第十二章 ノーパンで泣く幼馴染の少女
◆ 登場人物 ◆
ダイチ(大地)
オレ。中学二年生。メガネをかけている。
ビキニ型宇宙人のテロリストと戦うビキニハンター。
ショウビ(薔薇)
オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。
スマホの振動で肩のマッサージをすると言って、オレに電話をかけさせるような、よく分からない行動をする時がある。
スイショウ(水晶)
オレの幼馴染。同い年。家がとなり。
中学生にもなって、赤ちゃんがどうやったらできるのかを知らないという……。
P1(ピーワン)
赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
ショウビの下半身に寄生している。
P2(ピーツー)
青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
スイショウの下半身に寄生している。
コハク(琥珀)
オレの中学で生徒指導を担当する先生。
実は痴女で、オレを性奴隷にしようと企んでいる。
タイヨウ(太陽)
小学生の時にオレが投げ飛ばしたヤツ。
その時にショウビの悪いうわさを流していた。
◆ これまでのあらすじ ◆
妹と幼馴染に寄生したビキニ型宇宙人のパトロール隊員によって、ビキニハンターに任命されたオレは、そいつらと共に、宇宙テロリストに寄生された女子生徒を探す。
だが相手の罠にはまってばかりで、その任務はなかなか進まず、風紀委員だったオレは、生徒たちの校則違反を見張る当番の時に、その女子生徒を見付けようと考える。
そして当番の日、登校する生徒たちの中には、小学生の時に妹の悪いうわさを流したヤツなんかもいるので、オレは妹を安心させるためにその手を握りつつ、油断なく目を光らせる。
この妹のためにも、早く宇宙テロリストを抹殺して、平穏な日常を取り戻すのだ…………。
登校する生徒たちの校則違反を見張る当番を始めてから二十分くらいが経った頃、校門に向かって歩く者たちの中に、ようやく宇宙テロリストに寄生された女子生徒の顔を見付けたオレは、握っていた妹の手を放して、メガネを直しながらその者を止める。
「すみません。カバンを開けて、中を見せてもらえますか? あと、生徒手帳も見せてください」
その生徒は校則に違反しているようには見えなかったが、まわりの生徒たちをビビらせるために、ぜんぜん怪しくない者の持ち物検査をわざとする事もたまにはあるので、オレは堂々とそう言う。
相手は胸のリボンが黄色い三年生だったので、妹のショウビも幼馴染のスイショウもちょっと引くが、地球の平和のためだから仕方がない。
それでオレは、その女子生徒のカバンの中をショウビとスイショウに確かめさせつつ、生徒手帳に書かれた氏名と生徒番号を記憶する。
宇宙パトロールの宇宙船から学校のパソコンにハッキングすれば、その情報を元に、所属している部活や住所や家族構成なんかも分かるだろう。
そして昼休み、いつものように妹と幼馴染の少女といっしょに、中庭のベンチで弁当を食べたオレは、宇宙パトロールの二人を呼び出して尋ねる。
「P1、P2。あの女子生徒に寄生している宇宙テロリストを、いつどこで抹殺するんだ?」
するとスイショウに寄生したP2が考え込む。
「そうだニャ…………宇宙船の方で調べてもらった情報では、あの女子生徒は文芸部の部長で、いつも遅くまで部室に一人で残っているから、そこを狙えば、誰にも見られずに任務を遂行できるんじゃないかニャ……」
「そんなふうに、こっそりやるのは、なぜだ? この前、そいつが破壊活動をした時、お前たちは朝の通学路で、大勢の女子生徒のパンツに堂々と液体をかけていたじゃないか?」
オレのその疑問に、妹のショウビに寄生したP1が答える。
「あのね、お兄たん! あの時はすでにこの街が破壊されて、絶対に時間を巻き戻さないといけない状況だったでしょお! アタシたちが、地球人に見られるのを気にせずにハデに動くのは、そんな時だけだよぉ!」
「そういう事ニャ! われわれ宇宙パトロールの存在は、地球人に知られる訳にはいかニャいから、普段の活動は、とにかく、こっそりやるのニャ! 苦労して宇宙テロリストを抹殺したのに、地球人に見られて時間を巻き戻す事にニャったら、同じ事をもう一度しニャいといけないからニャ!」
「なるほど……じゃあ今日は、放課後、他の生徒がいなくなるのを待って、誰にも見られないように、そいつを抹殺するんだな」
だがP1がそれを否定する。
「それは明日だよ、お兄たん! その前に、あの女子生徒の家に忍び込んで、本物のパンツを盗み出しておかなきゃいけないのぉ!」
「はぁ? 何のために、そんな事をするんだ?」
「ダイチ! 宇宙テロリストは、『ビキニキラー液』をかけて抹殺するだけじゃダメニャ! テロリストの仲間に蘇生されニャいように、死体をちゃんと回収しニャいといけないのニャ! でもそうニャると、あの女子生徒がノーパンで意識を取り戻して、パニックになるニャ!」
「あっ、そうか…………宇宙パトロールとしては、騒ぎが大きくなるのは避けたいんだよな……それで宇宙テロリストの死体を回収した後に、ちゃんと本人のパンツを履かせておく訳か…………だけどそんなの、そのへんで買った新品のパンツでもいいんじゃないのか?」
「本人のパンツを盗み出す暇がニャい時は、そうするニャ! でも準備をする時間があるニャら、寄生されていた人間が違和感を覚えるような物は、ニャるべく残さないようにするニャ!」
「……まぁ…………確かに本人のパンツを履かせておけば、絶対に怪しまれないからな……」
という訳でその日の放課後、その女子生徒の家まで行くと、すぐ前に公園があったので、オレたち三人はそこのベンチに座って、さりげなく様子をうかがう。
宇宙船からの情報では、その女子生徒の両親はともに働いていて、彼女が小学生の時は、近所に住む祖母がいつも家にいたようだが、中学生になってからはそんな事もなく、兄妹もいないので、彼女が部活を終えて帰って来るまで、誰もいないという事だった。
あとその家は、民間の警備会社による防犯設備がかなり厳重に仕掛けられていたようだが、宇宙船からのハッキングで、今だけ一時的に無効化してあるそうだ。
「…………でもいくら地球の平和のためでも、他人の家に勝手に侵入して、パンツを盗むっていうのは、さすがに抵抗があるんだが……」
「心配するニャ、ダイチ! 家の中には、わたしのビキニ本体だけで侵入するニャ! パンツ一枚を盗むだけニャら、人間の身体がニャくてもできるからニャ! だけど、ここのおばあちゃんが家に来たら、ちょっと面倒だから、外を見張っていてほしいニャ!」
「分かったよ、P2」
「じゃあ、お兄たん、アタシは裏口の方を見張るから、こっちは任せたよぉ!」
そう言って、P1が寄生したショウビが女子生徒の家の裏の方へ歩いて行くと、ベンチに座ったスイショウのスカートの中から、P2の本体である青いビキニがするりと降りて、水中を泳ぐ魚のように、地面の上をシュルルと移動する。
ビキニ型宇宙人の本体が動く様子は、なかなかシュールで思わず目が点になるが、P2はネコのように素早く道路を渡って、あっと間に女子生徒の家の中に消えたので、誰か見ていたとしても、きっと気のせいだと思っただろう。
ビキニが勝手に動いて地面を移動していたなんて、まともな人間にはとても受け入れられない光景だからだ。
そしてオレがメガネを直しつつ、女子生徒の家の玄関を見張っていると、となりに座っていたスイショウが、寄生していたP2が離れた事で意識を取り戻してキョトンとなる。
「…………あれ? ダイちゃん、私たち何で公園にいるんだっけ?」
しまった。
この状況を誤魔化すためのウソを、考えておくのを忘れていた。
それでオレは、しどろもどろになる。
「あ……えーと、それはだなぁ…………」
しかしスイショウは、そんな事よりも、もっと大変な事に気が付いて、あわててスカートを押さえる。
「あれれれ? 私、パンツ、履いていないよ! 何で?」
ああ、そうだった。
パンツの代わりに下半身に寄生していたP2が離れたら、ノーパン状態のスイショウが、ビックリするのは当たり前だ。
さっき、女子生徒がノーパンで意識を取り戻したらパニックになるって話をしたばかりなのに、何でスイショウがこうなる事を予測していなかったのか。
この事態に、どうすればいいのか分からなくなって、思わず挙動不審になるオレ。
「あ、い、いや、スイショウ、と、とにかく落ち着け…………」
けれど自分自身が落ち着いていないのに、そんな事を言っても効果がある訳がなく、スイショウの目から涙がポロポロこぼれ出す。
「くそっ、スイショウ、お願いだから泣くな……」
ところが、その瞬間にオレは、同じような事が、ずっと昔にもあった事を思い出す。
それはオレとスイショウが、まだ幼稚園に通っていた頃、オレの父が再婚してショウビが家に来るよりも、もっと前の事だ。
その日、祖父に連れられて公園に来たオレは、スイショウがいたグループと遊んでいて、ふと、彼女の姿が見えない事に気が付いた。
それから、みんなでスイショウを探したが、すぐには見付からず、大人たちも含めて大騒ぎになったのを、かすかに憶えている。
確かその時、公園の茂みの中にいたスイショウを見付けたのがオレで、そこから逃げようとした男を、オレの祖父が取り押さえたんだったっけ…………。
だが、そばに行ったら、スイショウが泣き出したので、オレはとても困ったんだ……。
その時に何があったのか、幼かったオレにはぜんぜん分からず、そんな事があったのも今まですっかり忘れていた。
もしかしたら、スイショウが学校で持っていた小さなバッグの中にスタンガンが入っていた事や、赤ちゃんがどうやったらできるのか彼女の母親が教えるのをためらっているのも、その時にあった事と関係あるのかもしれない。
それなのにオレは、その時の事を忘れて、スイショウを怯えさせてしまったのだ。
「ごめん、スイショウ……もう絶対、お前に怖い思いはさせない…………何があっても絶対に守る……だから、泣かないでくれ…………」
「…………約束してくれる? ……ダイちゃん…………」
「約束するよ……」
するとスイショウは、オレに抱き付いて、キスしてくる。
スイショウとは幼稚園の時に、百回くらいキスしたと思うが、それ以降は全くした事がなかったので、一瞬、頭の中が真っ白になる。
しかし今までは、昼間から制服を着たままで中学生がキスしているのを見て、なんてバカなヤツらだと思っていたが、まさか自分がその仲間になるとは……。
そう思いながら唇を離すと、オレたちの前に、ショウビが仁王立ちしていた…………。