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エの物語 『子どもになれない大人』



 子供のいない小さな村に、可愛らしい男の子が生まれました。

 村には少年以外の子供がいなかったため、少年は村中の人々の愛情を受け可愛がられていました。

 村の中を歩けば、老人たちが神様でも拝むように手を合わせ、甘いお菓子や飲み物を与えました。家に帰れば少年の両親が食べきれないほどの料理を振る舞い、優しい言葉だけを口にしました。少年がどれほど醜悪な悪戯をしても、怒られるどころか褒められる始末でした。

 そのため少年は、自分こそが世界の中心であることを信じて疑いませんでした。


 少年が二十歳の誕生日を迎えたある日、両親が神妙な面持ちで言いました。


 ――あなたは今日から子供ではなくなりました。なので、この村から出て行ってください。


 両親はつい昨日までしていた甘い表情を豹変させ、まるで塵でも見るかのように冷たい目で少年に言いました。戸惑う少年に、村人たちも罵るような言葉をぶつけました。少年は涙を流す暇もなく村を後にし、逃げるように近隣の街へと向かいました。

 街にたどり着いた少年は、まず空腹を満たすためにその街で一番大きなレストランへ入りました。

 スーツに身を包んだウェイターが、「ここは正装でしか利用できない」と厳しい口調で少年に伝え、汚いものでも見るかのように追い出しました。少年はすぐ隣のお店に入りました。そこでもまったく同じことを店員に言われ、少年は追い出されました。

 少年への対応はどの店も決まって鼻を摘み、まるで家畜に接しているかのようでした。

 少年は暗い路地で丸くなり、どうしてこのようなことになってしまったのか、と真剣に考えました。

 

 昨日まで神様であった自分。

 それが一変し、畜生のように扱われている今日の自分。

 昨日と今日の自分にどのような違いがあるのか?

 冷たい夜風に晒され、少年はその違いを思いつきました。


 ――僕は子供じゃなくなったから、このような扱いを受けているんだ。

 なら、子供に戻ればいいじゃないか。


『子供は何をするものでしょう?』


 どこからか聞こえてきた声に少年は丁寧な口調で答えます。


 ――子供は悪戯をするものです。


 少年はポケットからマッチを取り出します。

 小さな明かりをマッチに灯し、無邪気な子供のように、にっこりと微笑みました。


 ――これで子供に戻れる。

 

 少年は生まれた村まで帰りました。

 そして、誕生日ケーキのロウソクに火を点けるような手軽さで、村に火を放ちました。

 

 村は燃え、少年は子供に戻りました。




 浩次が火に息を吹きかける。

 火は辛抱強く耐えたが、やがて勢いに負けて煙に変わった。明かりが一つ減ったことで、場が一段と深潭に近付く。

 話し終えた浩次の表情を玲はうかがった。が、浩次の顔には影が落ちていて、のぞき見ることはできなかった。

 涼弥が作った異様な雰囲気を、若干だが浩次が変えたように思えた。

 まるで、修学旅行の夜に怖い話をしていたら、いつの間にか愚痴を吐露し合っていたかのように、その変化は自然で流動的であった。

 玲は迷った。この流れに乗るべきか、進路を再び怪談話へと訂正しようか。

 迷いに迷って――結局、口に任せることにした。



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