第二十六話 アカリ
アカリさんの最初の仕事は、端切れの整理だった。
棚に無造作に積まれた生地の端切れを、素材別・サイズ別に分類する。地味な作業だ。
アカリさんは黙々(もくもく)とやった。
一日かけて、棚が整理された。
ヨシコさんが見て言った。
「素材の判断は合っとる。分類のやり方は少し変えて」
「どう変えますか」
「サイズより素材を先にする。縫うとき、素材から考えるけんね」
アカリさんはその日のうちに分類し直した。
二週目から、ヨシコさんがアカリさんにも生地を触らせた。
私が最初に経験したことと同じだった。目を閉じる。手のひらで感じる。
アカリさんの言葉は、最初から独特だった。
「これ、重心が右にある感じがします」
「重心?」
「均等に見えるんですけど、右側の方が少し、主張してる感じがして」
ヨシコさんは黙って聞いた。
「織りに少し癖があるとよ。正しか」
「織りの癖って、わかるんですね」
「わかれば縫い方を変える。縫うときに生地の癖に逆らわんようにすれば、縫い目が安定する」
その日の昼、私はアカリさんに渡したいものがあった。
小さなノートに、四行だけ書いた。
生地は正直。機嫌を見て。
縫い目ではなく先を見て。
失敗した生地は練習に使う。
指先が眠っていたら、目を閉じて触る。
アカリさんに渡した。
「これ、ヨシコさんの言葉ですか」
「ヨシコさんとトミエさんと、両方から教わったことです。私が来たばかりの頃に知りたかったことを書きました」
アカリさんはノートを見た。
「香月さんも、最初はわからなかったんですか」
「全部わかりませんでした。今も半分です」
夕方、私は祖母のノートを開いた。
サチコさんの初日の記録を読んだ。
サチコが来た。二十一歳。手は小さいが、動きが素直。余計な力が入っていない。これは育てられる。
そして、その下に別の日付で一行あった。
サチコが静に会わせたいと言っていた子が来た。目がいい。育てられる。
私は固まった。
アカリさんのことが、すでに書いてあった。
祖母は知っていた。
この連鎖が、続いていくことを。
了
次回 第二十七話 六ヶ月




