表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼天の到達者  作者: 一花八果
1/2

第一話 孤独が出会い

 俺は暗い洞窟の中を、一歩一歩、噛みしめるように進んでいた。


 壁面にびっしりと生えたヒカリゴケが光源となり、ほのかに道を照らしている。どこかで水滴の音が鳴った。


 巨大な洞窟には一切の生き物の気配がなく、死んだように静まりかえっている。下界の騒がしさとは無縁の、寂しく冷たい世界・・・・・・俺はその終点を目指して歩く。


 どれほど進んだだろうか。時間の感覚が薄れていく。


 もう何も考えることはなかった。全ては終わったんだ。



「……着いたか」



 いつの間にか最奥に到達していたらしい。目の前にそれを示す巨大な生き物が横たわっていた。



 ドラゴンだ。



 銀白の鱗に覆われた、美しくも恐ろしい、この世の絶対強者の姿がそこにあった。


 今は翼をたたみ、とぐろを巻いて眠っている。


 俺は腰から吊した剣を抜いた。その瞬間洞窟に光が溢れ、甲高い悲鳴のような音が鳴り響く。剣が歓喜の雄叫びを上げたのだ。


 太古の昔、龍を殺す為に鍛えられたとされる伝説の剣は、目の前で無防備な姿をさらす獲物の首に牙を突き立てたくてしょうがないらしい。


 しかし俺は思い切り後ろに放り投げた。国一つより貴重な伝説の聖剣を。


 だってもう必要ないんだから。


 剣を捨てると、不思議な満足感を覚えた。


 今まで多くの敵を倒してきた。それは人間でも、魔物でも、軍隊でも、国だったこともある。


 自分を慕い、尊敬してくれる眼差しに囲まれながらも、彼らを守るという責任にいつも押し潰されそうだった。


 もうそうやって運命を背負い込む必要はない。だからこんなにも晴れやかな気持ちなんだ。


 勇者だの英雄だの、散々もてはやされてきた俺だが、みんなが思うほどは強くない。強がりなだけだ。


 俺は洞窟の涼しい空気を吸い込み、笑ってしまうくらいリラックスした声で、目の前の龍に言った。


「幾多の国を滅ぼし、数え切れぬほどの命を喰らい尽くしてきた邪悪な龍、『不浄のアヌゴーグ』よ、頼みがある! 俺を――」



「――殺してくれ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ