【短編】贈り物
創作お題スロット様を活用して物語を書いてみました。
お題は「白飯」「カステラ」「AI」になります。
リンクはこちら↓
https://tango-gacha.com/slot/
「なあ、最近白米少なくね……?」
食卓に並んだ器を手に取り、俺は不満を呈した。
『いえ、総カロリー量は以前と変わっておりません』
そう答えるのは人工知能を搭載した家政婦型のロボット。
使い込んだエプロンを身に着け、ちょうど向かい合う形でイスに腰掛けている。
もう何年前になるだろうか。一人暮らしの寂しさに耐えかねた俺は、酔った勢いで当時最新型と謳っていた彼女を購入。
料理、洗濯、その他諸々の家事を全て丸投げした為生活の質は上がったのだが、反対に本体価格+維持費で貯えを持っていかれて家計は苦しくなった。
何度も手放すことを考えたのだが、人(人ではない)の作る手料理の味を知ってしまうともう後戻りなどできなかった。
そんなAI家政婦が最近少し冷たくなった気がするのだ。元からヒンヤリしてはいるが、そういう意味ではなく。
明らかに手を抜いて飯を作っている。
具材も安物ばかりだし、一品の量も少ない。
揚げ句の果てに毎日同じ量炊いているはずの白米まで減らされている。まだ腹は出てないというのに。
これらの行動に原因があるとすれば、やはり俺の貯金の少なさだろうか。
このロボット家政婦にはAIが持ち主の年齢、体重、運動量などに応じて自動で献立を考える、といった機能が付いている。
その延長線で貯金額まで考慮しているのでは。
実際、買い出しに行っているのも彼女なので出来なくはない芸当ではある。
しかし俺が自分の口座残高を教えたことは無いし、仮にあってもそんなことをするだろうかという疑問が残る。
一人で頭を悩ませながら箸を進めていると。
『お味はどうですか?』とロボ家政婦が顔を覗き込んできた。
購入して二年ほど経った頃から、こうやって料理の味を訊いてくるようになった。
「美味しいよ」
俺はいつも通り答える。
『良かったです』
彼女は心底嬉しそうに微笑んだ。
『普段よりも難しい顔をしていらっしゃったので、失敗してしまったのではと不安視しておりました』
予想外の言葉に俺は味噌汁をこぼしかける。
「君もそういうこと考えるんだ……」
『はい。私は味を確認することができませんので……』
あまりにも人間らしいことを言うその姿にしばらく俺は呆けてしまった。
型落ちしてるとはいえ、高性能な頭脳を持っていることに変わりはないようだ。
──そんなに料理の味を気にしてるならなんで手を抜くかねぇ……。
湧き出た疑問は口から出る前に煮魚と一緒に胃へ押し込んだ。
その後俺の完食を見届けた彼女は、何事も無かったかのようにいつも通り洗い物を開始した。
やがて、こんな出来事などすっかり忘れたある日のことだった。
『マスター、お食事後少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか』
恒例の味の確認儀式が済んだ後、ロボ家政婦が切り出した。
「え、まあ……いいけど……」
俺の口からなんとも中途半端な返事が飛び出た。普段しない行動を急にされると、こちらは大層驚くのだ。
『ありがとうございます。では、先にご用件をお伝えいたしますね』
お食事後、ということだったが、もう殆ど完食寸前の状態なので早速彼女は話し始める。
『マスターは、本日がどういった日であるか覚えておられますか?』
「えっ今日?」
またしても説明書に書いてあったかどうか怪しい機能で物を言う。
「何の日……??」
そして対する俺は質問の答えを導き出せずグルグルと思考を巡らす。
はたから見れば記念日を思い出せないダメな男に映っていることだろう。
しばらくそのままウンウン唸っているとロボ家政婦が答え合わせをしてくれた。
『本日は、七年前にマスターが私を購入された日です』
にこやかに笑みを浮かべ、小型カメラの瞳でやさしくこちら見つめながら彼女はそう言った。
「あ……そっかそういえば……」
俺もようやく思い出した。となると確か──。
『そして先日ご両親から伺った話によりますと、マスターの誕生日でもあるそうですね』
そうだ。そうなのだ。
あの日、会社の飲み会が終わり疲れ切った身体で夜の街を歩いていた時。
日付が変わってやってきたのが自身の誕生日だと気付いて、更に歳をとった自分の将来が急に怖くなった気がした。
そして何を思ったのかおもむろにスマホを取り出し、酒に背中を押されるまま高額商品をポチってしまった。
即日配送で人工知能搭載の最新型家政婦がやってくる頃には、その行いを酷く後悔していたのだが、なんだかんだで長い付き合いになったものだ。
「完全に忘れてたよ。でもどうして今更……」
『以前から、何かマスターに贈り物をしたいと計画していたのですが、私には最適な案が見いだせず難航しておりました。しかし、今回基準を満たす物を発見するに至った為実行させていただいた次第です』
どうやら彼女なりに悩んでくれていたようだ。
『今からそちらをお持ちしてもよろしいでしょうか』
「ああ、もちろん」
そう言うと彼女は立ち上がり冷蔵庫の中から何かの箱を取り出した。
今朝から冷蔵庫に触るなと警告されていたのはこういうことだったのか。
『こちらになります』
封が解かれ出てきたのは。
「……カステラだ」
『はい。私を購入されてすぐの頃は、よく好物として食されていたと記憶しております』
「えっでもコレまあまあ高いやつじゃ……」
ここで俺はひとつ思い出したことがあった。まさかこやつ。
『仰る通りです。ですのでマスターから頂戴した金銭を勝手ながら少しずつ保管させていただきました。また、健康にも気をつけていただきたかったのでお食事のカロリー量を少々減らさせてもいただきました』
「カステラあるから太らないように、ってこと?」
『はい。サプライズとしての実行を予定していた為ご報告できなかったことを謝罪いたします』
やっぱりだ。今までの行動に全て合点がいく。
だがもう少し良い方法は無かったものだろうか。なんとも不器用な愛情表現だ。
「全く。図々しいことしやがって」
口では悪態をついているが顔までは誤魔化せず、少しはにかんでしまう。
嬉しいのは事実なのだから仕方ない。
目の前のロボ家政婦もそのことはわかっているようだった。
『お気に召してくださりありがとうございます』
「でも今度からちゃんと言ってくれ。色々と変なこと考えちゃったし」
『そうだったのですね。大変失礼いたしました』
「……ホントに頼むよ?サプライズしたいならそれ用の貯金して先に渡しとくから」
『はい。ありがとうございます』
不安しかない。そもそもいくら高性能とはいえここまでしてくれるはずがない。
なんだかとんでもない技術革新を起こしてしまった気もするが、考えないことにした。
この日以来、俺はこの奇妙なアンドロイドをどこか気に入ってしまったようだ。
今までは半分道具のように思っていたのだが、最近は本当の家族のように接している気がする。
するとやはり必要なものが一つある。
俺は誕生日プレゼントのお返しとしてそれを贈ることにした。
そして、またある日の食卓にて。
「なあステラ、なんか今日白米少なくない?」
『ダイエットです。マスター』
ステラ=天からの贈り物




