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天国、死後の世界、黄泉の国。
いったいどの言葉が正しいのだろう。
いや、むしろどれも正しいのではないか。
そう思えるほどにここはチガウのだ。
今まで青年が生きてきた場所とこの場所は。
流れる川はうっすらと光を発し、見たこともないような花が視界のほとんどを埋め尽くしている。
薄暗い空。
太陽も、月も、星も、雲も、それらがあるべき場所に、しかし何もない。
それなのに、明るいという事実。
まさに幻想の世界。
「俺は……死んだのか……?」
そう思うのも無理はないほどに、この場所は日常とはかけ離れていた。
独り言のように呟いた言葉。
その言葉は無論返事を求めた物ではない。
「ようこそ、ここはあなたと私の夢を繋いだ世界です。」
しかし、それは確かに青年に答えを返した。
透き通るような白い肌、膝まで届くほどの金髪、そして弾むメロンを2つも持っておりそれを隠すかのように全身を白い布のようなもので装飾している。
「夢の世界……?」
「ええ、夢です。しかし現実でもあります。」
まっすぐに青年を見る瞳。
「あなたにお願いがあります。娘を護ってください。」
懇願するような、それでいて有無を言わせない口調。
青年は何を言われているのかわからなかった。
それはそうだろう。
いきなり、夢の中で「娘を護ってくれ」とお願いされたのだ。
理解が追いつくわけがない。
しかし。
青年が咄嗟に返事できなかったのは何もその願いのせいだけではなかった。
この世のものとは思えない絶妙なプロポーションのこの女性。
なぜか首の上に乗っかっているのは、
『黒ひげを生やしたオヤジ』だったのだ。
「ちょっとまてえええ!この流れでこの雰囲気で、そのスタイルで登場するのは絶世の美女じゃないの!?なんでオッサン?なんで顔だけ黒ひげ生やしたオッサン!?樽に短剣ぶっ刺して吹っ飛ばしてやろうかコノヤロー!」
あまりに世界中の男ども全てを裏切るような光景に憤慨し捲し立てた青年に対し、女性は怯えたように身を縮こまらせながらも、
「あれって、現在と企画段階でこそ飛び出した人が負けだったけど、実は発売当初は飛び出した人が勝ちだったんだよね。」
と、女性はどうでもいい豆知識を披露した。
「しるかああああああぁぁあ!」
青年の絶叫が響き渡った。
異世界。
異なる世界。
全く違う文化を発展させてきた自分のいる世界とは異なる世界。
女性が言うには、青年はその異世界のひとつに飛ばされたらしい。
その異世界において自分の娘を護ってほしいというのが女性の「願い」だ。
ちなみに、この女性。
極度の人見知りらしく人前で素顔をさらすのがとても耐えられなかったらしい。
その解決方法が黒ひげのオヤジの仮面だったとか。
なんでそんなものを持っているのかは不明だ。
危機一発の豆知識をなぜ知っていたのかも不明だ。
青年に、願いを聞いてもらうのに仮面のままはないだろうと指摘されると、渋々だが仮面を外し素顔を見せた。
その相貌に圧倒される。
青年にとって、今までお目にかかったことがないほどの美人だ。
美人と表現することすらおこがましいだろう。
そして、その美しさが逆に恐ろしさも感じさせるのだろうか。
青年は、見惚れることもなく厳しい表情をしている。
訂正しよう。若干顔が赤い。
女性は様々なことを丁寧に説明をした。
まずこの女性は、無数に存在する神の内の一柱。
所謂女神さまというものだ。
まだ力の弱い神は存在を維持するために子供を作ることを禁止されている。
しかし女神は、寂しさから娘を作ってしまった。
娘が作られたことにより、女神は力の大半を失うことになった。
女神はこのまま消滅してしまうのだという。
女神が消えれば、娘も消えてしまう。
しかし、世界を跨ぐことによってのみ、因果を断ち切ることが出来るのだという。
そこに目をつけた女神は、残されたわずかな力とグランドクロスによって発生した膨大なエネルギーを使い、娘と護り手となりえる青年を異世界へと飛ばした。
そしてその事実を伝えることとワガママを押しつけるために夢をつなげた。
これが青年がここにいる経緯の全てだ。
青年にとっては、ただただハタ迷惑な話ではある。
異世界へと飛ばされ、そして戻る手段はない。
これからも続くと信じていた変わらない日常はあっけなく消え去り、
非日常を生きていかなければならないのだ。
しかも、女神の娘を護りながら。
緩やかな変化。
しかしそれは確実に迫ってきていた。
「そろそろ時間みたいですね。あなたが夢から覚めてしまうようです。」
視界を埋め尽くしていた花はいつの間にかほぼ消え去り、
残っているのは青年と女神の周りにほんのわずか。
そしてそれも徐々に暗闇に飲み込まれていく。
「あなたを巻き込んでしまった事、本当に申し訳ないと思ってます。ですが、娘を・・・娘をどうかよろしくお願いします。」
そう言って女神さまは深く腰を折った。
青年は思った。
納得は出来ていない。でも、もう元の世界に戻ることはできない(らしい)。なら出来ることをやろう。主人公にありがちなポジティブシンキングってやつだ。それに……命を削ってまで娘を救いたいという女神さまの思いは本物だった。そんな女神さまの思いを無碍にはできないさ。美人の頼みだし。
だから……
「俺になにか特別なことが出来るとは思いませんが、出来る範囲でいいのなら娘さんを護ってみせます。」
顔を上げた女神は
「ありがとう……ございます。」
涙を瞳に浮かべながら、うれしそう?に微笑んだ。
黒ひげオヤジの仮面をつけて。
次章 予告
夢は儚くも消え去り
青年は少女と出会う
世界を渡りし異界の者たち
琥珀色のその瞳が見つめるのは
淡く光る星の光
新天地を望むその輝きは
歪な力を青年に与える
そして、旅は始まった