第十一章 スマホの振動で妹がする事
◆ 登場人物 ◆
ダイチ(大地)
オレ。中学二年生。メガネをかけている。
ビキニ型宇宙人のテロリストと戦うビキニハンター。
ショウビ(薔薇)
オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。
オレがズボンに入れていたテレビのリモコンを触ったが、それはリモコンだから問題ない。
スイショウ(水晶)
オレの幼馴染。同い年。家がとなり。
中学生にもなって、赤ちゃんがどうやったらできるのかを知らないという……。
P1(ピーワン)
赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
ショウビの下半身に寄生している。
P2(ピーツー)
青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。
スイショウの下半身に寄生している。
コハク(琥珀)
オレの中学で生徒指導を担当する先生。
実は痴女で、オレを性奴隷にしようと企んでいる。
タイヨウ(太陽)
小学生の時にオレが投げ飛ばしたヤツ。
その時にショウビの悪いうわさを流していた。
◆ これまでのあらすじ ◆
ビキニハンターのオレは、宇宙パトロールに寄生された妹と幼馴染と共に、宇宙テロリストに寄生された女子生徒を探すが、その日も見付からないまま家に帰る。
すると家のブレーカーが落ちて、真っ暗なバスルームで裸の妹に抱き付かれ、オレはもう少しで妹を襲いそうになるが、ギリギリで宇宙パトロールのP1に止められる。
その時に、たまたまズボンに入れていたテレビのリモコンを、妹に触られるが、それはリモコンだから何の問題もない……。
問題ないと言ったらないんだ…………。
オレは家のバスルームを出ながら、妹のショウビに寄生しているP1に頼んで、オレに裸で抱き付いた時の彼女の記憶を封印してもらい、代わりに風呂でのぼせて倒れたという偽の記憶を刷り込んでもらう。
その後、自分の部屋で意識を取り戻したショウビが、すぐにオレの部屋に来て、何があったのか聞いてきたので、オレがバスルームで倒れていた彼女をバスタオルで包んで、身体を見ないように注意しながら彼女の部屋に運び込んだと、ウソの説明をしておく。
それを聞いた妹は、なぜかギリギリと歯がみしたが、たぶんそれは、身体を見られずに済んだものの、そんな無防備な姿をオレにさらした事を恥じたのだろう。
ショウビは顔をしかめながらも、それから少しだけ話すと、おとなしく自分の部屋に戻ったので、いろいろあって疲れたオレはメガネを外して、いつもより早くベッドに入る。
何しろその日は、食品工場の冷凍室でほぼ全裸の幼馴染の少女に抱き付かれたり、妹にあそこを切断されそうになったり、生徒指導室で先生に肛門を見せられそうになったり、学校帰りに幼馴染の少女に赤ちゃんはどうやったらできるのか質問されたりした上に、家のバスルームで妹に全裸で抱き付かれたのだ。
さらに時間が巻き戻される前には、妹と幼馴染のスカートの中に液体をかける訓練をしたり、それを知った先生のパンツにも液体をかけなきゃいけない事になったり、ダイナマイトの火を消すために、幼馴染の少女の手でアレを出されそうになったりもしている。
こんな事が、これからもずっと続いたら、さすがのオレも身体がもたない……。
早く宇宙テロリストたちを抹殺して、平穏な日常を取り戻さなければ…………。
オレはそう思いながら眠りにつく。
…………そして翌日……。
風紀委員であるオレとショウビは、生徒たちの校則違反を見張る当番のために、昨日よりもさらに早い時間に家を出る。
すると、同じ当番でとなりの家の前で待っていた、幼馴染のスイショウがため息を吐く。
「ダイちゃん……赤ちゃんはどうやったらできるのか、私のお母さんも、分からないって言ってたわよ…………」
それを聞いてオレは驚く。
母親なら娘のその質問に、当然、答えてあげるものと思っていたからだ。
「えぇえ? じゃあ、お前のお母さんは、何も教えてくれなかったのか?」
「そうなのよ……どうしたらいいのかしら?」
そう言われても、さすがにそんな事はオレからは教えられないし、妹に教えさせたくもない。
「困ったな…………」
中学二年生にもなって、そういう事を知らないのは、とてもマズいような気がするのだが、なぜスイショウの母親は何も教えてあげないのだろうか?
そう疑問に思ったオレは、その幼馴染の少女に寄生しているP2なら、母親がそういう事を教えない理由が分かるかもしれないと思って、宇宙パトロールの二人を呼び出す。
だがスイショウの身体から意識を表に出したP2も、オレの疑問に首を傾げる。
「……そんニャ事は、わたしだって分からないニャ…………いくらこの子に寄生していても、母親の考えている事までは分からニャいんだから……」
「そうか…………でもスイショウが、そういう事を知らないままでいるのはマズいよな……」
「……うーん…………そんニャに心配ニャら、今晩、寝ている時に、この子の頭の中を探ってみるニャ……ひょっとしたら昔の記憶の中に、母親がそういう事を教えニャい理由が見付かるかもしれニャいから…………」
「いや、P2、それはやめろ。いくら何でも、スイショウの頭の中を勝手に探るのは、失礼すぎる」
「だけど、そうニャると、この子の母親の気が変わるのを待つしかないニャ……」
「……何かいい方法がないか、もっと考えてみるよ…………とにかく、スイショウの頭の中は、絶対に探ったらダメだぞ」
そう念を押したオレは、妹の身体から意識を表に出したP1が、いつもより元気がない事に気が付く。
「どうした、P1? お前、何だか元気がないぞ?」
するとP1が、ジトっとオレを見る。
「…………昨日の夜、お兄たんのところに来た妹が、いろいろと話した後に、自分が部屋に戻ったら電話をかけてほしいって、お兄たんに頼んだでしょお?」
「ああ……ショウビはあの時、肩がこったから部屋に戻ったらスマホの振動を使って、マッサージするって言っていたな。でも自分でアラームを作動させて振動させればいいのに、なぜかオレがかけた電話の振動でしたいって言うから、かけてやったんだ。壁を叩いたら電話を切っていいて言われたんだが、それまで十分くらいかけ続けたかな……」
「…………それ、本当に肩のマッサージをするためだったと思っているの、お兄たん?」
「え? スマホの振動で、他に何をするんだ?」
「……お兄たんの妹に寄生させてもらっているアタシからは、これ以上は言えないよぉ…………まぁ、アタシも、宇宙パトロールになった以上、特殊な状況での任務も覚悟していたし、寄生しているビキニ本体が汚れるくらい、我慢するけどぉ……」
「? ? 何でオレの妹が、スマホで肩のマッサージをすると、お前の本体が汚れるんだ?」
「…………いつか童貞のお兄たんも、自分の妹が、となりの部屋にいるお兄たんに、どんな想いで電話をかけさせたのか、分かる日が来るよぉ……」
「? ? ? 何だ、それ? ?」
P1の言っている事はさっぱり分からなかったが、地球の文化を勘違いして、的外れな事を言ってるのかもしれないから、それ以上は聞かずに放っておく。
そして、そんな話をしながら歩いているうちに学校が近付いてきたので、P1とP2に意識を引っ込めさせて、校門の前に立っているコハク先生のところへ行く。
生徒たちの校則違反を見張るのは、風紀委員の六人でやり、各クラスに二人ずついる風紀委員に当番が回ってくるのは週に一回だけだが、顧問であるコハク先生は毎朝必ずそこにいる。
その豊満な身体で生徒をまどわせたり、無許可で生徒指導室に隠しカメラを設置したり、オレを性奴隷にしようとさえしなければ、本当にマジメでいい先生だ。
そんなコハク先生は、いつもどおり女神のような美しさで、オレはメガネを直して、その首から下を直視しないように注意しながら、ショウビとスイショウといっしょに先生の横に並ぶ。
「おはようございます、先生」
「ああ、ダイチ副委員長…………キサマは、まだちゃんと童貞のままだろうな?」
昨日一日で、何度もそれを奪われそうになっていたオレは、その問いに苦笑する。
何しろその三分の一は、この先生が首謀者だ。
「……ええ…………何とかまだ大丈夫です」
「何だ、キサマ。今日はずいぶんと大人の答えをするじゃないか。本当にまだ童貞のままか?」
「もちろんですよ、先生……」
そう答えつつ、オレはコハク先生に隙を見せないように、細心の注意を払う。
ちょっとでもこの先生に隙を見せたら、大変な事になるのは十分に身に染みている。
昨日の放課後なんかは、ショウビが助けに来てくれなければ、この先生の肛門を見せられるところだったのだ。
そんな事があったばかりだというのに、平然としているコハク先生も、すました顔で先生に挨拶するショウビも怖い。
オレはそんな二人にちょっと引きながらも、気を取り直して生徒たちを見張る事に集中する。
しかしそれは、校則に違反している生徒を見付けるためではない。
宇宙テロリストに寄生された女子生徒を見付けて、その身元を確認するためだ。
その女子生徒に寄生した宇宙テロリストの破壊活動に巻き込まれたのと、ダイナマイトの罠にかかったのとで、すでに二回も殺されているオレは、真剣にそいつを探す。
ダイナマイトの罠の後で地球の時間が巻き戻されてから、そいつはオレたちの顔を見ていないはずだが、万が一の場合に備えて、オレは『ビキニキラー液』が入った水鉄砲を、制服のポケットの中で握る。
しばらくすると登校する生徒の数が多くなって、特定の人間を見付けるのが難しくなってくるが、オレは集中力を切らさずに生徒の顔を識別していく。
そんな時にオレたちの前をタイヨウが通る。
小学生の時にショウビの悪いうわさを流して、オレに投げ飛ばされた事があるタイヨウは、何人かの男子生徒と話すのに夢中で、オレやショウビに気付いた様子はない。
けれどショウビは、タイヨウの姿を見た瞬間に、オレの制服のすそをギュっとつかむ。
オレの父とショウビの母親、それにタイヨウの父親の三人は、同じ大学を同期で卒業して警察官僚になったが、ショウビの母親だけが、夫が浮気相手と失踪した時に辞職している。
その事を父親から聞いたタイヨウは、それに尾ひれを付けて、小学校のクラスで言いふらしたのだ。
たぶんタイヨウは、その話がどれだけショウビを傷付けるのか、ぜんぜん理解していなかったのだと思う。
小学生なんてそんなものだ。
だが、自分の父親が自分と母親を捨てたのを学校で言いふらされたりしたら、どんな気持ちになるのかくらい、いくら小学生でもちょっと考えれば分かる。
だからオレはタイヨウを投げ飛ばした。
習っていた柔道の技を道場の外で使うのは禁止されていたが、いつもは厳しかった祖父も、その事では何も言わなかった。
オレはタイヨウが前を通り過ぎて行くのを見ながら、オレの制服のすそをつかんでいたショウビの手を、誰からも見えないように、こっそりと握る。
この妹との平穏な日常を取り戻すためにも、早く宇宙テロリストを抹殺しなければ…………。