この世界は(The world is・・・
「はっ、はっ、はっ」浅い呼吸を繰り返しながら私はひたすら走る。背中に担いだM700スナイパーライフルが太いパイプを飛び越えると同時に大きく揺れた。視界左上に半透明に表示されるマップを見ると目的地が近いことがわかった。といっても本当に半透明の物体があるわけでもなく。この地図は、私がかけているデータベースゴーグルに表示されているだけだ。これが結構優れもので様々な情報が確認できるし、無線通信も可能、さらには暗視機能、熱源探知、索敵機能などがあってとても役にたつ。遮蔽物に身を隠しながら進み、角までくる。そっと次の通路を確認し、ゴーグルで索敵をする。敵がいないことを確認するとまた走り出す。突き当たりにある螺旋階段を上り、屋上に上がった。屋上の扉を開け、外に出ると同時に私の黒のロングコートの裾が風でバサバサと揺れる。
「あそこ・・・か。」
目の前に巨大なドーム状の建物が見える。そこが目的地だった。そのドーム状の建物は半壊していた。その周りにも破壊された建物が広がっている。いや、はるかかなたまで崩壊し、破壊された建物が広がっているのだ。今、人類がどんな状況か。今まで何があったのか。そのすべてを目の前の風景が物語っていた。ユサの生まれる数十年前、2090年ぐらいにこの終わりのない人類と機械の化け物との殺し合いがはじまった。そのきっかけは同じ殺し合い、つまりは戦争からはじまった。人間どうしが己の欲に目がくらみ、戦争をはじめたことからはじまったのだ。その戦争では、人間も戦ったが、彼ら人間から生み出されたロボットも参加させられた。ロボットたちは戦争の為に開発されたのだ。だが、人間どうしの愚かな戦争はロボット達が自由を得ることによって皮肉にも終結した。今はそのロボット達との戦争になっている。
彼ら人の手によって作られたロボットに《心》が芽生えたのはいつからだったのだろうか。一人の科学者によって基礎構築、作成されたしがない人工知能達に本物の《ココロ》があったことに何故人間は気付かなかったのだろうか・・・。そんなこと私にはわからない。でも私にはロボットの気持ちも分かる気がした。人間達に都合のいいように殺し合いをさせられ、戦争によって仲間たちが無残にも次々と破壊されていくのに心を痛めるが何もできない悔しさ、悲しさはあっただろう。心がない方が楽だったかもしれない。最初にロボットを開発した人はどうして彼らロボットに心を与えたのだろう。それとも、《心が後から芽生えたのか》。確かロボットの制御プログラムをハッキングして、人間に立ち向かえるように、自由にしたのもその人だったはず。その後のその人の消息は不明らしい。
まあ、でも例えその人がロボット達を自由にしなかったところで人間は勝手に滅びていただろう。それに、こんな都合のいいようなことを考えているけど、私は死ぬのが怖いし、死にたくない。だから必死に生きている。皮肉なことだ。私も含めて本当に人類は往生際が悪く、貪欲でどうしようもない。今の世界の総人口は九千万人まで減少してしまったがまだ悪あがきしている。
「こちらリムゾン。お~い。第1ポイントに到達したか?お嬢さん聞こえてる?」
そんな物思いに耽っていた私の思考を耳元の無線から聞こえる声が現実に引き戻した。
「こちらユサ。第1ポイントに到達した。これより作戦を開始する。」
慌てて答える。
「いやー。こんな若くて可愛い女の子に危険な任務をさせるのは心が痛むねぇ。」
嘘つけ!と思ったが口には出さない。一様彼、リムゾンは私の上司・・・らしい。本当に腹立たしいけど。
「うん。君が今何を考えているかなんとなく分かる気がするぞ。どうせ、そんなこと思ってねーだろとか思ったんだろ。でも俺は本当に心配してるんだぞ?だって君が死んだらニーソックスをはいたムチムチの太ももが拝めなくなるじゃないか。」
「・・・切りますよ?」
私は怒りを言葉にこめて言う。
「へいへい。んじゃま頑張ってねー。」
それっきり言葉は聞こえなくなる。どうせ、またむせ返るような匂いのする葉巻を燻らせながら笑いをこらえているのだろう。
私はため息をつくと背中に背負っていたM700を構え、屋上の床に寝そべった。腹ばいになりながら、スコープを覗き込む。同時にゴーグルの右側のスイッチを押し、索敵モード、熱源探知モード、音源探知モードを起動させる。すぐさまいくつもの反応が確認できた。一番近いのは9時の方向に3体の反応。M700をそちらの方向へ向けてスコープのつまみをいじり、倍率を上げる。スコープいっぱいにロボットが映し出される。しかし、ロボットとはいっても人型ではない。短い四本足に、四角い長方形の物体が合体したような感じだ。残りの2体は二本足で長く巨大な足の上にちょこんと制御ユニットが乗っかっている。片方の足の先端部分は鋭く尖った刃状になっている。ロボットは大きく2つに別れる。一つは今私が狙っているロボット達のような心のないただの殺戮兵器《機神兵》。2つ目はそれらを操る心のある人のようなロボット達。ロボットと言っても本当に人にそっくりで、人口皮膚によってほとんどたいして外見は人と変わらない。彼らはヒューマノイドと呼称されていた。しかし、いくら人間に似ていてもヒューマノイド達は強靭だ。銃弾を軽く当てた程度では壊れ、いや死なない。とてつもなく強い。中でもS級と呼ばれるヒューマノイド達はずば抜けた強さだった。
私はまず、二本足のロボット。ヒューストに狙いを定める。弱点のコアは右足の付け根。自分の鼓動と共に小刻みに揺れ狙いがつけにくい。ましてや相手は動きまわっている。ここがスナイパーライフルの扱いの難しさだ。私は雑念を頭から抜き出し、狙い続ける。やがて意識が糸のようにピンとなり、ぐっと息を止めた。とたんに揺れがなくなる。そしてゆっくりと私はトリガーを引いた。銃口に取り付けられたサイレンサーのパスッという微かな音共にヒューストが爆発、炎上する。私は敵が破壊できたのをを確認すると同時に照準を移動し、次の敵に狙いを定める。トリガーを引く。再び轟音。2体目のヒューストが破壊された所でようやく四角い長方形のロボット。スクエアが襲撃を確認して周囲を索敵しはじめる。すぐに破壊しないとこちらの存在に気づいてしまう。スクエアの探知範囲は半径100メートルで恐らく距離的にはその範囲には入らないので大丈夫だろうが、他のロボット達を呼ばれたら厄介だ。素早くコッキングレバーを引いて薬莢を排出すると狙いを定めて再びトリガーを引いた。
狙撃開始から10分で索敵範囲内の敵を撃破すると私はゆっくりと起き上がった。時刻は12時45分、作戦開始から45分がすでに経過している。私は無線機でリムゾン中尉を呼び出すと言った。
「こちらユサ。目標ポイントから半径1600メーター内の敵を全て撃破。確認お願いします。」
「問題ないな。その年でなかなかいい腕してるな。相変わらず。確か世界記録で最長射程は2200メーターだっけ?」リムゾンの緊張感のない返答を聞きながら私は溜め息とともに答えた。
「公式的にはそのはずですけど、私的にはリムゾン中尉の2700メーターを超えるまでその言葉はとっておいて欲しいです。」
「あー、んー、あれねー。ありゃあマグレだっつの。そんなことより」
「なんですか?」
私は不自然に言葉をきったリムゾンに聞き返した。
「死ぬなよ?」
「ブリーフィングじゃ、そんなに危険ではないと聞いたんですけど?」
ちょっとおどけた感じで言うとリムゾンは溜め息混じりに言う。
「危険性が0な訳じゃない。ちゃんと帰ってこい。わかったなー?」
「はいはい。もう聞き飽きましたよ。」
私はクスッと笑うと無線を切って、腰のベルトのスイッチを押し、手を勢いよく振った。カシャンという音と共に腕に装着された長方形のガス式立体起動装置が手元に出る。この装置は高所へ《登っ》たり高所から《飛び降り》たりする行動を補助する装置で射出されるワイヤーの先に三つの鎌のような突起物が三方向についている。それを引っ掛けて使う訳だ。
「よし!行くか!この仕事終わったら真っ先にシャワー浴びようっと。」
呟くと同時に私は高層ビルの屋上から飛び降りた。
[2]
廃虚と化したコンクリートジャングルをビル伝いに移動する。目指しているのは巨大なドーム状の建物だ。あのドーム状の建物は発電所でユサの所属している第222小隊BeastofEastが拠点にしている極東基地に電気を送るのが今回の作戦だった。・・・まあ、作戦とはいえ現場に直接突入しているのは現時点ではユサ一人だけなのだが。大いに不満がありすぎるくらいあるけども仕方ない。
「よっと!」
私は巨大なドーム状の天井に巨大な穴が開いているのを確認し、飛び込んだ。空中で立体起動装置を使い骨組みに引っ掛ける。そのまま勢いを緩めて床に着地しようとする。
「ガキンッ!」
「へ?ガキン?」
床まであと5メートルの所でいーや~な音がして、直後ワイヤーが曲がり、ガクンと視点が変わる。
「きゃあああああっっっ!」
結果金切り声を上げながら地面に向かって吹き飛ばされる事になった。そのまま地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。
「いったたた。さすがにアクション映画みたいにかっこーよくいかないかー。」
私は溜め息をつきながらお尻をさすった。立体起動装置の長方形の物体の側面にあるボタンを押してワイヤーを回収してから立ち上がり、大きく息を吸った。
この発電所は水が落下する時のエネルギーを利用して発電している。要するに水力発電なのだけど、本来水力発電はわざわざ人が管理する必要はほとんどなく、機械の遠隔操作で管理している。要するに極東基地の電力管理局が管理しているのだが、異常が出て電気が来ないからとりあえず大した価値もない下っ端兵の私が見てこないといけなくなったのだ。・・・管理局仕事しろよっ!と大声で喚きたいけど、そんなことをしたら機神兵共の恰好のエサだ。我慢する。
予めダウンロードしておいたマップによると地下に発電所の管理室があるようなのでそこに向かう。
歩きながら右手に巨大なダムの壁が見えた。データベースゴーグルをかけて、慎重に索敵をしながら進むちなみに武器はM700からH&K Mk23に切り替えている。室内においての近距離戦闘ではスナイパーライフルは取り回しが悪いし、はっきりいって邪魔だ。
その点Mk23なら拳銃なので取り回しがいいし、サプレッサーとLAMによるレーザーポインターがあるから狙いもつけやすい。階段の途中にいたスクエアニ体の制御ユニットをピンポイントで撃ちいて起爆させることなく破壊し、地下へ降りていく。エレベーターを使用できれば楽なのだけど、そんな事をしたら《機神兵》に見つけてくださいと言っているような物だ。
目元に垂れてくる汗を拭い階段をおりきると、地下にたどり着いた。慎重にゴーグルで辺りを索敵しながら太いパイプを越え、目的の発電所に向かう。途中、またも《機神兵》を見つけ、制御コア目掛けてMk23の45ACP弾を打ち込み。グネグネとした通路を数十メートルほど進むとようやく発電所に到着した。
「よっし!あと一息頑張ろっ!」私は自分を鼓舞するように呟くと発電所に飛び込んだ。
[newpage]
[3]
「はぁ、終わったぁ。」全ての作業が終了して、私は疲れきってその場にへたり込んだ。電気が遅れていなかった理由は熱でいくつかの送電ケーブルが焼き切れていた事と、発電用の水車がひしゃげていたことだった。一連の作業をできる限り手早く終わらせ(水車の補強中に《機神兵》が何度も通り過ぎていくせいで胃が痛くなったが)発電所に戻り、制御装置をいじって電気を基地の各所に送りこんだ。これで私の任務は終わりだ。あとは帰ってシャワーを浴びて、ゆっくり晩飯を食べて寝るだけ。
「あぁ、はやくレーション以外の物が食べたいなぁなんて。」
そんな事を呟きながら無線を取り出してリムゾン中尉を呼び出す。
「こちらユサ、応答願います。」
「おう、俺だ。どうやら成功したみたいだな。無事電気が届いたと、管理局から電話があったよ。」
「では今から帰投しますね。」
「お~う、とっとと戻ってこいよー。」
無線を切ると立ち上がり、(もちろんゴーグルで周りに敵がいない事を確認して)伸びをした。
「うーんっ!今日も平和だ。」
帰りはそこそこスムーズだった。行きの時に何体か《機神兵》を破壊したせいかほとんど遭遇せず、地下から地上に上がるのに行きの時は40分ほどかかったのに20分もかからなかった。今回の任務はいつもより報酬額は多いはずだ。途中で服でも買っていこう。このミッションの二週間前に可愛い黒いジャケットを見つけたのだが、生活するだけで精一杯の私にとってとても辛い額だったので諦めていたのだ。私だって女の子なんだからたまにはそういう贅沢したって文句は言われないはず。そんな事を考えながら次の通路を索敵して曲がった瞬間。・・・壁が爆発した。
[4]
コンクリートでできた壁がバラバラになって砕け散るのと同時に強力な風圧に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「っあぅ!」
肺の中の空気が押し出され、背中に激痛が走る。
「ケホケホッ!なっ、何?」
私は咳き込みながら目を開けた。目の前に巨大なロボットがいた。全長はだいたい30メートル。特徴的なのは巨大な八本足だ。先端が鋭く尖っている。足が接合している本体は後部に2つの制御ユニットのコア、前部には巨大な主砲が中央にあり、そのまわりに電磁石の理論を利用したコイルガンの砲が主砲を中心にして両側に5つついている。不気味な紅い光をやどすセンサーがこちらを認識したと同時に私は思いっきり右に飛んだ。次の瞬間、ゴバッという音と共にさっきまで私が立っていた場所を中心に地面が割れる。
「きゃあああああぁぁぁぁっっっ!!」
大量の瓦礫と共に私は落ちるはめにあった。立体機動装置を使って闇雲にワイヤーを射出した。ガクンと体が落ちていくスピードが減速し、肩にナイフで刺されたような痛みが走る。腕一本に全体重が加わったのだから当たり前だ。落下が止まると同時に頭上から全身に衝撃がきた。
「うっ・・・っく。な、なんなの。冷た!?」
私は呻いてから気づいた頭上から落ちてきた物は大量の水だった。頭を振って水分を弾き飛ばし、辺りを見まわした。どうやらここは地下一階らしい。だが、発電所が地下二階にあったから一階にはよっていないかったので、ここがどこなのかは詳しくはわからなかった。ワイヤーを回収して無事地面に降り立った私はゴーグルでマップを呼び出して現在位置を確認した。とりあえずここから通路を直進し、15mほど行った所で左折すればすぐに階段のようだ。そんな事より。
「さっきの《機神兵》は《バインドアクス》だったはず。」
私は一度だけ資料であの蜘蛛のような《機神兵》を見たことがあった。さっきまで私が戦ってきたスクエアや、ヒューストとは比べ物にならないほど危険な《機神兵》だ。
「そんな奴がなんでこんな所にいるの!?い、いい意味わかんないよ!?」
私は自分がパニック状態になりかけているのがわかっていた。しかしどうしようもなかった。さっきまで《普通》だったのだ。それがいきなりこうなってしまったらパニック状態になるのも当たり前だ。
「私、死ぬのかな・・・。」
そう呟いた瞬間脳裏にあの時の記憶が蘇った。{お姉ちゃん。絶対に死なないでね?約束だよ?}
「っっ!約束したんだ。まだ死ねない。」
その言葉を思い出した瞬間一気に脳が冷静になって、パニックが収まった。
「はぁ、私未だにユウキに助けられてばっかだな。とりあえず、こうしちゃいられない。」
生き延びる為にはぼんやりしている暇はないのだ。とりあえずリムゾン中尉と連絡をとろうとする。しかし、一向に繋がらず雑音しか聞こえない。
「そうか、《バインドアクス》にジャミングされてるんだ。」
よく考えてみたら辻褄があう。あの時、確かに私は任務が終わって気が軽かったとは言え、慎重に索敵しながら進んでいた。ゴーグルに反応がなかったのは最初からジャミングされていたから気づかなかったのだ。それに超合金で作られた水車があんな風にいとも簡単にひしゃげるわけがない。あれほどの超重量級《機神兵》が関与しない限り・・・。
「うかつだった・・・。どうする。どうするの私。」
こうしているうちにも《バインドアクス》は各種センサーを使って私を探しだそうとしている。時間は少ない。どうにかして撃破または、逃げ切らなければならない。いや、《バインドアクス》相手に逃きれるはずがない。過去の遭遇例のデータからもそれはわかる。かえってこれた者はわずかだった。
「壊す・・しかないか。」
言葉にした瞬間、身体が震えた。震えを抑えるために歯を食いしばる。
「やるぞ。」食いしばった歯の間から私は言った。
[5]
まず、私がしたのは持ち物の確認だった。M700に、Mk23、C4プラスチック爆弾5kg、レーション、チャフグレネード。
「これでどうやってあいつを破壊するんだろ。いや、やらなきゃ・・・死ぬのか。」
私は必死に考えた。スナイパーライフル程度じゃあの《巨大型機神兵》の装甲にかすり傷がつく程度だろうし、C4も結果は期待できない。なら地形を利用するしかない。私はゴーグルを操作して、水力発電所の地図、《バインドアクス》のデータを呼び出した。
「できるかも・・・」
しばらくデータを睨んだあと私は呟いた。《バインドアクス》は長時間の行動を2つの制御ユニットの中枢にある巨大な動力炉のおかげで可能にしている。武器はコイルガンに、主砲のウォーターレーザー。主砲の仕組みは圧力を限界まで高めた水を音速で射撃するといった感じだ。
「まずはあいつに出会わないと始まらないか。」
といっても真っ向から勝負を仕掛けるつもりはない。そんな事をしたら自殺行為だ。
「でも、どうするか・・・。」
私が首を捻っていると、ズシンズシンという音が聞こえてきた。この音は間違いなく
「《バインドアクス》だ!やばっ!」
といっても今さらどこに逃げようとセンサーを赤外線センサーを使われてしまえば一発でばれる。そうこうしているうちにも音は迫って来ていた。
「そうだ!」
私は慌ててゴーグルを外すと操作して、適当に放り投げた。そして走り出す。立体機動装置を使って瓦礫を登り上の通路にたどり着くと同時に《バインドアクス》が姿を表した。とっさにすぐ近くの物陰に隠れる。(・・・頼むっ!!)《バインドアクス》は辺りをゆっくりと見回した。そして・・・ゆっくりと私のいる方向へ近づいてきた。
(駄目だったか!)心臓が早鐘を打つ。だが直前でとまり、頭部を別の場所へ向けた。そう、私がゴーグルを投げた方向へ。
(まだだ。)焦る気持ちを押さえつけてひたすらタイミングを待つ。《バインドアクス》が巨大な体もゴーグルの方向へ向けた瞬間
「あああああっっっっ!!」
私は飛び出した。通路の方向ではなく[の方向へと]。そのまま巨大な本体に飛び乗ると素早く制御ユニットへC4爆弾を取り付ける。と、同時にチャフグレネードを上空へ投擲。そして《バインドアクス》から飛び降りた。次の瞬間私が居た場所をコイルガンが凪払う。すぐにチャフでの妨害、飛び降りてなければ消し飛んでいただろう。その前に輻射熱で溶けているかも。
私は《バインドアクス》が砲をこちらに向ける前に素早くポケットからチャフグレネードを取り出し、ピンを抜いて投げつけた。チャフグレネードは《バインドアクス》の目の前で爆発し、金属のストリップ片を撒き散らした。同時に私は地下二階への階段に向かって走り出しながらC4の起爆スイッチを押す。たちまち後ろで爆発音が聞こえた。振り返って補給用の電気ケーブルが露出してるのを確認する。なぜわざわざ危険を冒してユニットを爆破したかというとユニットに内蔵してある電気ケーブルを引き出すためにある。[弱点]無しでは太刀打ちしようがないので、[弱点]を作り出す必要があったのだ。頭のなかに突発的にひらめいた突破口だ。ゴーグルの赤外線センサーを囮に利用し、目標を爆破、逃走時に[電子機器]に障害を起こすチャフグレネードを使って《バインドアクス》を混乱させ、逃げる。だが、この程度の攻撃では《バインドアクス》には大したダメージになっていないだろう。あくまでも[弱点]をつくっただけである。その[弱点]に的確なダメージをあたえなくちゃならない。その為に利用するのが発電機の近くにあるコンテナのような形の大型コンデンサーだ。ここに溜まった電力を使う。
私は階段を降りきると発電所を目指す。発電所にたどり着くと手早く制御装置の水圧ロックの解除ボタンを押す。そして、発電所を出て水車のすぐ近くにあるパイプのような物を辿っていく。このパイプのようなものは水圧管路と言って、水槽に溜まった水を発電所まで送る水路だ。とても高い水圧がかかるから材質は強固な鋼をしようしている。・・・らしい。その水圧は《バインドアクス》のウォーターレーザーに匹敵するほどだ。私は水圧管路を辿りながらC4爆弾を設置していく。水圧管路は地上にある水槽から地下の発電所につながっているので必然辿っていくと段々と急な斜面になる。滑り落ちないようにワイヤーで体を固定しながら進んでいく。C4爆弾を可能な場所まで設置し終えたと同時に私の耳にガシャガシャと硬質な音が聞こえてきた。《バインドアクス》が迫ってきている。
「まずいっ!」
ワイヤーを外すと同時に地面を蹴った。私がジャンプすると同時に壁が吹き飛び、瓦礫とともに《バインドアクス》が姿を表す。
「がっ、あぅっ!」
急な斜面を転げ落ち、地面に叩きつけられる。私は身体の痛みを我慢して立ち上がると走った。さっきまで私が倒れていた所が《バインドアクス》のコイルガンで吹き飛ぶ。衝撃でまた、地面に倒れ込みながら私はC4の起爆装置を押した。爆発音と共にボゴンッという破裂するような音が響いた。水圧管路が爆発し、大量の水が吹き出す。強烈な水圧が《バインドアクス》を襲う。だが、それでも壊れない。あちこち装甲がひしゃげているが、軽快な動きで私を狙ってきた。だが、《バインドアクス》が主砲を撃つよりも先に私は大型のコンデンサーに設置したC4の起爆装置を押した。その瞬間大型コンデンサーに貯められていた膨大な電気が放出され、水を伝ってその先にいた《バインドアクス》のケーブルへと到達した。辺りを水浸しにしていた水が一瞬で蒸発した。そして、《バインドアクス》は凄まじい光と音を発しながら爆発した。
「あああああっっっっ!!」
あまりの目の痛みに私は悲鳴を上げた。爆風に吹き飛ばされる。
ゴロゴロと地面を転がり、壁に叩きつけられる。頭のキーンとした痛みと目の痛みに顔をしかめながら顔をあげるとそこには無残に大破した《バインドアクス》があった。
「た、倒したのかな?」
そっと立ち上がると胸に激痛が走る。これは肋骨が数本折れているかもと思いながらヨロヨロと《バインドアクス》に近寄っていく。近くで見てみると改めて巨大なのがよく分かる。砕け散った装甲一つが私の身長よりあるのだ。
「こんなでかい《機神兵》を・・・私破壊出来たんだ。」
実感が湧いてくると同時に私はその場に座り込んでしまった。
通常このような大型の《機神兵》はH&Kディバイド089というユサの身長程もある巨大なプラズマキャノン砲などの特殊で強力な武器でないと破壊できない。何にせよディバイド089の重量は70kgもするのでパワードスーツ無しでは生身の人間が使用するのはまず無理なのだが。そんなディバイド089を使用するパワードスーツ部隊《天狗》でさえ20メートル級や50メートル級の《機神兵》と戦って何人かの犠牲者が出てしまっている。そんな大物をまさか自分が倒す事になるなんて。
「勲章とか貰えないかな。・・・なわけないよねっ。」
私がそう呟いたと同時に無線からコールサウンドが鳴る。
「は、はいっ!こちらユサです!!」
「お、やっと出たかっ!おいおーい、何が起こったんだ~!?ダーノス!」
この人が私をみよじで呼ぶなんて・・・。相当テンパってるってことかな?と思いながら私は答える。
「いや、あの《バインドアクス》に遭遇しちゃいまして。」
「お、お前っ!本当かぁ!だ、大丈夫なのか?今どんな状況だ?脱出は可能そうか?」
リムゾンの狼狽した声が聞こえてきて私は吹き出すのを我慢しながら言った。
「はい。破壊したので。多分大丈夫かと。」
「は、破壊って・・・。全くとんでもねぇ奴だ。生身の兵士がオブジェクト級の《機神兵》を破壊ねぇ。」
「そちらの状況はどうですか?」
私が質問するとリムゾンはため息をつきながら答えた。
「どうもこうもいきなり真っ暗になったからどうにも嫌な予感がしてな。お嬢さん。あんたに無線かけたのに一向に繋がらねぇし、ジャミングされてるし、管理局から電話殺到するし。大変だよ。」
「うぐっ。す、すみません。」
恐らくというか絶対、《バインドアクス》を破壊するのに大型コンデンサーを爆破してしまったのが原因だろう。
「ふーむ・・・まぁ、生きてれば問題ねぇよ。死んじまったら謝るもなにもねぇしなぁー。気にすんな。ところ・・・あんた・・・が近くに・・・確認・・・・。」
「リムゾン中尉?リムゾン中尉!」
声が途切れ途切れになり雑音が混じりはじめたのでリムゾンに呼びかけたがもうザッーという音しかしなかった。
「な、なにが起こったの?」
そう呟いた時、私の耳にガシャガシャという音が入った。これは・・・
「まさか・・・。まさかそんなはずない。」
だが。私の期待はあっけなく裏切られた。直後、頭上の天井が崩れ落ち、瓦礫と共に[ニ体]目の《バインドアクス》が現れた。巨大な《機神兵》は私の目の前まで来ると止まった。
「ここ、までか。」
ポツリと私は呟いた。この傷だらけの身体で逃げるのはもう無理だろうし、もう策も尽きた。頭の目の前にある主砲からキィィーンという音が鳴り響く。
「ごめんね。ユウキ。」
私がそう呟くと同時に閃光が身体を包んだ。
最後の結末後どうなっていくのか・・・読んでくださった方は自由に想像してみてください。
今後も読みに来てくださると幸いです。