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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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「大妖とは、神武八州が今のような国になる千年前から力を持っていた古い妖怪だ。大妖の多くは支配地を持ち、眷属を生んで勢力を築く。他の大妖の動向も、ある程度は把握しているだろう」

 芳信和尚は俺の疑問を察したように、大妖について教えてくれる。

 しかし神武八州が今のような国になる前って、……それはこの地を皇が統べる前って意味だろうか。

 一体何時、どうやってこの地を尊き皇が統べるようになり、神武八州を分割して、多くの国主達が任ぜられて治めるようになったのか、そういえば考えた事もなかった。


 俺は道場の跡取りだったから、それなりに勉学もさせて貰った方ではあるが、教わった歴史は精々ここ数百年のものだ。

 それも道場があった場所の国がどうやって興ったのかとか、その周辺国とは何があったのかといった、ごく限られた範囲での出来事を教えられたくらいである。

 例えば東国で何があったのかなんて全く知らなかった。

 いや、西国でも距離が遠ければ、そこはもう自分とは縁遠い、或いは一切関係がない場所だと思っていたから。

 芳信和尚の話は興味深いというよりも、寧ろこれまで閉じていた眼を無理矢理に開かれたかのような衝撃を俺に与える。


 だが、本題はそこじゃない。

 俺にとって重要なのは、この国の成り立ちがどうこうじゃなくて、あの鬼を追う為の手がかりだ。


「つまり大妖を知る者は、同じく古より存在する大妖だ。彼らに問う事ができれば、件の鬼に関して詳しくわかるかもしれない」

 芳信和尚は、あの鬼を知って追いたいならば、他の大妖に問えという。

 ……しかし、果たしてそんな事が可能なんだろうか?


 古くから存在していようが、妖怪は妖怪だ。

 陰気より生まれる妖怪は、人にとって敵である筈なのに。

 そもそも、どうしてそんな大妖なんて脅威がいるのなら、大規模な討伐隊を組んで滅してしまわないのか。


「もちろん、君が探す鬼でなくとも、大妖は非常に危険な存在だ。しかしながら一部だが、比較的ではあるけれど、人に協力的な、いや、寛容な大妖も存在してる」

 だが俺の疑問に芳信和尚は首を横に振り、話を続ける。

 大妖には、人に協力する者も在るのだと。

 それは俄かには信じられない話だった。


 妖怪は、即ち化け物で、それに対抗する為に武芸者や僧、陰陽師等がいるのだと、武芸者の技は人ならざる者を討つ為にあるのだと、父からは教わっていたから。

 ……当然ながら、それが全てじゃないって事くらいは、俺だって知ってる。

 武芸者が技を磨くのは、己の立身出世の為だ。

 国主に武芸の指南役として召し抱えられたり、道場を構えて流派を起こす為に、他者より己の技が優れるのだと証明すべく、人同士で斬り合う事だって珍しくない。


 以前の芳信和尚との手合わせで見た法力で気の動きを隠す技も、あれは対武芸者用に練られた技だろう。

 光陰流にも、風神流にも、対武芸者を想定した技は数多くある。

 ただ、それでも武芸者にとっての最も大きな誉れは、人々の脅威となる悪しき妖怪を討つ事だと思っていたから、人に協力的な妖怪の存在を示唆された事は、俺にとって衝撃だった。

 ……さっきから、衝撃ばかり受けてるけれども。


「例えば西国でいうなら浮雲、三猿、雪狼等の忍び衆は、そうした寛容な大妖の支配地、人の手が及ばぬ場所に本拠となる里を築いてる。何らかの条件はあるのだろうけれど、大妖が人に、自らの土地に住む事を許してるんだ」

 しかし芳信和尚の話は容赦なく続くから、納得は後回しにして、今はそれを受け止めるしかない。


 どうやらその人に寛容な大妖は、大まかな居場所もわかってる様子。

 それにしても忍びがその大妖の支配地に住んでるというのは、これも結構な驚きだ。

 確かに忍びは妖怪の血が混ざってるのでは、なんて風に言われる事もあるけれど、これもあながち故なき事ではないのか。


「しかしそうした大妖は、その地に住む人々に守り神として崇められていて、そう簡単には会わせて貰えないだろう。実際、忍び衆とは幾つか伝手のある私も、大妖には会った事がない」

 妖怪が守り神か。

 芳信和尚の言葉に、俺は思わず笑ってしまいそうになる。

 だけどそろそろわかってきた。


 俺が知ってるのは、或いは世間一般に知られているのも、妖怪の一面でしかないのだろう。

 陰気より生じた人の敵。

 それは決して間違いではない筈だが、それが全てでもなかったのだ。

 実際、あの鬼だって、俺が知る妖怪とは随分とかけ離れた存在だった。

 光陰流の道場を壊滅させはしたが、父の首だけは粗略には扱わず、生き延びた俺に止めを刺さなかったのも、世間一般に言われる妖怪の行動ではない。

 大妖、それから人に対して寛容的な妖怪、今日一日で、色々と俺の常識が揺らいでる。


「君が件の鬼を追う為に大妖と会うならば、まずはその地に住む人々の信を得て、事情を話し、大妖への目通りを仲介して貰うよりないと、私は思う」

 この先、旅を続けるなら俺は、こうやって常識を揺らがされ続けるんだろう。

 それはこれまでの俺の世界が狭かった証左だ。


 しかしそんな俺にも、進むべき道は示された。

 芳信和尚の言う通りにすれば、必ずあの鬼に辿り着けるなんて保証はないけれど、狭い世界で鬼の襲来に怯えて生きるよりは、動いてた方がずっといい。

 忍びの信を得て大妖への目通りを仲介して貰うというのは、何とも回りくどい上に難しそうだけれど、そうするしかないならそうしよう。


 その中で、俺の武技もきっと磨かれていく筈だ。

 あの日に見た高みの武は、まだまだずっと遠いから。





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