だから君を愛せない
「私ね、薔薇が好きなの」
君は唐突にそう言った。歩を止め、僕の方を振り返って。
「黄色の薔薇が……好きなの」
白い頬を、白い肌を、何滴かの雫が伝う。君はそれを隠すことなく、僕以外の誰かに主張するように、訴えるように、僕に対して見せつけた。
僕だけ残して、これまで通り、何事もなかったかのように、君は歩を進める。
それでも、見慣れた街中を行くあてもなく何かを探しながら、何かを必死に求めながら、僕とは反対方向に歩いて行く。前へ、前へ、と。
だから僕は。
だからこそ僕は。
端的に「そう」それだけを、たったそれだけの言葉をこの君が歩き去ってしまった街に残して、いつも通りに、普段通りに、君の数歩後に付き従って歩く。
いつまでこれが。
いつまでこの現状が続くのだろうか。いつまでも続くのだろうか。
そんなことを思っては、考えて。
そんなことを感じ取っては、投げ捨てて。
僕は君の背中にため息を投げつけた。