第二十二話 二回目の試作
四名分の試作に入ったのは、アカリさんが工場に来て一週間後だった。
若田さん、北川さん、陳さん、マリアさん。四人の宇宙飛行士。それぞれが違う体型を持ち、違う滞在歴を持ち、違う皮膚の癖を持っている。
ヨシコさんは全員を直接診ると言った。
筑波で一日、四人と向き合う時間を作ってもらった。
私と社長とヨシコさんが筑波に行った。
JAXA(宇宙開発の国家機関)の施設の一室。白い壁。窓がない。
ヨシコさんは四人を順番に観察した。
若田さんは久しぶりの再会だった。
「肩が、前より開きましたね」
「……気づきますか」
「開いた方が自然よ。あなたの本来の体に近づいとる」
北川さんは大柄で、ヨシコさんの前に立つと頭一つ以上高かった。ヨシコさんは気にしなかった。足元から視線を上げて、全身を見た。
「腰の位置が低い。でも体幹が強いけん、無重力でも姿勢が保てるやろ」
陳さんは中国出身で、日本語が堪能だった。細身で、身体の動かし方が精密だった。
「あなたは身体の使い方を知っとる。縫うときに一番楽なのはあなたかもしれん」
マリアさんはロシア系で、城島さんが通訳した。がっしりした体型。笑顔が大きい。
ヨシコさんはマリアさんの手首を軽く触った。
「手首が敏感よ。縫い目を手首から遠ざけた方がよか」
帰りの新幹線で、ヨシコさんは目を閉じていた。
眠っているのかと思ったが、違った。
「四人分、覚えとる」
「頭の中で?」
「身体の中で。帰ったら型紙を引く」
社長が言った。
「三日でできる?」
「四日かかる」
「わかった」
ヨシコさんはまた目を閉じた。
車窓を景色が流れた。
四人の体が、ヨシコさんの身体の中に入っている。それが、型紙になる。
私にはまだ、その感覚がわからない。でも、いつかわかる気がした。
了
次回 第二十三話 四枚の型紙




