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それから一週間、俺と八重はその村に留まった。
妖怪を討伐して陰気が薄れたとはいえ、ここであった事を考えると居心地のいい場所ではないのだが、外が吹雪いており、俺も妖怪との戦いで気を使い果たしていて移動の寒さに耐え切れず、その回復と、弔いに時間が掛かってしまったのだ。
幸い、村には食料も燃料も十分に蓄えがあったから、滞在に不自由はない。
強いて言えば、これらの物資の幾らかは、あまり良くない手段で手に入れたのだろうと思うと、あまり贅沢に使うのにも躊躇いがある。
俺達が使わねば、もう無駄になるだけなのは十分にわかっているけれども。
この村の行い、またここで起きた出来事は、八重が伝手、俗楽の花を通して羯磨の国に伝えるそうだ。
尤も村人は誰一人として生き残ってはいないので、それで困るのは、村の管理が甘かった領主くらいか。
村が再建されるか否かはその沙汰次第になるだろう。
一週間で、村のあちらこちらに遺されていた骨は、全て集めて墓を作った。
これらの骨の、どれが村人のもので、どれが犠牲者のものだったのかは全く区別が付かないけれど、そこはもう仕方ない。
死ねば誰も彼も仏だ。
寺での修行は一ヵ月しか経験のない俺ではあるが、一応は暗記した経を唱えるくらいはできる。
何の功徳もない俺の経だが、ないよりはきっとマシだと思うし、それで足りなければ、巫女の八重がいるのだからと勘弁して欲しい。
経と巫女には何の関係もないけれど、どちらもありがたいものではあるのだから。
さて、弔いを終えた俺と八重は、吹雪が止んだ隙を見計らって村を発ち、南へと進む。
また雪道を行く事になるが、十分に休んだお陰で気も体力も回復してる。
妖怪退治に赴く前、六山の国で言われた話は、この一週間で改めて八重と話し合ったが、俺の結論は変わらない。
八重を護衛し、彼女と共に俗楽の花の仕事をこなして、大妖に会う。
目的の為なら俗楽の花に都合よく、いいように使われる事に抵抗はなかった。
というよりも、守り神である大妖に会わせろという無茶な願いをしてる時点で、いいように使われる事なんて最初から覚悟の上だ。
八重のこちらを気遣う気持ちはありがたいが、俺がそう割り切っているのだから、彼女が過剰に気を使う必要はないと思う。
もちろん、俗楽の花が俺を利用するだけ利用して、大妖に会わせなかったり、俺に危害を加えるような事を目論めば話は別だが、八重が言うにはそれは恐らくないそうだ。
寧ろ俗楽の花は、八重に俺を同行させている時点で、既に大妖に会わせる心算で動いていると、彼女は考えているらしい。
より正確には、未来を見通すというその大妖自身が、俺に会おうとしているんだろうとの事だった。
しかしその為には、誰もが納得するだけの貢献が必要になる。
故に、俗楽の花は本来ならば自分達が取り扱う仕事じゃない妖怪の討伐を、俺にやらせたんだろう。
これが大妖に会う道ならば、進む事に何の問題もありはしない。
いや、俺自身があの妖怪、人百足との戦いで確実に成長できた事を考えると、こうした仕事は歓迎ですらある。
俺がそう伝えれば、
「四木様は、本当にお強い方でございます」
八重はそんな言葉を口にして、深く頭を下げた。
別に謝罪や感謝を求めて言った訳じゃないんだけれど、……まぁ、いいだろう。
それで彼女の気が幾らかでも楽になるなら、敢えてやめさせる必要はない。
他にこの一週間で話したのは、俺の身の上話や、都ではどんな風に過ごしていたか等の、他愛のない話だ。
吹雪が強く、家に籠るしかなかった時間も少なくなかったから、そうした話をする時間は沢山あったから。
八重からは、彼女が育った里の話を少し聞かせて貰えた。
なんでも俗楽の花の里には、三柱の守り神がいるらしい。
そのうち二柱は大妖で、残る一柱は、なんと聖獣だという。
聖獣というのは、気が集まって生まれるという存在だ。
これだけ聞くと、陰気が集まって生まれる妖怪とは真逆なんだなぁと感じてしまうのだけれど、これを口にすると聖獣、または神獣と呼ばれる存在を特別視する人々が酷く怒る。
聖獣や神獣が、まるで妖怪に関係しているような事を言うなと。
実際、聖獣や神獣は誕生する数が妖怪に比べても極めて少なく、非常に特別な存在だった。
都では、皇がおわすという御所で暮らす聖獣や神獣がいるらしいが、少なくとも俺は目にした事がない。
確かに聖獣ならば、大妖と並んで守り神にされていても、決しておかしくはないだろう。
まぁ、話が逸れたが、俗楽の花の里は、里長とその三柱の守り神に仕える巫女頭や神職の、四名による合議で統治されているそうだ。
里長が里に暮らす人々の代表で、巫女頭や神職は、それぞれに仕える守り神の代弁者という事らしい。
ただ守り神が頻繁に里の事に口を出してくる筈もないから、基本的な統治者はやはり里長になるし、いざ、巫女頭や神職が守り神の意志を伝えると、それは大いに尊重されて、殆どの場合は里長も意見を譲るという。
……正直、俺には何とも奇妙な統治体制だと思えてしまうのだけれど、八重の言いようでは、どうやら俗楽の花はそれで上手く回っているようだった。
他の忍びの里もそうなのだろうかと思い、問えば、八重は首を横に振る。
彼女が知る限りでは、俗楽の花以外に複数の守り神を祀る忍びの里はないし、また大妖や聖獣が里の運営に口を挟むなんて事も、本来ならばあり得ないそうだ。
考えてみれば当たり前なんだけれど、芳信和尚から聞いた話では、大妖の多くは、といっても大妖はそもそもの数が少なくはあるが、支配地を持ち、眷属を生んで勢力を築く。
つまりは妖怪の領主や国主とも言うべき存在である。
一つの国に複数の国主が存在しないように、一つの地に複数の大妖が並び立つなんてのは、極めて特殊な事なんだろう。
ましてそこに聖獣が加わり、忍びとはいえ、人の里の統治に関与しようとするなんて、そりゃあ他にある筈もない。
人間にも変わり者がいるように、大妖や聖獣にも変わり者がいるんだろうか。
いずれにしても、俺が繋がりを得ようと、仕事を請ける相手として選んだ俗楽の花は、消去法で選びはしたが、実は大当たりだったのだと思う。
人であっても、多くが集まれば、何かしらの知恵や情報は持っている者が混ざるのだから。
あの鬼に近付く道を、俺は順調に歩んでる。




