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「久しぶりだな」

「ほんと久々」


 

 運転席に座るそこに懐かしい顔があった。日比谷恭介ひびやきょうすけ。元椚中学出身の健二の級友の一人だった。


「理沙ちゃんとは続いてんだろ?」

「ああ。おかげさまで」

「ほんっと、すげえよ。俺なんか彼女と一年と続いた事もねえのに」

「それはお前の付き合い方が悪いんじゃねえか?」

「振ったのは全部俺からだよ」

「じゃあお前の目が悪かったんだよ」

「敵わねえな。我らが誇る名カップルに言われちゃ」


 そう言いながら、恭介は口から煙を外に吐き出した。煙草を吹かす恭介の姿を見て改めて時間の流れを感じた。あの頃は煙草なんて悪ガキのいきがりだと嫌悪していた恭介が、今その嫌悪を大人の証明のごとく燻らせている。

人生分からないものだ。恭介が煙草を吸うようになった事も。

 同級生が殺されていくなんて事件が起こるのも。


「しっかし、こんな事になるなんてな」


 恭介が言うこんな事とは過去の事件だけを指してはいない。



「これで、三人目か」


 健二は事件が起きてから何度吐いたか分からないため息にまた一つ数を重ねた

三人目。

 浅谷海斗あさやかいと。それが三人目の犠牲者の名前。

 彼もまた、椚中学の出身であり拓海達不良仲間の一人だった。


「恭介、どう思う?」

「この件に、信也が関わっているかどうか、か?」


 健二は事件の見解を求めるというより、共感を得たいという気持ちで恭介に意見を求めた。

 ここに来てまた拓海達のグループの一人が殺された。あまりに密接な被害者達の関係性。これを偶然と考えるには、さすがに無理があるだろうと健二は考えていた。むしろ海斗の死が、これまでの事件と関連している意味を語ろうとしているように健二には思えた。

 君塚もそれは同様だった。電話口での君塚は相当に苛立っていた。長く話す事が憚られる雰囲気に健二も多くを尋ねる事は出来なかったが、概要だけは知る事が出来た。

 海斗の死因は水攻めだった。海斗の体は大量に飲み込んだ水で臓器が破裂していたらしい。無理矢理多量の水を飲ませ続けられ、内部から体を破壊された。その手口も今までの残忍さに通じる。間違いなく同一犯だろう。だがそれは二件目の真一の時点で既に出ていたもので、だからこそ椚中学関係者に捜査を張り巡らせていた。にも関わらず事件はまた起きてしまった。健二自身も正直警察は何をしてるんだと言いたくなる気分ではあった。


「信也か。正直今回の件で思い出したってとこあるよな」

「でも、見たんだろ? あいつがイジメられてるとこ」

「ああ、一回な」


 信也は拓海達にイジメを受けていた。恭介の口から聞く事でそれが真実であった事を知る事が出来た。健二が持ち合わせていない記憶が、恭介の中にはあった。探偵ごっこをするつもりは毛頭なかったが、同じ時間を過ごしてきた者と話をする事で少しでも何か気持ちを落ち着かせたかった。そんな思いが恭介との時間を引合す事になった。

 

「偶然も偶然。ほら、校舎裏んとこ林あるだろ? たまたまそこ通りかかった時になんか人が見えてさ。で、見てみたら」

「拓海達と信也がいた」

「ああ。何してるのかと思ったら、拓海が信也の髪の毛を鷲掴みにしてる所だった。一目でじゃれてるわけじゃないってのが分かった。驚いたよ。クラスの中ではそんな素振り一切なかったのに」

「よく覚えてたな」

「久崎信也って言葉を聞いた瞬間、強烈にその記憶が蘇った。それ以外の記憶はすっぽりなのに。それだけインパクトあったって事だよな」


 誰の記憶にも足跡をほとんど残してこなかった信也。だがその裏では、地獄の苦しみながらも同じ時間を過ごしていたのだ。


「信也って、転校したのか?」


 健二はイジメの事実とともに、ずっと気になっていたもう一つの点について恭介に尋ねてみた。だがこの問いには恭介もはっきりとした答えは持っていないようだった。


「どうだろうな。気付いた時にはもういなくなってたからな。担任も特別何も言ってなかったしな」

「あんまり熱心な人じゃなかったもんな」

「でも今思えば転校であれ退学であれ、俺達に何も伝えなかったあたり、それなりの事情があったんだろうな。ネガティブな理由だったからあまり公に伝えるべきじゃないってのがあったのかもしれない」

「そうなのかもな」

「いろいろ総合して考えると、信也がやったんじゃないかって思えてくるよな、やっぱり」

「……」

「でも、死んだんだよな、あいつも」

「そうらしい」

「……ってなると、信也の死を無念に思っている者の代行復讐ってとこか。そうなると信也の兄弟、っていたかは知らないが、それか親とか」


 その辺りについては健二も一度考えた事がある。だがそれは考えてみるとあまり本筋をついたものではないように思えた。


「でもだとしたら、なんで今更」

「ああ……それもそうだな」


 復讐だとしても、ここまで時間を置いてから実行した理由が分からない。仮にイジメの事実を最近になって知ってというのであればまだ分からなくもないが、それもおかしい。

 信也は途中から学校に来ていない。その事実を親自体が知らないわけがない。その時点で息子の身に何か良くない事が起きている事は容易に想像がつくはずだ。もし復讐の感情が沸き起こるならその時点で殺人とまではいかずとも、何かしら行動を起こしているはずだ。


「偶然なのかな」

「え?」

「三人が死んだのは、実は椚とは何の関係もなくて、本当にたまたま繋がりを知らない頭のイカれた犯罪者が殺したとか」

「それは……」

 

 ないだろうと、健二は思ったが否定出来る材料もなかった。

 可能性としては非常に薄いだろうが、今まで考えていた信也およびその親類、近しいものの犯人説が通じないのならそれ以外に犯人がいる事になってくる。


「まあやっぱ、俺らがいくら考えても分かんねえよな」

「そうだな。けどどうも不安でさ。最近この事で頭いっぱいで……」

「しゃあないよな。でも気にしても仕方がない。言ってる間に社会人だ。もうきっと最後だぜ。気楽に遊んでられるのも」


 恭介の言う通りだった。考えれば考える程に暗い気持ちになり、得も言われぬ不安感がまとわりついた。こんな事件さえなければ、今頃羽を伸ばして最後の学生生活を謳歌していただろう。


「たまにはスカッと遊ぼうぜ」

「そうだな。ありがとう、恭介」

「じゃあ、当てもなくとりあえず走りますか」


 恭介ってこんな奴だったかなと思いながらも、彼の好意に感謝し今日はもう事件について考える事はやめた。


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