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(2)

 ある日の事。涙が風呂から上がり、髪の毛をがしゃがしゃとタオルで拭きながら部屋に戻ると、ゆうが体育座りである一点をじっと見つめていた。


「ゆう君、どうしたの?」

「ずっと気になってたんですけど」


 そう言いながらもゆうの視線はそのまま一点を見つめたままだった。

 その先を見ると、涙は少しだけ心が曇った。そこにはまだ涙自身乗り越えきれていない痛みがおさめられていた。

 小さな額に入った一枚の写真。涙の横ではにかむような笑顔を見せる幼い少女がそこにいた。


「玲奈。私の妹だよ」

「妹?」

「そう。かわいいでしょ」

「はい」

「玲奈が小六の頃の写真。私が当時高二か。時間ってホントあっという間。この頃はまさか将来自分がキャバクラで働いてるなんて思ってもなかったな」


 当時の自分と今の自分を見比べ、思わず苦笑が漏れた。あの頃はまだ夢や希望をささやかながら持っていた気がする。その頃の夢の中では、今頃私は運命の人を見つけ子供を産み、幸せな家庭を築いているはずだった。

 それが今はどうだ。将来なんて諦め、ただ今日という時間を過ごす毎日。ゆうが来てからだいぶと活力が戻ったとはいえ、人生この先どうするか、その点については全く涙自身不明瞭だった。

 いつから私は崩れだしたのだろうかと、写真を見つめ涙は思った。

 

「もう、この世にはいないんだけどね」


 今の自分が始まったきっかけ。

 それは間違いなく、玲奈の死だった。


「え……あ、あの、ごめんなさい。余計な事聞いちゃって」


 ゆうはばつが悪そうに身を縮こませた。


「ううん、いいの。ずいぶんと昔の話だし」


 とは言うものの、玲奈の死は決して優しい思い出として振り返れるものではなかった。思い出す度に胸が痛み、今でも沸々と怒りが湧き立つ。


「あの、聞いてもいいですか?」


 ゆうは遠慮がちに言った。


「何?」

「どうして死んじゃったんですか?」


 玲奈が死んだ理由。

 それは忘れられず、忘れてはいけないものだった。

 妹の無念を、苦痛を、姉である自分はそれを抱えて生きていく責任があると涙は思っていた。

 

 ――許さない。絶対に。


 己の情念が当時から一切色褪せていない事に涙は安心する。


「イジメられてたの。苦しさから解放される為に、玲奈は生きる事をやめちゃったの」



 忘れもしない。

 忘れてはいけない。

 動くことをやめた玲奈の体。

 苦しさ悲しさを脱ぎ去る代償に、永遠に喜びも楽しさも幸せも諦めた玲奈の命。

 そして、助けられなかった自分自身の無念と怒り。

 玲奈が中学にあがってしばらくしてからの事。彼女は学校の屋上から飛び降り自殺した。

 それが事実。でも違う。自殺なんかじゃない。

 彼女は殺されたのだ。イジメという悪魔の戯れに。


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