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「ちょっといい?」

「何?」


 晩御飯を食べ終え一段落した所を見計らって涙はゆうに声を掛けた。

 ゆうはいつもと変わらない調子と表情でこちらを見ている。だが涙の心境はゆうの穏やかな表情とはかけ離れたものだった。

 これから自分が言おうとしている事は、ゆうの人生を大きく変えるものになる。

 その時が来たら言おう。

 そう決めた時から、涙の中ではある程度の確証はあった。決定的な証拠があったわけではない。感覚的なものではあった。だが初めてあったその時から、ひょっとしたらという気持ちはずっとあった。

思い違い、考え過ぎではないかとも思った。だがとうとう認めざるを得ない事が起きた。

 それからもしばらくは普段通りの日常を繰り返した。しかし、自分が見たあの時のゆうの姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

 ――言わなきゃ。


 そう思えば思う程、それを口にする勇気が縮んでいった。それを伝えた時、ゆうはどんな反応をするのか。それが怖くて口に出せなかった。

 だがそんな自分が何より愚かしい事に気付いた。

 鮮明に残ったあのゆうの姿を思い起こす。

 それはゆうの苦しみそのものだった。心のバランスを保とうと必死な証だった。決して私の前でそれをおくびにも出さなかったが、ゆうは必死だったのだ。

 それを思えば、自分の恐れなど知れている。

 

 ――決めたじゃないか。ゆう君を支えると。


 涙は、覚悟を決めた。


「あのね」


 涙がそう口にした瞬間、ゆうは言葉の続きを遮った。


「いいよ、言わなくても」

「え……?」


 ゆうの顔は笑っていたが、そこには明らかに悲しみが同居していた。


「気付いちゃったんでしょ?」


 ゆうは、全てを悟っているようだった。


「うん」

「そっか」


 はあと天井に息を漏らした。全ての悪事がバレて、諦めるような仕草だった。

 

「気持ち悪いよね、そういうの」


 自嘲するような笑みがあまりに悲しくて、涙はそれを力強く否定した。


「そんな事ない!」


 そんな事ない。そうやって笑う者もいるだろう。貶す者、気色悪がる者もいるだろう。

 しかし、涙は一切そうは思わなかった。むしろそうあるべきだと思った。


「ゆう君は間違ってない。ゆう君の心は正しいと思う」

「……」

「それがどれだけの苦しみか、私には分からない」

「……」

「でも一つだけ」

「え?」

「私は、ゆう君をずっと支える」

「……」

「だから私思ったの。ゆう君のしたいようにすればいい。ゆう君の望むようにすればいい。その為に必要な事があるなら、私がそれを全力で支えるし、援助する」

「涙さん……」

「変わろ、ゆう君」

「……」


 ゆうは瞼を閉じた。その瞼から静かに雫が流れ落ちていった。

 涙は、もう一度ゆうに伝えた。


「本当の、あるべき姿に変わろ」


 ――どんな姿でも、ゆう君はゆう君だ。


 涙はゆうの体をそっと抱き寄せた。


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