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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

大国様シリーズ

大国様が本気で義父を攻略するようです・十七

作者: 八島えく
掲載日:2015/05/29

注意:このお話は、男性同士の恋愛描写が含まれております。閲覧の際はご注意ください。また、そういった描写が苦手な方は、ブラウザバックをおすすめします。

 あなたの心は美しい。

 わたし達神々にも人間にも、動物にも敵にも妖怪にも、同じように慈しむ心をお持ちです。

 そしてそれは、いずれ成すであろう新しい子に対しても変わらないのでしょう。

 

 私は、あなたとの子が欲しい。


 そう思うのは罪ですか、お義父さん?



 ~大国様が本気で義父を攻略するようです・十七~


 温泉旅行から帰って来てひと月くらい経った。俺――建速素佐之男(たけはやすさのお)は、ちょっとだけ困っていた。


 ここは出雲の地。義理の息子である大国の国。日は照ってるけど吹く風が少し冷たい昼下がりのことだった。

 その日俺は、大した目的もなく、兄ツクヨミの屋敷へ遊びに行っていた。兄の屋敷は気まぐれで、夜にぼんやりと現れるだけだ。太陽が出ているうちは見つけられないが、不思議と俺は昼でも兄の屋敷がわかった。そしてその屋敷は一か所にとどまらず、北の地に建つこともあれば都にひっそりと現れることもある。

 んでその兄の屋敷で旅行のお土産を渡しつつ、その時の話を色々と聞いて貰っていた。そんでそこから帰った。


 問題は、その帰り道で、ひとりぽつーんとヒィヒィ泣いてるガキがいたことである。おまけに黒い尻尾つき。耳は犬。ほっとけなくてガキの前でしゃがんで、なるべく優しく聞いてみた。


「なあ、坊主。どうしたんだ?」

 ぐすぐす泣いてた坊主は俺をちらっと見た。コワイ顔なのは自覚してるので怖がらせるかと心配したが、そんなこともなかった。ガキのしっぽがちょっと揺れた。


 泣き止もうと必死に顔をごしごし拭うガキをなだめすかして聞いたところによると、母親とはぐれた上に変化が途中で止まってしまったということだった。


 そのガキの本来の姿は犬で、親子一緒にさる神に仕えてる。その神の恩恵を貰って人間に変化することができるんだそうだが、どうやらその変化も完全じゃなかったらしく、耳と尻尾が犬のまんまなのはそういうことだった。


 さっきまでは神と母親と一緒に、出雲の小さな村の市場を歩いていたのだが、いいニオイにつられてはぐれ、ついでに犬の姿に戻ろうとしても耳と尻尾で止まってしまって戻れなくなった――と。


「どうしよう……。かーさまからも××さま(涙声でぐだぐだしてて聞き取れなかった)からも、離れちゃだめだよっていわれたのに……。この姿じゃ外、歩けないし……」

「あー……そっかそっか。そりゃ大変だよな。わかった、探してやるからおいで」

 ガキを慰めながら俺はその子に手を差し伸べる。てっきり警戒されるかと思ったが、手はあっさりと繋いでもらえた。


「どの村にいたか覚えてるか?」

「んっと、あっち……」

 ガキの指が示す方向には、一つの小さな村がある。そういや、前にそこの土地神と酒を交わした覚えがある。飲ませすぎてぐでんぐでんにしてしまったことは反省している。


「あー、来たことあるぞ、ここ」

「そうなの?」

「うん。土地神とは知り合いでさ。そいつに聞いてみようか」

「うん。ありがとう、お兄さん」

「いやいや」

 というかお兄さんて呼んでもらえるのか。八百万の神々の中でも結構古参だから爺さん呼ばわりかと冷や冷やした。

「じゃあ、行こうか。離れないように、俺の手をしっかり握っておけよ」

「うんっ」

 ガキのしっぽがまた振るわれる。ちょっとは元気出たみたいだな。



「おや、お義父さん」

 ガキが出向いたという村の土地神の屋敷で俺らを出迎えたのは、土地神ではなく馬鹿義理息子――大国だった。

「だ、大国……、なんでここにいるんだ……?」

 完璧な微笑でもって俺を迎えるこの男に、ひきつった笑顔を返さずにはいられない。何だろう、俺の行く先々を予見して回り込んでんじゃねーのって思えるほどの準備っぷりだ。

「ええ、近くに用事がありましたので、ついでと思い、こちらの神に顔を出したしだいです。いえ決して、お義父さんを追いかけてきたわけではありませんよ」

 嘘つけ!! いや正直な白状でもそんなころころヨユーで笑われたら疑り深くもなるわ!!


 

 ――頭が痛くなる元凶が始まったのは一年とちょっと前。

 酒を酌み交わしたその日の翌日、大国は俺に向けて告げたのだ。


『お義父さん、私と子作りしてください!!』


 酒に強いあいつにしては珍しく酔いが冷めてなかったんだな。と俺は思い込むようにした。とりあえずの後悔といえば、あっけにとられて何も言えず何もできず、あいつを一発ぶん殴って酔いを覚ましてあげられなかったことだ。


 その後も何かにつけて大国に口説かれ求愛され、俺の心は穏やかじゃなかった。直接手を出されてはいないものの、感情を揺さぶられっぱなしでどうも気に食わない日々が続いた。


 でも大国は冗談でも何でもなく、本気で俺と一緒になりたいのだ。その本気を理解したから、俺もそれを受け止めとやろうとしている。まっすぐにぶつけてくる好意をかわさないし、逃げない。それが俺なりの答えだった。

 ちなみに受け止め続けて一年以上、いまだ子作りはなされず。俺が折れるか大国が諦めるか、正直どっちも嫌だ。



「何とも可愛らしい子をお連れですね」

「この村に訪れてた神の眷属(ペット)らしいんだよ。その神と母親とはぐれたんだと」

 土地神の兄ちゃんと大国と俺――と俺の背中に隠れるガキで、状況を話し合っていた。居間に通してもらってご丁寧に茶までもらい、ガキが俺の背中からそっと茶菓子を覗き込んでる。一つつまんでくれてやると、ガキの耳がひっこひっこ揺れた。

「ウチに来た神かぁ……今のところ、貴方がた以外の神の気配がないんですよねえ。その子の主人と母上はおそらく、この村を出て探しているんだと思います」

 土地神はうーんと考えてそう話す。

「ねえねえ黒耳のキミ、キミの本来の姿は犬かな?」

 土地神は目を細めてガキにたずねる。どうも土地神と大国には恐怖心というか警戒心を抱いているようで、俺からぴったり離れない。懐かれた。

「う、うん……」

「神様のお名前、覚えてる?」

「んっとね……××(やっぱり聞き取れなかった)様っていう。でも、もっと長いお名前、かも……」

「なるほどねー。その名前は聞いたことがある。確か今日、釣りしに村の川へふらふらしてたとき、その神の気を感じた。

 よし、その御方に文を出しましょう。お子さん預かってるんでおいでなさい、っとね」

 そうときまればさっそく~、と間抜けた言葉を残して、土地神は居間を出て奥へ引っ込んだ。


 今には俺と大国とガキ……客三人が残った。なぜか沈黙していて空気が苦しい。だんまりの空間はどうも苦手だ。


「……大国、こっち来てたんだな」

 さっきも同じようなことを言った。

「ええ、ちょうどこちらに用事がありましてね」

「そか。……ああ、ちびすけ、この大国は悪い奴じゃないからこわくないぞ」

 いまだ俺の背中に隠れて大国をうかがうガキに、俺はそう言ってやる。うん、怖くはないんだ。ただ油断がならないだけでな。

「本当…………?」

(すげぇ疑いの眼差し向けてる……)

 大丈夫だって、となだめてみるが、どうもガキは警戒心が強い。大国の完璧な微笑も、ガキの前には意味もないわけだ。ざまーみろ。


「うーん……ちょっと傷つきますねえ。私の笑みはどんな神でも警戒を解くというのに」

「だってそれ女神限定だろ? 息子や知り合いの男神はみんな軽く受け流してるじゃねえの」

「はは、最近はお義父さんが緩んできてくださっているので、同性の神にもいけると思ったのですが」

「緩んでねーから!」

 こっちがむきになるとあっちは余裕で茶をすすりやがる。これじゃ俺が振り回されてるようで気に入らない。……はずなのに、最近はまあ悪くはないとさえ思えてしまう。これはいかん。


「それにしても、お義父さんがこちらへいらしていることこそ意外でした」

「あ? ああ、兄貴んとこに遊びに行ってたんだ。今日はたまたまこの近くに屋敷があったんだよ」

「日によってどこに現れるかわからないお屋敷……。私も一度偶然たどり着けましたが、それ以降まったく足取りをつかめません。月読殿は神出鬼没でいらっしゃる」

「朝にむちゃくちゃ弱くてな。夜の時間帯になるべくひとりでいるのが落ち着くんだと。屋敷には猫以外従者もいないんだよな」

「その割には、お義父さんや天照殿といったご姉弟に対してはえらく開かれた扉ですね」

「……何だかんだで兄は姉も俺もすきだから」

「いいですねえ、仲良し。私も混ぜてもらえませんかねえ」

「だといいな……」

 はぐらかしたのにはわけがある。大国が俺に子作りを迫ったという話は当然姉にも伝わってるわけで。弟ふたりが大好きな姉――天照はそんな弟をたぶらかした大国が嫌いなのである。まあ、国の有事には私情を挟まず協力したり、心の底から憎んでるってわけでもないのが救いかもな。俺としては姉にも大国にも仲良くなって欲しいもんである。無理だけど。


 そうして俺と大国が他愛ない話をしていると、ガキも少し緊張が解けてきたようだった。俺の背中越しにそろそろと大国を伺う。

 気づいた大国がまた微笑んで手を差し伸べると、ガキはおそるおそるその手を指先でつっついた。何もないと判断して、俺と大国の間に座る。さり気なく俺の手を握りつつ。


「よく見ると可愛らしい子ではないですか。うちの鳥鳴海と同じくらいでしょうか」

「ああ、それくらいかな。鳥と犬か、案外気が合ったりするかもな」

「鳥鳴海も人見知りが激しいですから、我々のフォローは必要でしょうね。でも最後は打ち解けますよ、私の子ですし」

「俺の孫でもあるんだよな」

「そうなります」

「ちっさい子供ができるってなぁ、こんな感じだったなぁ」

 俺は無性にガキの頭をわしゃわしゃした。「むぎゅぅ?」っと変な声を出したガキはそれに甘んじる。


 途端に、息子のヤシマジヌミのことを思い出す。今となっては立派にお山を駆ける狩人になってるが、あいつにもこんなちびっこい時があったのだ。

 あのころから結構なやんちゃで好奇心旺盛で、屋敷の外(それも街ひとつかふたつ離れる距離)を駆けまわって、夕方になってひょっこり帰ってきて、かーちゃんに怒られることは数知れず。

 さすがの俺も肝が冷えたから、街中探し回って声を枯らしてた。

 お山に参った時も、外で遊ぶ時は必ず誰か大人を連れて行けという忠告も忘れてひとりで駆け回り、夕飯時になってまっすぐお山の大将の屋敷まで戻ってきた。あとで聞いたら、「いい匂いをたどってきたんです」とかさらっと言いやがる。


 そんなヤシマジヌミはもう大人だ。先日婚約者だという女神を連れてきた。たいそう美人で気立てがいい。強くはあるがちょっと(いやちょっとどころじゃないんだけど)抜けてるあいつを支えてくれるだろう。


「……お兄さん?」

 ガキが心配そうにこっちを見上げている。変な顔してしまったか。

「ああ、ごめん。俺に息子がいてさ。お前くらいのチビだったころはどうだったかなーって考えてた」

「そのひと、お兄さんにそっくり?」

「いや、どっちかというと母ちゃん似だな。機会があったら会わせてやるよ」

「ほんと? 楽しみ」

 ガキのしっぽがぶんぶん揺れる。やっぱ犬だわな。


「ただいまー。おまたせー」

 土地神が居間へ戻ってきた。ついさっき文をしたため、眷属の鳥に持たせて飛ばしたらしい。はぐれた神と母親とも、今日中には再会できるだろうという見込みだった。

「それにしても、私が席をはずしていたのはほんの少しの間。いつのまにか皆うちとけたみたいだね」

 土地神は笑う。

「それにさ、こうしてみると本当の親子みたいだよ」

「そんなに似てるか? こいつと俺」

「似てる似てるー。スサノオ様と大国様と、犬の坊やと。夫婦とその子とはいわないけど、何となくね」

「夫婦はこれからなる予定ですので」

「おいガキのいる前でさらっと危ないこと言うな大国」

「おや、私は欲しいと思った者は何でも手に入れたくなるたちでして」

「俺は物かよ」

「いいえ、者です」

「んーと、どう違うの……?」

「キミにはまだわかりにくいかも知れませんね。でも大人になったら自然と理解できますよ」

 そういって大国はガキの頭を撫でる。大国への警戒を完全に解いたようだ。いやもともと警戒心がゆるかったのか。


 ふと、玄関の方から戸を叩く音が聞こえて来る。「お、きたのかな」と土地神がこぼして玄関へ向かう。奥の方からどうぞどうぞーと間抜けた声がする。土地神が客人を通しているんだろう。

 その客というのは、予想していたことでもあるが、俺が拾った犬のガキの母親だった。

 母親は毛並整った黒い犬で、俺の膝にいつの間にか乗っかっていたガキの顔に鼻をぐりぐりさせた。

「かーさま!」

 ガキもガキで母親の首に小さい両手を回す。ようやく会えた母親に気が緩んで、びいびい泣いた。けどすぐ泣き止んだ。


 立派な黒犬が前脚でぺすぺすとガキの鼻を叩くと、ガキは小さな黒犬に戻ることができた。ちゃんとした犬の姿は、よりいっそうちまっこくてかわいらしい。

「犬の神使親子お二方、今度ははぐれないよう、お互いをしっかり見守っていることです。ご主人のところまで、真っ直ぐお帰り下さい。またのお越しをお待ちしているから」

 土地神は改まって深く礼をする。犬親子も深々と頭を下げる。


 外まで俺と大国も見送った。ガキの方がこっちをちらっと振り向いて、前脚をふいふいと上げ下げした。人の姿と犬の姿じゃ、手足の扱いが違うからあんな変な仕草になっちまうんだろう。人間の形をしてた癖のためか、またねって言いたいんだけどうまくいかないんだ。

 俺は笑って手を振り返す。「またな」と、いずれ会おうという気持ちを表す。大国も優雅に手を振る。犬のしっぽがぶんぶん振るわれた。

 母親犬にさとされ、ガキは前を向きなおす。それっきりこっちを振り向かなかった。

「……帰るか」

「そうですね」

 土地神にあいさつして、俺たちも帰路へつく。


「小さな子というのはいいですね」

「あ……? あー、ガキのことか。……っつーか名前聞きそびれたわ」

「次に会うとき、教えてもらいましょうか」

「そうするわ。……子供なあ。うちのは皆大人になっちまったもんなあ。あんなちっさい子供は久々だ」

「私も、今のところは鳥鳴海くらいですね、小さい子は。でもそのうち、きっとたくさんの小さな子と付き合うことになりますよ」

「え、なんで?」

「私とお義父さんで、沢山子作りするんですから」

 大国は、いつもと変わらない完璧な微笑で、そう自信満々に答えた。


 いかん、顔が熱くなってる。夕陽だけのせいじゃない。いや夕陽に罪はない、悪いのはそういうことを言う大国だ。


「ば……っかじゃねえの!!」

「ひどいですねえ、本気ですよ」

「だっ、だいたい……男同士で子が成せるのかっつの!」

「神ならできますよ。神々というのは常識外れが常識ですから」

「良識をわきまえろばか息子!!」


 俺は恥ずかしくなって大国との距離を伸ばしたくてずかずか早歩きする。恥ずかしいは恥ずかしいが、だからってもう兄の屋敷に引き篭もることはしないぞ。出雲の屋敷にまっすぐ帰ってやる。


 だけど、性懲りもなく俺を本気で口説いてくる大国とは数日くらいは口きいてやんねえ。

 子供は好きだよ、だけど子作りとなると別だ。


 子作りなんてもうとっくに終わってんだよ! ましてやお前とだと?

 ばか言え、ああもう! ほんの少しでも悪くねーと思っちまったのはお前のせいだ、ばか息子!!

去年の5月に書いた際はキスの日ネタで書いたのでこどもの日に絡んで子供を登場させました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほのぼのとしていて読みやすかったです。大国と義父さんがこれからどうなるのか、どんな日々を過ごすのか気になります。 子ワンコ可愛い!
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