第一話 孤独が出会い
俺は暗い洞窟の中を、一歩一歩、噛みしめるように進んでいた。
壁面にびっしりと生えたヒカリゴケが光源となり、ほのかに道を照らしている。どこかで水滴の音が鳴った。
巨大な洞窟には一切の生き物の気配がなく、死んだように静まりかえっている。下界の騒がしさとは無縁の、寂しく冷たい世界・・・・・・俺はその終点を目指して歩く。
どれほど進んだだろうか。時間の感覚が薄れていく。
もう何も考えることはなかった。全ては終わったんだ。
「……着いたか」
いつの間にか最奥に到達していたらしい。目の前にそれを示す巨大な生き物が横たわっていた。
ドラゴンだ。
銀白の鱗に覆われた、美しくも恐ろしい、この世の絶対強者の姿がそこにあった。
今は翼をたたみ、とぐろを巻いて眠っている。
俺は腰から吊した剣を抜いた。その瞬間洞窟に光が溢れ、甲高い悲鳴のような音が鳴り響く。剣が歓喜の雄叫びを上げたのだ。
太古の昔、龍を殺す為に鍛えられたとされる伝説の剣は、目の前で無防備な姿をさらす獲物の首に牙を突き立てたくてしょうがないらしい。
しかし俺は思い切り後ろに放り投げた。国一つより貴重な伝説の聖剣を。
だってもう必要ないんだから。
剣を捨てると、不思議な満足感を覚えた。
今まで多くの敵を倒してきた。それは人間でも、魔物でも、軍隊でも、国だったこともある。
自分を慕い、尊敬してくれる眼差しに囲まれながらも、彼らを守るという責任にいつも押し潰されそうだった。
もうそうやって運命を背負い込む必要はない。だからこんなにも晴れやかな気持ちなんだ。
勇者だの英雄だの、散々もてはやされてきた俺だが、みんなが思うほどは強くない。強がりなだけだ。
俺は洞窟の涼しい空気を吸い込み、笑ってしまうくらいリラックスした声で、目の前の龍に言った。
「幾多の国を滅ぼし、数え切れぬほどの命を喰らい尽くしてきた邪悪な龍、『不浄のアヌゴーグ』よ、頼みがある! 俺を――」
「――殺してくれ!」