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開戸の国へは、船を使って海路で向かう。
波濤の国と開戸の国の関係は決して良いものではないけれど、それは海軍同士の小競り合いが頻発してるってだけで、両国を商船が行き来してない訳じゃない。
確か開戸の国は外つ国との海洋貿易で富んでる国だって話だったけれど、それは神武八州内での交易が疎かだって意味じゃないのだ。
寧ろ外つ国との貿易で得た品々を神武八州内に流す事こそが、開戸の国に富が集まる本当の理由であった。
つまり余程の理由がない限り、開戸の国は商船の出入りを禁じない。
そして商船が行き来するなら、それに同乗して開戸の国に潜り込める。
「ただ、お気を付け下さいませ。開戸の国には、敵意を持って侵入した者を見分ける何らかの手段を、有してると思われるのです」
なんて風に、八重は言ってた。
それはもう気を付けてどうにかなる類の事じゃないと思うが、侵入が露見するのを想定して動け、ではなく、あくまで気を付けろとしか言わないのは、恐らくその敵意を見分ける手段の精度が低いか、或いは何らかの条件があって、然程に引っ掛かるものじゃないんだろう。
尤も俺は、開戸の国にも舶来衆にも、今の段階では特に敵意もないから、精度が低かろうが高かろうが、実際に戦いを始めるまではその探知に引っ掛かるとは思っていない。
いや、実際に戦っても一瞬だったら、敵意も害意も戦意も表には出さずに、反射で相手を斬る事もできる。
流石に、長々とした戦いになると色々と考えてしまうから、敵意も戦意も出るだろうけれど、その時はもう、探知云々言ってるような状況じゃない筈だ。
寧ろ仲間の、五花とやらを舶来衆に囚われた八重の方が、その探知に引っ掛からないか心配だった。
まぁ、引っ掛かったら引っ掛かった時の事である。
広範囲で敵意の探知なんて真似が可能なのは、どう考えても妖怪だ。
要するにその探知に引っ掛かれば妖怪がやって来るんだろうから、そうしたら斬ればいい。
五体もの妖怪が一度にやってきたら、流石に手も足も出ないかもしれないが、八重曰く、その状況は恐れなくていいそうだ。
というのも、恐らく妖怪だと思われる舶来衆の幹部の五名は明確に役割が決まってて、一緒に行動する事が殆どないからだった。
例えばラドゥと名乗る舶来衆の首領は、開戸の国主の参謀として、その傍らを離れる事がないという。
幹部の一人、エルヴィラという女は常に船の上にいて、陸に上がる事が滅多にない。
同じくサンドラという女は、陸の上にはいるけれど、国外で戦う事が主な役割のようで、開戸の国で目撃される事は滅多にないそうだ。
なので八重の仲間の救出で、障害となりそうな舶来衆の幹部は二名。
ヴォイケと名乗る子供と、リッターとなのる、常に鎧兜を着込んでいる為、性別も不詳の幹部だった。
とはいえやはりこの二名も行動はバラバラで、ヴォイケの方は神出鬼没で開戸の国内ならあちらこちらで目撃されていて、八重曰く、敵意を探知する妖怪はヴォイケである可能性が高いらしい。
もう一方のリッターは、開戸の国にある舶来衆の本拠地で、守備を指揮しているという。
そして八重の仲間、五花が囚われているのは、このリッターが守る舶来衆の本拠地である。
八重が言うには、ヴォイケに関してはどうにかやり過ごす手があるそうだけれど、リッターを避けられるかどうかは運次第なので、その時は俺に相手をして欲しいとの事だった。
もちろん、俺に否やはない。
なんでもリッターというのは騎士、この神武八州でいうところの武家を指す言葉らしい。
つまり、流石に武芸者ではないにしても、外つ国の武家を名乗るなら、武人の妖怪である可能性が高い相手なので、俺としては戦う事になっても何ら問題ないというか、むしろ歓迎ですらある。
わざと見つかって戦いを招くような真似をする心算は欠片もないが、個人的にはそのリッターという名の妖怪に、非常に興味を持っていた。
船を降りた俺と八重は、開戸の国でも一番大きな港町の土を踏む。
いや、その表現は正しくないか。
何しろその港町の道は、多くが敷き詰められた煉瓦で覆われていたから。
これだけでも開戸の国の栄えっぷりが嫌って程にわかるけれど、更に立ち並ぶ建物も、煉瓦造り、石造りの、神武八州ではあまり見かけない様式のものばかりだった。
まるで外つ国に来たみたいだなぁと、感心しながら周りをキョロキョロと見回してしまう。
これを見に観光客がやってくるというのも、まぁ、頷ける話だ。
確かにこの港町の景色には一見の価値がある。
ただ、俺は割と好きだけれど、人によってはあまりに慣れ親しんだ神武八州からかけ離れ過ぎてて、拒否感を示しそうだなとも思う。
ちなみにここは開戸で一番大きな港町だが、一番大きな町ではないらしい。
開戸で一番大きな町、国府は、この港町から徒歩で数時間、内陸に行った場所にあるそうだ。
恐らく、海から直接攻められる事を警戒して、中枢である国府は港町と切り離しているんだろう。
港からの物を運び込み易く、けれども陸の軍の防衛がどうにか間に合うくらいの位置に。
開戸に着いた最初の日は、夜の港町の見物したいという観光客らしい理由で、そのまま港町の宿に一泊をした。




