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空降って地固まる

「……どうせ暇だし」

「ちょっと弄ってみるか」

 しりとりは中断して、私たちはリボンとその先に繋がった何かを観察し始める。

「ちょっと暗いな」

 彼が足元の空を集めて一か所に積み上げて、もうちょっとマシに明りとして機能するようにした。

「で、これは……うーん、何?」

「良く分からんなあ……とりあえず、このリボンっぽいのって、前拾った……っていうか、貰っちゃった奴と一緒?」

 空が落ちてきた現場で、研究員っぽい人に間違えて渡されて、そのまま持って帰ったリボン。アレと、ここにあるリボンは同じもののように見える。

「少なくとも、凄く似てるよね」

 やや固めの質感も、刻まれた幾何学模様もそっくりだ。

 ただし、先っぽには何か良く分からない……機械みたいなものがくっついてて、そこに近づいだ所でリボンが細くなってる。

 ……というか、私達が貰っちゃったあっちのリボンは、たまたま幅が広くなってる部分だったらしい。

「……だとすると、あのリボンにもこっちのリボンみたいに、先っぽに何か付いてた、って考えられる?」

「千切れちゃったのかな、あっちのリボンは」

 千切れてなかったら、あれをリボンだって認識しなかったと思う。

 これはどっちかっていうと……コード?

「これ、コードだとすると、こっちの何か良く分からん奴は何かに繋ぐためのものだったんだよな、きっと」

 けれど、リボン……コードのもう片方の先端には何も無いし、千切れたり壊れたりした形跡も無い。

「……駄目だ、分からん」

 何かと何かを繋ぐためにあるんだとしたら、或いは。

「これ、コード自体に何か意味があるとか?」

「……そうなる、のかあ」

 逆にそれ以外、何があるの。ちょっと長すぎるストラップとか?


「くそ、なんか書いてあるけど読めん」

 彼がコードの先についている小さな機械に顔を近づけて呻く。

「やっぱり空の明りだけだと足りない?」

「いや……もうちょっと集めれば、なんとかなりそうな気がする……」

 別に、救助が来てからのんびり見てもいいだろうと思うのに、彼はせっせとまた、足元の空をかき集めはじめた。

 ……あ、救助が来てからだと、没収されちゃう恐れがあるのか。

 しょうがないから、私も付き合って空をかき集める。

 ……少し空も溶け始めているのか、少し明るさが落ちてきた気がする。

 これじゃ、明るさが足りなくもなるだろう、と思いながら空をかき集めていたら、指先に痛みが走った。

 ……普通に降ってくる空だったら、指が切れる事なんてほとんどないけれど、今回の空は大きかったからその分、薄くて脆い破片だけじゃなくて、ごつい破片も混じってたらしい。

「またかあ」

「え、どうし……あ、また切ったのか。絆創膏とか、持ってる?」

「持ってる」

 2度目ともなると、学習済みなのである。

 ポケットから絆創膏を取り出して……貼ろうとして、上手くいかない。

「……あの」

「あ、うん。ちょっと貸して」

 何も言う前に察してくれたのか、彼が手を貸してくれた。

「ええと、あ、まずこれちょっと置かないと」

 ただ、慌てたのか何なのか、オーパーツを手に持ったまま傷口に触れようとして。

 コードが傷口に触れた。


 その瞬間、頭に電流が走ったような衝撃と、それから、もっと分かりやすい変化が1つ。

「うおっ!?点いた!」

 コードの先についた機械の画面が、薄く明りを灯していた。




 興奮状態になってしまった彼も、一応私の指の事は忘れないで居てくれたらしく、とりあえずまずは傷に絆創膏を貼ってくれた。

 そして、満を持して機械を弄り始めた。

「うわ、あー……うん、読めない。なにこれ」

 ……画面には文字っぽいものが浮かんでいるのに、それらは私達が見た事の無い文字だった。

「空の上の人達の文字かなあ」

「そうだろうなあ」

 それは、画面に触れればそれだけで反応して動く、奇妙な機械だった。

 良く分からないまま一通り弄って、そして最初の疑問に戻る。

「なんでいきなり起動したんだろ。衝撃でも加わったりした?」

 ……それについては、心当たりがある。今回は彼の推理も敵わない。

「多分、血だと思う」


 一回目。あのファミレスでリボン2本(その内1本はコードだったわけだけど)を並べて弄っていた時。

 片方のリボンには私の血が染みていた。それとコードを絡めた時に頭に走った電流は記憶に新しい。

 そして、今回。

 当然、血が滴る傷口に触れたんだから、コードには血液が付いたはずだ。暗くて良く見えないけど。

 だから、このコードは、触れた血液に反応して何らかの信号をこの機械に送るものなんじゃないかと、そう推理できるわけだ。

「……え、何のために?」

 そこまで話して、彼は納得するでも無く、むしろ不思議そうに首を捻った。

「血液で反応するって、なんでまたそんな?何?空の上の人達って常に血液ぼたぼた垂らしてたりすんの?」

 ……確かに、おかしい。

 だって、血液で反応するって、つまりは怪我でもしてないと反応しない、って事だし……あ。

「これ、未来の医療器具なんじゃないの?」

「医療器具?……あー。そっか。血液垂らすとその人の健康状態とかが分かるのかなー」

 そうなら納得がいく。

 瞬時に血液の情報を読み取って……いや、違う。

 だとしたら、なんで頭に電流が走ったようなあの感覚があったのか、説明がつかない。

 私の体から離れた血液が、私の体に影響するなんて信じがたいんだけれど。

 ……なんか、こう、謎の電波でも発するんだろうか、このコード。

「俺もやってみようかなあ」

「やめて。絆創膏、もう無いから」

 空の破片を漁ろうとした彼はとりあえず止めておいた。

 冗談だろうとは思うけれど、本当にやりそうな気もしたし。




 それから機械を暫く弄っていたら、画面が消えてしまった。

 私の傷口をもう一回開くのも非合理的だ、ということで、機械弄りはそこでストップ。

 ……それで結局、それからまたしりとりして待ってた。

「コンクリート」

「と……豆腐」

「ふ……ふ……あ、なんか聞こえる」

 しりとりを中断して耳を澄ませば、人の声らしきものと、物音。

「来たな」

「来たね。とりあえずこれで助かりそう、かな?」

 彼は素早く、機械を胸ポケットにしまい込んだ。没収される気は無いらしい。

 まあ、偶々拾ったものだし、彼に拾われちゃったんだからしょうがないね。


 空を溶かす機器の駆動音が上から聞こえてきた時点で私達が大声を出して救助を求めて、なんとか見つけて貰えた。

 流石に救助隊の人達も、まさかマンホールの中に避難した人が居るとは思わなかったらしい。凄く驚かれた。

 騒がなかったら見つからなかっただろう、と救助隊の人達に言われて、流石にちょっと背筋が凍った。

「……ま、とりあえず無事生還、ってことで」

 マンホールの外は思った以上の状況だった。

 街の真ん中に降ってきた空は、容赦なく色々な物を潰していった。

 なんでも、今回落ちてきた空は前回落ちてきた空よりも大きかったらしい。

 私達の居た所は、まだ被害の輪の端っこの方だったらしい。だから今日中に助かったんだとか。

 一度砕けた空が一回溶けて、それからまた固まったりして、救助は難航しているそうだ。

 中心部は未だ手つかず。生存者の望みは薄い、とのこと。

「生還祝いは明日ね。今日はもうお腹空いたし眠いし」

「トイレ行きたいし……」

 ……とりあえず、食事とトイレの為に、こんな状況でも営業していた根性のあるファミレスに入ることにした。


「汽車は当然止まってるしなあ。歩いて帰るか、学校に戻るか」

「戻っても鍵、開いてないんじゃないの」

「いや、避難してる奴が大勢いると見た」

 そんな会話をしながら食事(彼がスパゲティで、私がオムライスだった)を摂って、学校へ向かう。

 夜に学校へ向かう道は何だか新鮮だ。悪いことしてる気分。

 うん、悪くないな。こういうのが好き。この、退屈からかけ離れたかんじが。

「……結構見えるなあ」

 ふと、彼が見上げた方を見れば、空に大きく開いた穴から、漆黒をベースに光る無数の粒。

 それは確かに綺麗だった。


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