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それはよくある始まりの始まり

その日、娘は突如失踪した。

なんの痕跡もなく煙のように消えてしまった。

その娘の家系は優秀な魔法使いが多く、王国にも重宝され丁重にもてなされる。この世界に魔法が使える人は多いが、そのほとんどは生活魔法であり軍事的な魔法が使える人は少ない。使おうと思えば使えるのかもしれないが保有魔力量が足りず大体は失神する。高名な魔法剣士一家であったシルフィン家の娘が突然失踪したのだから国中の話題になり、問題になった。

見つけて連れてきた者には、身分にかかわらず爵位と望む物を与える。

と王が宣言したためだ。その言葉に農民から都市の職人、果ては貴族が奴隷まで総動員して探し出すという始末になった。しかし見つかるはずもない。この世界にいないのだから・・。

 その女性は明るくなってよく見ると娘という言葉の方が適切なのではないかと言うほどに若かった。目で見た限りだと10代後半から20代前半と言ったところか。そんなに若い人が何のようだろうか?起きたらきいてみようと心の隅にとどめておいて朝食の準備にかかる。美しい横顔 つい、ちらっちらっと見てしまう。挙動不審になっているのが自分でも手に取るように分かる。端から見れば全くもって犯罪者にしか見えないだろう。

警察に突き出されて少女を誘拐して監禁した魔法使いともてはやされるだろう。30代だからな、はやく卒業したいものだ。そんな面白くもないことを考えながら、そして少しの希望からテントを小さくはりながら朝食を二人分作る。・・・。もう本当に変態になったのではないかと思うほどだった。

 そろそろ少女が起きる頃だろう。静かに朝食を持って行くとベッドの上にぽかーんとした少女が借りてきた猫のようにちょこんと座っていた。

 「そんなに緊張しなくてもいいよ」できるだけ優しそうな声を意識したつもりだが、果たして声が震えていたりしなかっただろうか?さすがにおどおどしすぎていると気持ち悪がられそうだ。気を付けておこう。

 「teikuropusukamino,maninimanidwjhgfo.」

耳を疑った。なんと言っているのだろう?英語でもないし、日本語でもない。どこかのなまりだろうか?

首をかしげると、少女は手を上に挙げ何かを唱えだした。唱え終わったと思った瞬間、部屋中を緑色の膜が覆った。

「すみませんでした。さすがに分かりませんよね。」

さっきの少女の声ではっきりとした日本語が聞こえた。「昨日はありがとうございました。突然来ちゃって」

「あ、うん、あの、気にしなくていいよ」おっとここで長年の引きこもり生活の弊害だ。言葉が出てこない。

「あ、そうだ、えっと、あの、ご飯よかったら食べる?」

「いいんですか?」

目を輝かせて身を乗り出した彼女につられるように少し後ろに引き下がってしまった。

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