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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 翌日、崩壊した坑道の跡を確認しに向かった俺と八重。

 だが俺は、そこでとある事に気付く。

 埋もれてしまった坑道に、随分と多くの陰気が溜まってる。

 その証拠に、俺が少し強めに気を発すると、その気と陰気がぶつかって反発し、チリチリパチパチと小さく弾ける様子が確認できた。


 元より坑道のような暗い穴倉は陰気が溜まり易い場所ではあるのだけれど……、これは少しばかり異常だ。

 人が害される程の濃さには至ってないけれど、陰気の影響を受け易かったり、身体が弱い者ならば、この場に立てば気分が悪くなるくらいはするだろう。

 何より、これだけの陰気があれば、妖怪が生まれる可能性もある。


 いや……、ここでこんなにも陰気を感じるのなら、埋もれてしまった坑道の奥、埋もれずに残った空間には、既に妖怪がいるかもしれない。

 だとすれば、退治をした方が良いのだろうけれど……。


 そう思って視線を八重に送ると、彼女は首を横に振る。


「六山の方々が銀山に希望を託していた分、坑道の崩壊は大きな失意を呼んだのでございましょう。陰気がここに吸い寄せられています。……ですが、今の私達には崩落した向こう側、奥へと向かう手段がありません」

 奥へ向かう手段か……。

 確かに、大規模に坑道が崩落してるなら、剣も槍も通用しないし、思い切り気をぶつけたところで無意味だ。

 ここを崩したのが忍びなら、八重の忍びとしての技でどうにかならないかとも思ったが、穴を崩してしまうのと、新たに掘って穴を開けるのでは大きく労力が異なる事くらいは俺にもわかる。

 その穴を崩すのだって、八重曰く、手練れが複数人で行ったのだろうっていうのだから、彼女に一人で穴を開けろというのは無茶が過ぎるのが理屈だった。


「それに、仮にこの奥に妖怪が生まれていたとしても、その妖怪はまだ何も悪さをしてないではありませんか。わざわざ蓋を開け、退治に行く必要はないかと存じます」

 更に、重ねて八重は、この奥にいるかもしれない妖怪は、まだ何もしていないのだから退治は不要だと言う。

 ただそれに関しては少しばかり反論したい。

 妖怪が悪さをする時というのは、人に被害が出る時だ。

 それが怪我で済むなら良いが、いや、それもあまり良くはないのだが、怪我はまだ治るかもしれないが、死人が出れば取り返しは付かない。

 またその時に、妖怪が悪さをしたからといって、それを退治できる武芸者や忍びはここにはいないのだ。


「六山の方には、伝手を使って妖怪が発生してる可能性をお伝えしておきます。その上で、銀山の再開発の障害となれば浮雲の忍びを頼ればいいとも。彼らの仕事の結果でこうなったのなら、責任の一端は浮雲の里にもございますから、あまり高い依頼料は要求したりしないでしょうし、させませんので」

 だがもう一度、八重は首を横に振った。

 銀山の再開発は、中に妖怪が誕生している可能性を考慮して慎重に行われるだろう。

 そして問題が起きた場合、退治のアテも用意しておくというのなら、これ以上は俺が言える事はない。


 感情的には、そこにいるかもしれない妖怪を放置するというのは納得しがたいが、……理屈は八重の方が正しく思える。

 何しろ、実際に妖怪がそこにいるのかいないのか、確認する術も俺にはないのだから、それはもうしょうがなかった。


「四木様はとてもお強いですし、強い武芸者の方に囲まれて生きてらしたので、そうでない方は弱く、守らねばならぬと思われるのでしょうが、彼らもそれなりに強かでございます。ご安心くださいとは申しませんが、ここは八重にお任せくださいまし」

 そこまで言われてしまうと、もう何も言えなかった。

 実際、俺は気の力を扱えず、法力や呪力も使えぬ人々は、只人として弱い存在だと思ってる。

 もちろんそれは事実なのだけれど、この人の世を作っているのは、その只人だ。

 作物を育てて食物を供給してくれる農家も、家や道具、武器や防具を作ってくれる職人も、それ等を必要とするところに届けて金を得る商人も、戦を行う兵士だって、その殆どが只人で、彼らが居なければ武芸者も存在できやしない。

 戦う力に乏しくても、只人はそう、八重の言う通りに強かに生きてる。


 だから俺は、八重の言葉にはもう何も返さず、了承の意を示す。

 尤も、不満が一つあるとするなら、八重には強いと言われたが、その強さとやらを俺が彼女の前で見せた事がないくらいか。

 どうしても、一体俺の何を知ってその言葉を口にしたのかと思ってしまうのは、……俺の器が小さく、見識が狭いが故なのだろう。

 柳才師や芳信和尚のような達人だったら、きっと笑って流してしまうだろうから。

 俺がこれまでの旅で、必要以上はその実力を探らないようにしつつも、八重の所作から、この程度は動けるだろうと察しをつけているように、彼女だって俺の実力を想定していたところで、何もおかしくないのだし。


 それから暫くは、お互いに黙って、坑道の崩落の仕方が報告書に合った通りかを、一通り確認していった。

 黙っていると、余計な事を考えてしまう。

 さっきのやり取りは、単なる護衛の分を越えていて、俺に非があるなとか、そんな風に。


 あぁ、このもやもやとした気持ちは、後で温泉にでも入って、奇麗さっぱり流してしまおう。

 少しばかり妙な匂いがしたりもするが、六山の温泉はとてもいい。

 もっと湯殿や、宿泊の為の宿、それからここまでの道を整備すれば、それで十分に人が呼べるんじゃないかと思うくらいに。

 ただ、今の六山の人々にとっては、それは生まれた頃から当たり前にあるもので、そこまで価値を高く見積もっていない様子だった。


 結局、人の価値観、人の物差しは、自分が生きてきた環境に作られてるって事なんだろう。

 武芸者に囲まれて生きてきた俺が、そうじゃない人を弱いと考えてしまうのと同じように。



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