元旦に出会う
時計の秒針がテキパキと動き、針は12の元へ帰って行く。あと10分で今年が終わる。そんなことを考えながらただ横になり、まぶたを下げる。異様に静かな室内に秒針の動く音が鳴り響く。チクタク、チクタクと一秒一秒がただ過ぎていくのを感じて、ふと時計を見る。分針が11になった瞬間にまた目を閉じ音の数を数える。90、180、270、290,291,292,293,294、5、4、3、2、1、0,明けましておめでとう。トウマ。ぼそっと1人でつぶやく。もちろん自分で自分を祝うためだ。
はい!おめでとうございます! ・・・聞こえるはずのない他人の声が聞こえた。
一人暮らしを初めて久しくなる。最近、学校がないときは部屋に引きこもり本ばかり読んでいるせいか他人と話した記憶があまりない。もちろん冬休みともなると誰とも話さなくなった。さすがにさみしいとは思ったがわざわざ外に出る気にはならなかった。気づくと夜。そんな日が多くなってくると、イルミネーションが消え、窓から門松が見えた。もうそんな季節かとしみじみと感じていると、誰かに見られているかのような異様な感覚が体に流れてきた。これも引きこもりの弊害だろうか?一応高校には行っているのだから引きこもりではないのだろうが、悲しい人生になったものだ。その日もまた自堕落に過ごして寝るだけ、「来年から頑張ろう。」去年も言ったその言葉を自分に言い聞かせるように何度も何度も繰り返して大晦日が走り抜けようとしていた。
新年がはじまって数日が経過しようとしていた。年が明けてから毎日忙しく、まさに大晦日の自己暗示の有言実行とでも言うべきだろうか。相変わらず部屋からは出ていないのだが年明けの除夜の鐘の代わりに飛び込んできた一人の女性に手を焼かされている。気づいたらいた。そんなおかしな表現がいちばんしっくり来るような登場にあっけにとられている自分に女性はパッとのしかかってきた。
突然の事すぎ、とあるゲームにおいて最強の魔法使いと呼ばれている俺には頭が真っ白になるような出来事だった。まだ30にもなっていないのに全く不名誉な称号だ。
しかしおそらく使えないモノの反応を気にしながら「す、すみません。」とつい謝ってしまった。
恥ずかしそうに頬を上気させ急いで飛び退くその人は妖艶などという言葉では表わしきれないような絶世の美女であった。あ、ついに俺はこれで大賢者になれる!!結局その夜は寝られなかったのだが何もなかった。世の中はそんなに甘くない。
元旦、年賀状も送られてこなくなってもう数年になるがお正月を人と過ごすのは何年ぶりだろうか。
中学生のころから親元を離れ連絡も取れなくなっている身としてはうれしくて仕方がない。
四、五年ほど前に遊びに来た人がいたようないなかったような。まあ、その程度である。女性とイベントを消化するのは初めてなような気がする。
突然の出来事でそれどころではなかったのだが、そういえばあの女性の人は何者なんだろう?当然の疑問を今更のように思い出し、夢ではないかと頬もつねってみる。目が覚めるような激痛と共に楽観主義も引きはがされたような気がした。




