頭の大きい人の帽子の詩
宇宙を漂うリボンは
びくともせずにぐしゃぐしゃのまま
無音で泣きじゃくる電子機器の方が
あまたの心のぐしゃぐしゃに似ている
場面の変わる瞬間に
テレビを消す瞬間が重なって
形になる前の映像の
飛沫が顔にかかった
『すぐに多量の水で洗い流してください』
『そのまま放置すると……』
頭がぶよぶよ
大きくなったの
特に目玉は
重たく
大きく
時間を這って
どうにかキッチンのわたしに追いついた
つくられた料理はいつも
少々を少々
行き過ぎる失敗で
ぐつぐつ煮立つ
鍋や湯気や換気扇
あなたが見るものすべて食べ物に見える病なら
あなたのキッチンは鍋の中ね
ぐつぐつぐつぐつ
ぐつぐつぐつぐつ
過食と拒食とあなたの
姿はどんなかたちに留まるの
テーブルに用意される
わたしの奥
料理の手前で
あなた
勝手に頭から
ひらひらしてたリボンを
外に向かって伸ばして行った
おかげで頭は小さくなって
初めから触れてなかったみたいに
なんの感触もなく
重くもなく 軽くもなく
消えた
食後に皿の上
蛍光灯の光を詰めた
ゼリーのお腹にスプーンを差し込んで
じっと動かないでいる
切断される瞬間の
ぷるんこそがゼリー
口の中に入れてしまえばもう
嫌悪感という糖でしかない
目を閉じて
甘味から逃げようとする
秘密の道を
踏んづけて行って
冷たい木の看板
暖かい木の看板
冷たい木の看板
暖かい木の看板
そういう言葉に強弱する
街灯あのランプは
誰が持ち込んだの
いったい誰
とうとう町の帽子屋さんで
もうとうに用のない店にて
帽子を被ろうとするでも
彼の頭は大きすぎて
ちょこんと
乗っかるだけ
彼がこちらを向く前に
帰ろう
夕暮れには
湯船にひたろう
蒸気に霞んで
あたたまろう
帽子の代わりに
洗面器をかぶれば