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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 手甲を着けて、脚絆を巻いて、頭には編み笠を被り、腰には大小の二本を差す。

 そして肩から腹と背に、振り分け荷物を垂らしたら、道中合羽を羽織る。


 旅支度を整えて都を発った俺は、まずは西へと向かう。

 柳才師の知人はこの神武八州の各地にいるので、別に東へと向かっても良かったのだけれど……、どうせあの鬼を追って旅立つなら、父にもその報告をしておくべきかと思ったのだ。

 そう、旅立つ俺が最初の目的地としたのは、ここより西に五日ほど行った場所にある里。

 四年前までは、光陰流の道場があった場所だった。


 都は、この神武八州の中心に位置すると言われ、そこより東を東国、西を西国と呼ぶ。

 また東国、西国を合わせた本州の周囲には、七つの辺境州があって、この全てを合わせて神武八州を成す。


 辺境州の様子はあまりこちらまで伝わってこないけれど、本州では東国も西国も、領主たちの治める多くの国があって、時にはその国同士が争う事もあるという。

 聞いた話になるが、今は西国では開戸という名の国が急速に勢力を伸ばしていて、争いが相次いでいるらしい。

 人の世が乱れれば、陰気より生じる妖怪の動きも活発になる。

 だから或いは……、という思いもあるし、そうでなくとも治安が悪くなった場所では、武芸者が求められる機会も多い筈。

 父の墓に参った後は、そのまま西国をぐるりと回るのがいいかもしれない。


 この道を歩くのも何度目だろうか。

 最初に歩いたのは、光陰流が壊滅し、柳才師を頼って都に向かう時だった。

 あぁ、だから歩いた方向は逆だ。

 都は神武八州の中でも最も特別な場所で、例えば出入り口となる門には高僧が毎朝法力を注ぎ、人ならざる者を通さない守護の結界を張っている。


 なので仮に、光陰流の道場が都の中にあったなら……、あの鬼が現れる事もなかった。

 尤も都で道場を構える事のできる流派は、強さだけでなく長く伝えられているという歴史、格も必要となるから、父が一代で立ち上げた光陰流は条件を満たせる筈もなかったけれども。

 そういう意味で、都に道場を構える事が許されている風神流も、また特別な流派だと言えるだろう。


 ……話が逸れたが、俺が都に来た後も、年に一度か二度は、父の墓に参る為にこの道を歩いてる。

 都に近いこの辺りは、比較的だが治安も良くて、賊の類もあまり出ない。

 もちろん皆無ではないんだけれど、俺のようにしっかりと武装をした、腕に覚えのある者を襲う程の無謀だったり、或いは徒党を組んで数を笠に着るような賊は、まずいなかった。


 整備された道を歩きながら、吹く風を体に受けて、思う。

 俺は都よりも、都の外の方が好きかもしれない。

 さっきも言ったが、都は特別な場所だ。

 そしてそこでは、流派も、商店に並ぶ品も、住む人々だって、何もかもが特別だった。

 広い神武八州の中でも、選ばれた人間だけが都には住んでいる。


 でも俺は、その特別に囲まれて、時々だが息苦しさを感じていた。

 別に彼らが俺に嫌がらせをしたとか、そういう話ではないのだけれど、何もかもが洗練された都に違和感を覚えた事は幾度もあったのだ。

 或いは、父に連れられて登った山の空気や、仕留めた猪肉の鍋や、里のおおらかさを、懐かしんでいたのかもしれない。


 これは鬼を追う旅の始まりで、それは世間的に見れば仇討ちになるんだろう。

 そして最初の目的地は、その鬼に殺された父の墓参りなのだから、本当ならば粛々と、或いは静かに闘志を燃やしながら旅の始まりを噛み締めるべきだというのはわかってる。

 しかし、今、俺の胸を満たすのは解放感と期待感。


 あの日から四年間、俺は一体、どれだけ技を練れたのか。

 この先、一体何が待ち受けていて、それを経験した俺はどれだけ成長できるのか。

 旅の終わりがあの鬼である事は決まってる。

 だがその過程は、まだ全てが真っ白に未定で、何も決まっていなかった。


 鬼と出会えば、俺は食われて死ぬかもしれない。

 いや、あの日に見た鬼の実力から考えて、その可能性の方が高いだろう。

 だからこそ、そこに至るまでの旅は、少しも悔いなく過ごしたいと、俺はそう思ってる。



 そして五日後、道中は特に変わった事もなく、俺は光陰流の道場があった里に到着し、父の墓に手を合わせた。

 年に一度か、多くても二度しか来ないにも関わらず墓は荒れていない。

 恐らく里の人達が、時々手入れをしてくれてるんだろう。

 既に光陰流は存在しないが、それでも里の人達は父がここに道場を構えていた事を、付近の治安の維持に一役買っていた事を覚えてて、感謝をしてくれているのだ。


 墓参りを終えた俺は、都で買ってきた飴を土産に里長の家を訪ねて、一泊の許可を求める。

 光陰流の道場だった建物を少し掃除して泊まる心算ではあったけれど、それでも俺はもう、この里から他に移り住んだ余所者だから、こうやって断りを入れるのは最低限の礼儀だった。

 これを欠いては、廃墟に勝手に寝泊まりする不審者、ならず者の類と何も変わらなくなってしまう。


 しかし宿泊の許可を得に行った里長の家で、俺は一つの頼み事をされる。

 その頼み事とは、可能であるなら、里の近くで頻繁に目撃されるようになった熊を退治して欲しいというものだった。

 ……そう、奇しくも四年前、父が引き受けたのと同じ頼み事を、俺は里長にされたのだ。



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