ本体が離れたら、ノーパンになったスイショウがパニックになるって事を、お前だってうっかり忘れていただろう?」
「ニャ…………確かにわたしも、宇宙テロリストを抹殺する段取りばかり考えて、この子の事はぜんぜん考えてなかったニャ……」
「……とにかく、あの女子生徒のパンツが手に入ったなら、さっさとここを離れよう」
オレがそう言うと、P2はベンチの上のパンツをカバンにしまって立ち上がり、二人で公園を出る。
「……ところで、ダイチ…………この子と付き合うのニャら、その前にダイチの妹をちゃんとあきらめさせた方がいいニャ……でニャいと、この子がダイチの妹から刺されてしまうニャ!」
「え? 何の話だ? オレとスイショウが付き合ったからって、何でスイショウがショウビに刺されるんだ? ……オレが刺されるのなら、まだ分かるが…………」
「ダイチこそ、何言ってるニャ! ダイチの妹は、ダイチの事が好きニャんだから、ダイチを刺す訳がないニャ!」
「何だよ、それ? ショウビはオレの事なんかよりも、スイショウが好きなんだぞ」
「ニャニャ? そうニャのか? てっきりダイチの妹は、ダイチが好きで、恋敵であるこの子の事が嫌いニャんだと思っていたニャ!」
「おいおい、P2……ショウビがスイショウの事を恋敵と考えるなんて、あり得ないだろ…………そもそも妹が兄を好きになるのは、アニメの中だけだ……って、前にP1にも同じ事を言ったな…………お前らいい加減に、現実とアニメは違うって事を分かれよ……」
「ニャんだって! 今まで、ずっと勘違いしていたニャ!」
「……まぁ、どっちにしてもショウビには、オレがスイショウと付き合うのを、ちゃんと納得してもらわないといけないんだけどな…………」
そんな話をしながら、オレたちはとなり合うそれぞれ家まで帰り、P2が家に入るのを見てから、オレも自分の家に入る。
そして二階に上がって自分の部屋の前まで行くと、となりの部屋のドアが開いて、ジャージに着替えたショウビが顔を出す。
「…………兄さん、ちょっと私の部屋まで来てくれますか?」
「ああ、ショウビ、スイショウの事だろ? オレもその話がしたかったんだ……」
しかし妹は、それを否定する。
「いいえ、そんな事はどうでもいいです……それよりも、兄さん。母さんが仕事から帰って来るまでに、まだ時間がありますから、少し手伝ってほしい事があるのです」
「え? スイショウの事がどうでもいいって?」
オレはその言葉に驚き、持っていたカバンを自分の部屋のベッドの上に投げ込むと、すぐに妹の部屋に行くが、そこのアロマの香りの強さに思わずむせる。
「……おい、ショウビ…………この部屋の香り、いくら何でもキツすぎないか?」
「あら、そうですか……すぐに慣れますから、ちょっと我慢してください」
ショウビはそう言いながらベッドに腰かけると、オレにイスに座るようすすめる。
「ところで、兄さん……ふくらはぎマッサージというものを知っていますか?」
「……聞いた事はあるが…………詳しい事は何も知らないぞ……」
何でこのタイミングでそんな事を聞くのだろうと思って、オレが眉根を寄せると、妹は真剣な顔で言う。
「私のふくらはぎを、マッサージしてもらえませんか?」
「ええ? …………いや、そう言われても、どうやればいいか分からないし……」
「そんなに難しく考える事はありません。ふくらはぎを、ただもんでくれればいいだけです。私は握力が弱いので、自分でやるとすぐに手が疲れてしまうのですが、十分以上、続けたいので、兄さんにお願いしているのです」
「……そうか…………まぁ、ふくらはぎをもむくらい、別に構わないが……」
「でも、ちょっと恥ずかしいので、兄さんだけ、アイマスクを付けてくれませんか?」
「? 何で恥ずかしいんだ? スカートならともかく、お前は今、ジャージを着ているじゃないか?」
「実は私は最近、ヨガもやっていて、そのポーズをしている時に、マッサージをしてほしいのです」
「? ? お前がヨガのポーズをしている時に、そのふくらはぎをオレがマッサージするのか? ……何か変じゃないか?」
「そんな事はありません。私の脳内シミュレーションでは、この組み合わせは完璧です」
「…………お前がそう言うのなら、別にいいが……」
そう答えたオレは、メガネを外して妹の机の上に置き、渡されたアイマスクを付ける。
「では、兄さん。私はベッドの上で脚を上げて、ちょうど兄さんが手をまっすぐ前に伸ばしたところに、ふくらはぎが来るポーズをとりますので、手を前に出してください」
「……こうか?」
「ええ……そうです……」
ジャージの布越しではあるが、アイマスクを付けて、何も見えない状態で妹のふくらはぎに触ると、何だか落ち着かない気分になる。
「…………えーと……これは本当に、ふくらはぎなんだよな?」
「……もちろん……ふくらはぎですよ……兄さん…………それ以外の何だと思ったのですか?」
「ごめん…………ちょっと、変な事を考えてしまって……」
「まぁ、兄さん、想像力がたくましすぎますね…………それでは、そこをマッサージしてください」
「こんな感じか?」
「……ええ…………では、私は……ちょっとヨガに……意識を集中させるので……しばらく、何も答えられません…………身体が痙攣したようになるかもしれませんが……何も心配はいりませんので……私がやめてほしいと言うまで…………兄さんは、絶対に……マッサージをやめないでくださいね…………」
「? ? ? ……何でヨガをしていて、身体が痙攣するんだ?」
けれど、それから妹は何も答えなくなって、アイマスクをして何も見えないオレは仕方なく、ただひたすら妹のふくらはぎをもみ続ける。
そして十分くらいすると、本当に妹の身体が痙攣したようになったので、オレは心配になって聞く。
「おい、ショウビ、大丈夫か?」
「…………大丈夫です……兄さん…………もうマッサージを……やめてもいいですよ…………」
それでオレは、アイマスクを外してメガネをかけると、妹はベッドでぐったりしている。
「え? 本当に大丈夫なのか、ショウビ?」
「はい……心配はいりません…………」
「でも、お前、ものすごく息が荒いぞ……」
すると玄関が開く音がして母の声が聞こえてきたので、オレは妹に尋ねる。
「ショウビ、母さんを呼んでこようか?」
「ダメです! 母さんが来たら、匂いで分かって…………いえ……私は何ともないので…………母さんには……内緒にしてください…………」
「? ? ? ? ……お前がそう言うのなら、母さんには黙っておくが…………」
オレがそう言って部屋を出ようとすると、妹がオレの制服のすそを引っ張る。
「…………兄さん……明日もマッサージをお願いできますか?」
「いや、オレは構わないけど…………」
何かがすごく引っかかるものの、その時の妹が、ものすごく満たされた顔で微笑んだので、オレはつい明日も同じ事をする約束をしてしまう。
しかし、ふくらはぎマッサージって、こんなやり方で本当に正しいのだろうか…………。