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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 八重の手を引き、冬の雪山を駆け下りる。

 柔らかな雪は強く踏めば足が、それどころか腰まで埋まる恐れもあるけれど、今の俺と八重はその雪に足跡すら残さない。

 ただ、これは別に俺の体術の技って訳じゃなくて、今、八重が使ってる忍術の効果だった。


 五行がどうのとか八重は色々と説明してくれたが、一度の説明では俺が理解できなかったので、わかった事だけ言うならば、彼女は忍術で水の上を沈まずに走れるという。

 更にその忍術は、こうして雪の上であっても、または水が煮たって立ち昇る湯気ですら、足場にできてしまうのだとか。

 正直、口で言われても信じがたかったけれど、こうして八重の手を握って、忍術を俺にもかけて貰うと、その効果を実感した。

 これは実に便利だ。


 単に水や雪の上を沈まないように走るだけなら、俺も気を使えば似たような真似はできなくもない。

 だがそれはあくまで短距離、短時間の話で、体術と気を駆使してなんとかってところだから、集中力が必要だし、消耗もする。

 まして、それを他人にも効果を及ぼすなんて真似は、どう考えても不可能だ。


 忍術をこの目で見るのは初めてだけれど、これは中々に凄いものだと思う。

 ただその忍術を使う様子は、穂玖詞寺での鍛錬の成果もあってか、ハッキリと感じる事ができたので、もし仮に、この先、忍びと争う事になっても、十分に斬れるとの確信を俺は得た。

 もちろん八重を斬るって意味じゃなくて、彼女を他の忍びが狙ってきたらって話である。


 忍術の力を借りて駆け下りれば、本来ならば数日は掛かろう山道も、一日で踏破した。

 彼女に聞かされた、巫女や巫女と関わった者の未来や過去が見えるだの何だのいう話は一旦忘れて、まずは妖怪がいる寒村を目指し、俺はこの旅を続ける事を選ぶ。

 八重はその話を聞けば、俺が彼女の護衛をやめてしまうんじゃないかとすら考えたらしいが、……ハッキリと言うと、俺にはその話の意味がよく理解できなかったのだ。

 いや、それが凄いという事くらいはわかるのだけれど、だからといって俺に何か影響がある訳でもない。


 俺の未来や過去を俗楽の花が、……恐らくは俗楽の花が守り神として崇める大妖が見たからって、俺に関係があるだろうか?

 まぁ、何となく気持ち悪いという感覚はなくもないが、それよりも大妖にそんな力があるのなら、あの鬼の行方に辿り着ける可能性も上がる。

 俺にとってはその事の方が重要だった。


 でも一つだけ、俺が相田屋を訪れた時に折よく八重がいたのも、彼女が最初から妙に俺に対して好意的で、信頼を寄せてくれているのも、その大妖の未来や過去を見る力のせいなのだとすれば、少しばかり複雑な気持ちになるけれども。

 尤も何の理由もなしに好意的である方がおかしいのだから、理由がわかれば納得もいく。


 北への山道を下り終えれば、次は北西に向かって旅を続ける。

 寒さが厳しく、雪が深く積もった道を旅するから、当たり前だけれど俺と八重以外に旅人なんていない。

 宿場や町に辿り着けば、遭難者か何かが現れたのかと驚かれたり怪しまれたり、泊まった翌日に出立しようとすれば、今度は危険過ぎると引き留められた。

 それでも止まらずに北西を目指して俺と八重は進む。


 雪は八重の忍術で足を止める障害にはならないが、寒さは命の危険を感じる程で、体内で気を燃やす事でどうにか耐え凌ぐ。

 一人だったら絶対にこんな無茶な旅の仕方はしないけれど、俺は八重に付き合ってその寒村に赴くと決めたのだから、寒さで泣き言なんて口にできない。

 俺にも武芸者としての意地がある。

 あぁ、逆に考えれば、これもいい鍛錬だろう。

 普通だったらこんなに長く、気を燃やし続けて寒さに耐えようとする事なんてないんだから。


 だがそんな俺にひきかえ、八重はこの寒さも全く平気な様子だった。

 寧ろ北にきて強い寒さに晒されるようになってから、彼女の艶は増したようにも思う。

 流石にこれは異常だ。

 幾ら北国の生まれだからって、寒さに強いにも程がある。

 俗楽の花の忍びは、何か寒さに耐える為の、特殊な訓練でも積んでいるんだろうか。

 或いは、八重には他の秘密があるのかもしれない。


 とはいえ、今の俺にそれを追求するような余裕はなく、いや、余裕があったとしてもやはり追及はしなかっただろう。

 八重自身に秘密があったとしても、それで彼女が全く別の何かになってしまう事はないのだから。

 それよりも今は、六山の国で入った熱い風呂、温泉がとても恋しく感じる。

 寒さに耐え続けた今の肌に、あの温泉は熱すぎるだろうけれど、それでも首まで、ゆっくりとあの湯に沈めたかった。



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