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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 進んだ先、商館の奥は倉庫になっていて、そこには見慣れぬ舶来の品々が数多く置かれていたけれど、八重の目的はそこではなく、倉庫の一角に隠された地下への階段。

 そしてその階段を下った先には、地下牢があった。

 商館と地下牢なんて、実に合わない組み合わせに思うが、……まぁ、舶来衆の本拠地である事も考えると、こうした設備もあって当然か。


 けれどもその地下牢もあまり使われてる様子はなくて、殆どが空だ。

 唯一の例外は、最も奥の牢。

 その中には、八重とよく似た巫女姿の、……女の石の像が置かれていた。


「これが?」

 俺は念の為、八重に問う。

 ここには舶来衆に捕まった彼女の仲間を助けに来た筈で、石像を盗みに来たのではない。

 とはいえ流石に、ここまで八重に似ている、しかも非常に精巧な石像だと、何がどうなっているかは、何となくだが察しが付く。


「はい、五花姉様です。私達は敵に捕らわれた時、嬲られたり、情報を奪われぬ為に、自らを石と化す忍術を会得しています。もし石像が大きく壊されれば、そのまま死んでしまいますから、それは本当に最後の手段なのですが……、良かった。五花姉様は、ちゃんと無事です」

 なるほど。

 八重の言葉に、俺は納得して頷く。

 舶来衆の幹部、つまり妖怪の仕業かとも思ったのだが、どうやら五花は自ら石と化し、この状態でも生きているらしい。


 ならば一安心だ。

 自ら石になる忍術があるのなら、当然ながら石から元の人に戻す忍術もあるんだろう。

 流石にここから、石像を担いで開戸の外に逃げるのは、骨が折れるどころの話じゃない。

 人に戻った五花が自分で歩ける状態か否かはわからぬが、仮に抱えて運ぶにしても、石像に比べれば人の方がずっと容易いから。


「あまり驚いてくださいませんね。これでも、秘伝の忍術でございますのに」

 俺の反応が薄かったからか、ほんの少しだけ拗ねた様子で、八重がそんな事を言う。

 というか、驚かせたかったのか。

 しかし残念ながら、俺にとっては氷の息を吐くのも、石になるのも、同じくらいに不思議だから、今回のこれが特別な忍術だと言われても違いが判らない。


「秘伝なら俺に気軽に話すのはよくないだろう……。それよりも、戻せるなら戻して、早く退こう」

 八重が色々と俺に話してくれるのは嬉しいが、それが彼女の失点になっても困る。

 尤も舶来衆に対しては、五花が目の前で石になったのから既に知られている筈だし、そこまで強く秘密にしてる術という訳ではないのかもしれない。

 まぁ、それよりも気にするべきは撤退だ。

 ここはまだ、敵の掌中なのだから。


「はい、そう致しましょう。ですがこの術は非常に強力で、里の守り神様にか解除はできません。ですので、里まで五花姉様を運んでくださる方に来ていただきます」

 俺が急ぐように促せば、八重は頷き、パンっと手を一つ打ち鳴らす。

 さて、一体何が始まるのだろうか?

 運べる者に来て貰う?

 その言葉の意味は分からなかったが、八重がこれだけ平然としているのなら、彼女に任せて見守るより他にない。


「おいでくださいませ、童様」

 そして八重は打ち鳴らした手をそのまま地に突くと、何かにそう呼び掛ける。

 すると一体、これは本当にどういう仕組みなのかと驚いたが、そこには一人の童子が……、いや、薄っすらと陰気を漂わせてるところから察すると、一体の子供の姿をした妖怪が立っていた。

 但しその子供の妖怪が漂わせる陰気は、これまで相対したどの妖怪ともまるで違う、静かで穏やかなものだ。


「おお、八重! 無事に五花を見付けたのだな! ああ、五花、可哀想に。自ら石になるのはさぞ怖かったろう。すぐに里に連れ帰ってやるからな」

 だがその静かで穏やかな陰気とは裏腹に、発する声は甲高い。

 口調は老成している風なのに、何ともちぐはぐな印象を受ける。

 ただ、流石は妖怪というべきか、石と化した五花を優しく撫でると、その五花の石像は、子供の妖怪の懐にスルスルと吸い込まれて消えた。

 質量的にはどう考えてもあり得ないのに、これまたどういう仕組みの術、いや、妖怪だから能力か。


 突然現れて、質量を無視して物を運ぶ?

 なんて便利で、都合のいい能力なんだ。


 驚きを越えて、寧ろ感心していると、五花の石像をしまい終えた子供の妖怪が、ひょいとこちらを向いて、

「おっと、すまない。そちらは協力者の四木殿だな。拙は迷い館様の眷属、梅香童子と申す者。このような場で、きちんとした挨拶もできずに申し訳ないが、そなたに御屋形様からの言伝がある」

 俺に名乗った。

 そしてあちらは、既に俺の事は知ってる様子。


 しかしそれはいいとして、迷い館というのは、八重の里の守り神をしているという大妖の事だろうか?

 つまり大妖からの言伝があるって事か。


 居住まいを正し、期待してその言伝に耳を傾けると、

「これまでの、それから今回の、そなたの献身、まことに感謝いたす。望むのであれば何時でも里に参られよ。客人としてお会いしようとな」

 梅香童子が口にした言伝は、正に俺の期待に添うものだった。

 どうやら今回の件は、俗楽の花にとってもかなり大きな働きだったらしい。


 でも、そりゃあそうか。

 敵対してる国に潜入して捕まった諜報員を救えだなんて、余程のモノ好きじゃなきゃ引き受けやしないだろう。

 ……すると俺は、その余程のモノ好きって事になってしまうが。


「拙も個人として礼を述べたい。これまで八重を助け、今回は五花の救出に協力してくれた事に感謝する。そなたが居なければ、恐らく五花の救出はかなわなかっただろう」

 梅香童子とやらも霊を口にするが、まぁ、別に構わない。

 俺が今回の件に協力したのは、大妖に会う為と、八重に助けを請われたからだ。

 大妖が会ってくれるというなら、それ以上は、俗楽の花に求める心算はなかった。


「さて、八重、そろそろ送り返してくれ。客人と里に来る時期は、なるべく暖かくなってからを勧めるぞ。今は椿の花が見ごろだが……、まだ、里の付近は雪に埋もれていて、慣れぬ客人には寒かろうからな。では、四木殿、ひと先ずはさらばだ」

 その言葉を残して、梅香童子の姿が消える。

 いや、八重が送り返したのか?

 妖怪を呼び寄せたり返したり、随分と不思議な、それから便利な忍術だ。


 流石に少し気になって、色々と質問をしてみたくなったけれど、今はもう、本当にそれどころじゃないだろう。

 五花を梅香童子に任せられたのはいいが、また時間を喰ってしまった。

 できれば俺と八重も一緒に、その送り返す術とやらで移動させて貰えればよかったのだが、……それができるなら、八重は連絡員としてわざわざ各地を旅していないか。

 そろそろ本気で、この国から逃げ出さなきゃ拙い。


「では四木様、最後に上の倉庫にあった鉄砲の為の玉薬に火をつけて、騒ぎに紛れて逃げましょう」

 そんな状況だというのに、八重はまるで悪戯っ子のように楽し気な笑みを浮かべて、俺に向かってそう言った。




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