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「今日は彼女と一緒じゃないのか?」

「友達とご飯に行ってます」

「友達? 気を付けろよ」

「大丈夫ですよ。大学の友達です。椚とは全く関係ない子です」

「そうじゃない」

「え?」

「あんな美人さんだ。どこでどんな男に言い寄られてるかも分からんぞ」

「は?」

「ま、余裕こいて安心しきるなって事さ」

「なんかそういう経験でもあるんですか?」

「少し長く生きてきた先輩からのアドバイスだよ」


 よいしょと、君塚は机の前にどっかりと胡坐をかいた。すっかり健二の部屋にあがる事に遠慮の様子はなかった。いや思い返せば最初の頃から特別遠慮はなかったか。


「で、今日は?」

「ああ。ついでに近くまで来たんで寄らせてもらった。喉が渇いてな」

「何ですかそれ。じゃあお茶でも飲みます?」

「冗談だ。まあくれるのなら貰うが」

「どっちですか。ちょっと待っててください」


 健二はコップを二つ用意し、両方に冷蔵庫で冷やしてあるお茶を注ぎ込んだ。


「どうぞ」

「ああ、悪いね」


 そう言うと君塚はすぐさまコップを傾けぐびぐびと喉を鳴らした。コトリとコップを置くと、すっかり中は空っぽになっていた。


「相当喉渇いてたんですね」

「で、例の件なんだが」


 君塚のマイペースに思わずため息をつきそうになるが、その表情が先程までとは違い仕事モードに切り替わっている事に気付き、健二は姿勢を正した。

「久崎信也。そこに重点を絞って捜査をしてみれば、面白い程に全てが最初に思い描いてた通りになる」

「それはつまり怨恨、ですか?」

「そうだ。何人かの生徒が当時の彼の様子を語ってくれたよ。放課後、石崎達に何やら詰め寄られていたり、暴力を受けている場面を目にしたと」

「あいつらが……」

「表面的に分かり易いものではなかったようだな。あまり人気のない場所にわざわざ久崎を連れ込んでのそれだ。ただの暴力以外にも陰湿なイジメがあった事を窺わせる」

「って事は、やっぱり今回の件はイジメへの報復」

「二人の残忍で手の込んだ殺され方は、当時の自分の痛みそのものなのかもしれんな。自らが受けた痛みを知らしめる為に。そう考えれば、久崎が犯人という信憑性は非常に高い。被害者との共通点に関しても筋が通せる」

「じゃあ、信也が」


 目の前に並んだ事実は、信也が犯人を指しているとしか健二には思えなかった。

 しかし君塚は何故か渋い顔を決め込んでいた。


「これで終われると思ったんだがな」


 君塚は、はあと息をつき目を何度も乱暴にこすった。


「どういう事です? もう久崎が犯人で決まりって言ってもいいぐらい、というか聞いている限りそうとしか思えないんですけど」


 健二がそう言うと君塚は苦々しそうに、僕らもそう考えていたさと独り言のようにつぶやいた。


「ストーリーは完璧。だがな、いくら出来た話でも役者が揃わなきゃ舞台は始まらない」


 君塚の言っている意味が分からず、健二は首をひねった。

 言葉を待っていると、君塚は健二から目を逸らし決定的な事実を告げた。

 

「久崎信也は死んでるんだよ。とっくの昔に」


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