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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 容赦のない雪と寒さの中を強行軍で二週間、俺と八重は、遂に羯磨の国にある、件の寒村に辿り着く。

 ただその村には、まず俺だけが入る事にした。


 というのもここに来るまでに忍びが妖怪と戦う際のやり方を確認すると、まずは戦いながら相手を観察し、その妖怪が持つ属性とやらを見極めて、その上で相性の良い忍術を使って倒すというのが常道らしいからだ。

 属性というのは、水や雪に沈まなくなる忍術をかけて貰った時に言ってた、五行とやらだろうか。

 まぁ、妖怪の戦いを観察するなら、実際に戦って守勢を強いられるよりも、俺と妖怪が戦っているところを伏せて見ていた方が早いだろう。


 八重は、俺だけに戦わせる訳にはいかないと渋ったが、まだお互いの戦い方を碌に知らず、連携にも慣れぬ俺達が一緒に戦うよりは、一人で戦った方が確実だし、気楽である。

 俺が一人でその妖怪に勝てるという確証はないが、それでもあっという間にやられてしまうような愚は犯さない。

 ならば手間取るようならば、その妖怪の弱点を見極めた八重が奇襲なりで介入してくれた方が、最終的に勝率は高くなる筈だ。


 そう説き伏せて、単独で村に踏み込めば、そこは濃く、淀んだ陰気に満ちていた。

 昔、柳才師から陰気そのものは悪ではないという話をされた事がある。

 陰気も気と同じく、命から発散される力に過ぎず、それを悪しきと思うのは、単に人間にとっての都合なのだと。

 当時は意味のわからない話だったけれど、最近になって少しわかってきた。

 あの六山の崩落した坑道の奥に妖怪が誕生しているかもしれないと考えた時、俺が討伐を主張したのは、人間にとって都合が悪いからで、八重が反対したのはその妖怪がまだ悪しき者ではなかったからだ。


 ただ柳才師は、続けてこう言っていた。

 真に気を付けるべきは淀みだと。

 淀めば陰気は、確かな悪意を持って人に牙を剥く。

 更に言えば、気もまた時に淀む。

 気を淀ませた武芸者は、悪意を持って人に害を成す、妖怪よりも性質の悪い存在と化す。

 戦いの技を磨き、戦いの場に身を置く武芸者は、技に、血に溺れやすいから。

 故に、淀みに気をつけよ。

 心を澄ませ、気を巡らせて、己をしっかりと保つのだ。

 ……なんて風に。


 いや、その言葉の意味は、今でも全てはわかっちゃいない。

 けれども確かに、今感じるこの淀んだ陰気は、とても危険なものに思える。

 こうも陰気を淀ませる環境を、人が作ったのか。


 その時、

「うあぁぁぁぁっ!」

 一軒の家の奥から悲鳴のような声が聞こえる。

 周囲よりも大きなその家は、恐らく村長の家だったのだろう。


 だが俺はその声は無視して、腰の刀に手を添えて構え、その瞬間を待つ。

 あの声は、囮だ。

 誕生してから、碌に経験を得る機会もなかっただろうに、中々に悪知恵の働く妖怪である。

 どうやったかは知らないが、声で注意を引いておいて、奇襲を仕掛ける心算なんだろう。

 しかし研ぎ澄ませた感覚で陰気の動きを読めば、相手の位置、奇襲を仕掛けてくる方向は、俺には丸わかりだった。


 大きく跳び退りながら、刀を抜いて振るう。

 その瞬間、地から手を伸ばして飛び出してきたのは人の群れ。

 いや、違った。

 一瞬そのように見えたけれど、地から出てきたのは幾人もの人が数珠繋ぎに融合した姿の妖怪だ。

 あぁ、手を足に見立てれば、人の身体を繋ぎ合わせて作った百足のようにも見える。


 構成してるのは、女、女、男、女、子供、子供、男、女。

 ……女が比較的多めだろうか。

 あちらの女は痣だらけで、こちらの男は目をくりぬかれていて、誰も彼もが痛々しい姿をしてる。

 この村で犠牲になった者の恨みに、大きく影響を受けた妖怪なんだろうか。

 

 でも、それはもうどうでもいい。

 戦いが始まる前ならば、それらの事情にあれこれと考えて、同情したりもしたんだろうが、一旦戦いが始まれば、俺の思考はより重要な、相手を倒す為のそれに割かれるようになる。

 跳び退りながら振るった刀は、先頭の男、百足でいうならば頭にあたる部分を切り裂き、どす黒い血を流させた。


 つまり、刀で切って殺せる類の妖怪だ。

 一応、妖怪にも幾つか種類があって、それに応じて戦い方が変わる。

 まず一番大きな種別は、それが生き物であるかどうか。

 いや、妖怪が生き物なのかどうかは俺にはわからないのだが、例えば狼の化け物なのか、大量の血を吸った刀が変じた化け物なのかで、有効な攻撃手段が変わるのだ。

 もう少し具体的に言えば、狼の化け物は切って血を流させれば死ぬ。

 毛皮が刃を弾く程に硬かったり、急所が普通の生き物と違ったり、異様にしぶとかったりはするかもしれないが、斬って殺せる存在だろう。


 あぁ、別に斬る事に拘ってる訳じゃない。

 それが槍で突くのでも構わないし、弓で射殺すでも違いはないのだ。


 しかしこれが刀の化け物となると、斬って殺せるかは怪しくなる。

 場合によっては刀身を折れば死ぬ場合もあるけれど、あぁ、これはちょっと例が悪いか。

 例えば石の身体の化け物だったら、斬ろうが突こうが、射ても殺し切る事は難しい。


 故に戦い方が変わるのだ。

 斬って殺せる妖怪なら、斬り殺す方が効率はいい。

 だが切っても殺せぬ妖怪は、気をぶつけて、気をぶつけて、気をぶつけて、陰気を相殺して削り殺すしか手段がなくなる。


 そうした視点で見ると、目の前の妖怪、仮に人百足と呼ぶ事にするが、こいつは身体が大きく、しぶとそうではあるけれど、殺し易い妖怪だと思えた。




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