表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/40

28


 二日目、三日目、俺と八重は開戸の国府へと移動をしたが、そこでも観光客のように振舞って、すぐには救出に動かなかった。

 恐らく八重が言っていた、ヴォイケをやり過ごす手段に関係するんだろうけれど、どうやら彼女は何かを待ってる様子。

 それに関しては、俺は無駄に問うたりしない。

 何も知らずとも、時が来て八重が動き出せば俺も動けばいいだけだし、仮に質問をして、それが彼女からこの国への敵意を引き出してしまわないとも限らないから。


 わからなければ無駄に考えず、使われる時が来るのをジッと待つのが良い道具である。

 今の俺は、八重に振るわれる刃でいい。

 どんなに切れ味が良くても、使い手の意図を無視して他者を傷付ける刃はなまくらにも劣るのだ。

 もちろん、使い手に刃を扱える腕前がある前提での話だが。

 まぁ、八重は俺という刃の使いどころを間違えたりはしないだろう。


 それはさておき、たった三日間見て回っただけでも、開戸の国が非常に富み栄えてる事がこれでもかってくらいにわかった。

 建築様式が神武八州の物とは異なるし、目に付く品々も見慣れぬ者ばかりだから簡単には比べられぬが、この繁栄ぶりは都に匹敵、或いは都に勝るかもしれない。

 俺と八重が見たのは一番大きな港町と国府、つまりは開戸の中でも最も富が集中している場所で、他は当然ながらこれ程には栄えてはいない筈だ。

 しかし国府ばかりに力を入れて、他の全てがおざなりという事も考えにくいから、……やはり開戸の繁栄は尋常じゃないという他になかった。

 

 だが開戸の国が繁栄し始めたのは舶来衆を受け入れてからだというから、何とも皮肉な話である。

 俺は小さな頃から、妖怪は人に害を齎す存在だと教えられて育ったが、舶来衆の受け入れがこの国に繫栄を齎したのなら、幹部である外つ国の妖怪達の行いは、俺が教わった事とはまるで真逆だ。

 そりゃあ外つ国の妖怪にも何らかの目的があって、それが邪悪なものではあるのかもしれないが、その過程、手段でしかなくとも、この国が反映しているのは紛れもない事実だろう。


 これを根拠なく悪だと断じる事は、俺にはできそうにない。

 結局のところ、俺が教わった妖怪観はとても視野が狭い物で、人間にも色々といるように、妖怪にも色々といる。

 ただそれでも、妖怪は基本的には危険な存在で、人間と敵対する事が多いというのも、また事実だった。


 そう、開戸に繁栄を齎したのが舶来衆の幹部、外つ国の妖怪であっても、俺がそれを斬る事には何の躊躇いも生じ……、いや、これを考えるのはやめておこう。

 あまり考え過ぎて、敵意の探知とやらに引っ掛かっては八重に申し訳が立たない。


 そして四日目も、何事もなく観光をして過ごしたが、五日目の夕餉を取った後、

「今夜、浮雲の忍び衆がこの国の砦を攻めます。敵意を感知する妖怪は、そちらに現れるでしょう。ですから私達も、今から動きます」

 俺に向かってそう言った。


 あぁ、なるほど。

 ヴォイケをやり過ごす手段というのは、俺達以外に激しい敵意を持つ者が、開戸の国を襲撃する事だったのか。

 確かにそれなら、……ヴォイケが二つの身体を持たぬ限り、俺達のところにはやって来ないだろう。

 妖怪が相手だと、万に一つがあり得ない訳じゃないけれど。


「浮雲の忍びは、救出の協力に?」

 ふと気になって、俺は八重に問う。

 仮に救出の為に俗楽の花が浮雲の里、他の忍び衆を動かしたのだとすれば、これから救い出す五花はかなりの重要人物だって事になる。

 いや、もちろん救い出す相手が俗楽の花にとって重要だろうが、そうでなかろうが、八重に頼まれた以上は手を抜く気なんてないが、それでも俺は、俗楽の花に対して功績を稼いでおく必要がある身だ。

 救う相手の価値は高いに越した事はない。


 けれども俺の問いに、八重は首を横に振り、

「いえ、彼らは彼らで動いています。ただ、その動きが私達にとって都合が良かったので、便乗する事に致しました」

 自分達は浮雲の忍び衆を利用してるだけだと言って笑う。

 その笑みは、どこか誇らしげですらあった。


 でも考えてみれば、それはそうか。

 何しろ俗楽の花の情報収集能力は、同じ忍び衆、その中でも西国では一番大きいという浮雲の里にすら、大きく勝るという証左なのだから。

 俗楽の花に属する八重にとって、誇りに思わぬ筈がない。


「ですが、急ぎましょう。浮雲の忍び衆が何時まで目を引き付けておいてくれるかは、流石に私達にもわかりませんので」

 八重の言葉に俺は頷き、彼女と共に窓から宿を抜け出す。

 目指すは、初日に泊まった港町で最も大きな建物、舶来衆が有する商館だ。

 舶来衆は開戸の国内に幾つも砦を有しているが、それでも本拠地としているのはその商館だった。

 これは舶来衆という組織の本質が、傭兵であるよりも商人に近いからではないかと、八重は言う。


 随分と物騒な商人もいたものだけれど、まぁ、それは別にどうでもいい。

 舶来衆を動かしているのが妖怪ならば、傭兵だの商人だのと、人間の枠に当て嵌めて考えても仕方ないだろう。


 商館の場所は、初日に観光客のふりをして確認済み。

 敢えて一度、港町を離れて国府に移動したのは、疑いの目を逸らす為。

 そして離れたと言っても、港町と国府を結ぶ道は、俺と八重なら走れば半刻と掛からぬ程度だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
半刻って作品によって 30分と1時間に分かれるんだよね 日本が江戸時代以前とその後で違うからそこからきてると思うけど 時代が進むほど時間が細分化されている現代では分単位ですし 未来は秒単位になったりす…
その笑みは、どこか誇らしげですらあった。 ドヤ顔イイね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ