第1章:鉄クズと少女の夜
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
本作は、とあるゴミ捨て場に捨てられた旧式の自動人形と、孤独な少女の、少し切なくて温かいお話です。
全5エピソード(約3分で読める短編)となっております。
スマホからでもサクサク読めるように、改行を多めに調整しています。
鉄クズのロボットが最後に何を選んだのか――。
最後までお付き合いいただければ幸いです
第1章:鉄クズの夜
その街の片隅にあるゴミ捨て場に、私は捨てられていました。
かつては誰かの役に立っていたはずの、旧式の自動人形。それが私の正体です。
雨に打たれ、錆びつき、動かなくなった足。
私の世界は、ただ暗い夜空を見上げるだけの場所でした。
「……あれ? まだ動くのかな」
ある晩、小さな声が聞こえました。
覗き込んできたのは、ボロボロの服を着た、汚れだらけの少女でした。
彼女の名前はハル。
親もなく、このガラクタ通りで必死に生きている子供でした。
ハルは小さな手で、私の錆びついたネジを回し、詰まっていた泥を掻き出してくれました。
キチ、キチ、と私の胸の奥で、古い歯車が再び回り始めます。
「あ、目が光った! よろしくね、ロボットさん」
彼女の満面の笑みが、私のカメラ(瞳)に記録された最初の、そして最も美しい映像になりました。
第2章:温もりを知らない手
ハルは毎日のように、私のところへやってきました。
見つけてきた珍しいネジを見せてくれたり、その日にあった小さな出来事を話してくれたり。
私の壊れた足は直せなかったけれど、ハルは私の隣に座るのがお気に入りでした。
「ねえ、ロボットさん。街の人たちはね、手を繋ぐと『あったかい』って言うんだよ」
ある日、ハルが自分の小さな手を、私の鉄の手のひらに重ねました。
「……でも、ロボットさんは冷たいね」
寂しそうに笑うハル。
私のAIは、「温度」という概念をデータとしては理解していました。ですが、それを「心地よい」と感じる機能はありません。
「肯定。私は金属製です。体温は存在しません」
「そっか。でもいいんだ。ここにいてくれるだけで、私、寂しくないから」
ハルは私の冷たい腕に抱きつきました。
私はただ、彼女の小さな体が小刻みに震えているのを、静かに見守ることしかできませんでした。
第3章:消えゆく灯火
その年の冬は、ひどく過酷でした。
ガラクタ通りには冷たい吹雪が吹き荒れ、人間が生きるには厳しすぎる環境でした。
ハルがやってくる回数は、目に見えて減っていきました。
そしてある夜。
ハルは、這うような足取りで私の元へやってきて、そのままパタリと倒れ込んでしまったのです。
「ハル?」
私が声をかけると、彼女は青白い顔で、弱々しく目を開けました。
「ロボット、さん……寒い、よ……。なんだか、すごく眠いの……」
ハルの身体は、凍えるように冷たくなっていました。
人間は、一定以上の体温を失うと、機能が停止(死亡)してしまいます。私の演算装置が、最悪の結末を弾き出します。
私はハルを抱きしめようとしました。
しかし、私の身体は冷徹な金属。抱きしめれば抱きしめるほど、彼女の体温を奪ってしまう。
『どうすればいい?』
私の人工知能が、かつてないほどの速度でエラーを起こし始めました。
私には、彼女を温めるヒーター(暖房機能)など搭載されていません。
第4章:最後の選択
エラーを繰り返す思考回路の中で、私はひとつのログ(記録)を見つけました。
私を動かしている【魔力コア】。
これを限界を超えて過負荷にすれば、一時的に莫大な熱を放出できる。
ただし、それはコアの完全な崩壊――私という個体の「死」を意味していました。
「ハル」
「……なあに……?」
「今から、温かくなります」
私は、胸の奥のコアに強制負荷をかけました。
バチバチと火花が散り、私のシステムが次々と損壊していきます。視界に赤い警告灯が点滅します。
それでも、私の鉄の胸は、みるみるうちに熱を帯びていきました。
私は、壊れることもいとわず、ハルの小さな身体をぎゅっと抱きしめました。
「わぁ……」
ハルが、かすかに目を見開きました。
「あったかい……。ロボットさん、あったかいよ……」
ハルの頬に、赤みが戻ってきます。
彼女は嬉しそうに、私の胸に顔を埋めました。
終章:ガラクタの奇跡
私の視覚センサーは、もう何も映していません。
聴覚センサーも、激しいノイズに塗れています。
ですが、腕の中にいる少女の呼吸が、規則正しいものに戻ったことだけは分かりました。
ハル、私は人間ではないので、「嬉しい」という感情は分かりません。
ですが、私のカメラに残ったあなたの笑顔を消去したくないと、AIが拒否しています。
(あぁ、これが、人間の言う――)
最後に、ハルの小さな手が、私の熱い胸に触れたのを感じました。
「ありがとう、ロボットさん」
その声を最後に、私のシステムは完全にシャットダウンしました。
。
。
。
朝が来ました。
街の救助隊が、ガラクタ通りで一人の少女を保護しました。
少女は、真っ黒に焼け焦げた、だけどどこか優しい形をしたロボットの腕の中で、奇跡的に無傷で眠っていたそうです。
少女の手には、今も消えない、温かな記憶が残り続けています。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
冷たい鉄の身体しか持たなかったロボットが、最後に命を燃やして少女を温める――そんな歪で、だけど純粋な愛の形を描いてみたくてこの物語を書きました。
ハルの心には、これからもあの温もりが残り続けるのだと思います。
もし「少し切なかった」「ラストに感動した」と思っていただけましたら、
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また別の物語でお会いしましょう。




