表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SKIN/第二の皮膚  作者: 八雲 海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/35

第二十六話 アカリ

アカリさんの最初の仕事は、端切れの整理だった。

 棚に無造作むぞうさに積まれた生地の端切れを、素材別・サイズ別に分類する。地味な作業だ。

 アカリさんは黙々(もくもく)とやった。

 一日かけて、棚が整理された。

 ヨシコさんが見て言った。

「素材の判断は合っとる。分類のやり方は少し変えて」

「どう変えますか」

「サイズより素材を先にする。縫うとき、素材から考えるけんね」

 アカリさんはその日のうちに分類し直した。

 

 二週目から、ヨシコさんがアカリさんにも生地を触らせた。

 私が最初に経験したことと同じだった。目を閉じる。手のひらで感じる。

 アカリさんの言葉は、最初から独特だった。

「これ、重心が右にある感じがします」

「重心?」

均等きんとうに見えるんですけど、右側の方が少し、主張してる感じがして」

 ヨシコさんは黙って聞いた。

「織りに少しくせがあるとよ。正しか」

「織りのくせって、わかるんですね」

「わかれば縫い方を変える。縫うときに生地のくせに逆らわんようにすれば、縫い目が安定する」

 

 その日の昼、私はアカリさんに渡したいものがあった。

 小さなノートに、四行だけ書いた。

 生地は正直。機嫌を見て。

 縫い目ではなく先を見て。

 失敗した生地は練習に使う。

 指先が眠っていたら、目を閉じて触る。

 アカリさんに渡した。

「これ、ヨシコさんの言葉ですか」

「ヨシコさんとトミエさんと、両方から教わったことです。私が来たばかりの頃に知りたかったことを書きました」

 アカリさんはノートを見た。

「香月さんも、最初はわからなかったんですか」

「全部わかりませんでした。今も半分です」

 

 夕方、私は祖母のノートを開いた。

 サチコさんの初日の記録を読んだ。

 サチコが来た。二十一歳。手は小さいが、動きが素直。余計な力が入っていない。これは育てられる。

 そして、その下に別の日付で一行あった。

 サチコが静に会わせたいと言っていた子が来た。目がいい。育てられる。

 私は固まった。

 アカリさんのことが、すでに書いてあった。

 祖母は知っていた。

 この連鎖が、続いていくことを。


次回 第二十七話 六ヶ月


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ