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第十話

「……私は、王都になど帰りたくありません!!」


張り裂けるような声が、雪に包まれた静寂を切り裂いた。


ルチアは一歩、前へ出ていた。

王太子殿下を、真正面から見据えて。


「それは……王太子殿下が、一番ご存じではありませんか!?」


その大胆な態度に、場の空気が凍りつく。

王太子だけではない。背後に控える者たちも、明らかに動揺していた。


聖女が、王太子に向かって声を荒げる。

それ自体が、あり得ない光景だった。


けれどルチアに、迷いはなかった。

彼女はもう、自分がどこに立っているのかを、はっきりと理解していた。


――私は、ヴァレリア様の庇護下にいる。


だからこそ、言える。


「私が倒れたとき……何度か、支えてくださいましたよね」


一瞬、間を置いてから、ルチアは続ける。


「その節は、ありがとうございました」


丁寧な礼。

けれど、それは前置きにすぎなかった。


「ですが――私が倒れたのは、王太子殿下の父君、国王陛下を癒したせいです」


はっきりと、言い切る。


「私の力は、使うたびに削れます。

それでも私は、命じられるまま、癒し続けました」


ルチアの声は、次第に熱を帯びていく。


「そして……」


彼女は、わずかに唇を噛んだ。


「王太子殿下が、私を何度も支えてくださったことで、

私は、貴族令嬢たちに目をつけられました」


空気が、さらに張り詰める。


「足を引っかけられました」

「シャンパンをかけられました」


一つ一つ、淡々と。

逃げ場を与えない、事実だけの言葉だった。


「もちろん、王太子殿下に直接の罪はないでしょう」


ここで、ルチアは一度、息を吸う。


「けれど――」


視線を、まっすぐに王太子へ向ける。


「これから申し上げることは、矛盾しているとお思いになるかもしれません」


それでも、と。


「何も知らずに。

何も見ようとせずに。

そうして“正義”の顔をして、偉そうに立っていること自体が――」


ルチアは、はっきりと告げた。


「私には、罪に見えます」


「それは……私の気のせいでしょうか?」


静寂。


雪が落ちる音さえ、やけに大きく感じられた。

誰も、すぐには言葉を発することができなかった。


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