第二話 孤独が出会い②
洞窟に俺の声が反響する。
龍はぴくりとも動かない。
何故だろう、俺の存在など取るに足らないということだろうか。俺はもう一度声を張り上げようとした。
だが何か他の音を聞いて口を閉じる。
「・・・・・・ぅ・・・・・・ぅくっ・・・・・・・・・・・・」
泣き声?
俺は声のする方に顔を向けた。
「ぁ・・・・・・・・・・・・!」
龍の体にすがりつき、悲痛な嗚咽を漏らす少女、年の頃は十代後半か、それより若い。およそ龍の巣窟には似つかわしくない、可憐な少女だった。
どこまでも高く澄んだ空のように蒼い、長く美しい髪。
龍にもたれかけた体は、細く優美な曲線を描き、むき出しの脚が白く眩しい。
まるで絵画に描かれた天使のような見た目をしていたが、銀白の龍が持つ美と恐怖が、彼女の姿を絵画よりも神秘的に浮かび上がらせる。
この少女は何者だ? 何故こんな場所にいる?
しかしそんな疑問は、彼女がこちらに振り返った瞬間、跡形もなく消え失せた。
俺は泣いている少女の顔に、不覚にも見とれてしまった。
涙で目は赤く腫れ、頬には滴の跡があったが、それでも美しいのだ。
女性を誉める為に存在する、あらゆる言葉、あらゆる表現、そのどれもが陳腐に見える。
痛みに満ちた彼女の表情を見るのは、消えていく虹を見るような気分だった。この気持ちを言葉にできるなら、死んでも良い。
やがて少女の薄桃色の唇が動き、甘く悲しい音色を奏でる。
「お母さんは・・・・・・もう生きてないよ」
悲痛に歪む少女の顔を見て、俺は何もかも忘れて駆け寄り、彼女を抱きしめた。
自分でも予想外の行動に、少女の瞳が大きく見開かれる。彼女の瞳も、髪と同じ澄んだ蒼だ。
「ぇ・・・・・・?」
冷え切った少女の体を包み込み、震える背中をさする。
胸にうずめた彼女の頭を撫で、子供をあやすようにゆっくりと体を揺らす。
「大丈夫、大丈夫だから」
最後にこんなふうに抱きしめてもらったのは何時だったか・・・・・・思い出せない。
最初は身を固くしていた少女だったが、しばらくすると、人肌の温もりに安心したのか、声を上げて泣き始めた。
抑えていた感情を外に出し、声が涸れるくらいに泣き叫ぶ。
・・・・・・好きなだけ泣くと良い。悲しい時は涙を流すものだ。
誰にも涙を見せられないのより、思い切り泣いた方が良いに決まってる。
「大丈夫・・・・・・大丈夫・・・・・・」
俺はいつか彼女が泣きやむことを祈って、ずっとその言葉をささやいていた。