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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 俺と八重の旅の最初の目的地は、八景の町から西へ進み、幾つかの国を越えた先にある六山という名の国だ。

 六山の国はその名の通り、六つの山に囲まれた国で、高低差の大きい国土は広い田畑を作るのに適さず、主な産業は山で切った木を川に流して運び、下流の国に売る事だという。

 要するにまぁ、あまり栄えていない国だった。


 八重がこの六山の国に向かうのは、少し前にこの国で起きた、開発中の銀山の坑道が崩落した事件の詳細を調べる為。

 なんでも八重曰く、

「大きな事故、事件は、実は忍びか妖怪の仕業だったという事が沢山ありますから。忍びの仕業ならどこの忍び衆の仕事で、依頼人は誰かを。妖怪の仕業なら、何を目的としていて、その妖怪はまた同じ事故を起こそうとするのか否かを、調べねばなりません」

 俗楽の花はそうした情報も収集しているとの事だった。

 妖怪の仕業だったなら退治してしまえば話は早いと、俺としては思うのだけれど、それは俗楽の花のやり方ではないんだろう。


 尤も今回の件に関しては、既に他の忍びが調査をしていて、八重の役割はその報告を受け取り、確認を行うだけらしい。

 俺は八重の護衛だから、彼女の傍をあまり離れる訳にはいかないのだが、調査の為の聞き取りや、どこかへ忍び込んだりするのなら、俺の存在は邪魔になる。

 なので正直、今回は八重が本格的な調査を行う訳じゃないと聞いて、俺は内心で安堵をしている。

 いずれは、八重がそうした調査を行う時も来るのだろうけれど、それまでに最低限の、彼女の足を引っ張らずに同行する技と知識は、身に付けた方が良さそうだ。


 ただ、今回の件で一つ気になったのは、八重の仕事の詳しい内容を、そうした情報を俗楽の花が集めているという話を、俺なんかが聞いてしまってもいいのかという事。

 でも八重は、そう問うた俺にクスクスと笑いながら、

「四木様なので大丈夫です。しかし他の方には、この事は話さないでくださいませ」

 そんな言葉を口にする。

 いや、それは単に八重が俺なら問題ないと信じてるだけなのか、それとも俗楽の花が俺に対してある程度の情報の開示を許可してるのか、どちらなんだろうか。

 多分、俗楽の花が八重の仕事がし易いように、同行者には必要な情報を与えていいと言ってるんだとは思うが、八重は何故だか、出会ったばかりにも拘らず、妙に俺に信を寄せていると思わせるような発言をするから、少し戸惑う。


 まぁ、俺だってわざわざそれを言いふらして俗楽の花の不興を買い、大妖に会う為の道を閉ざしたくないし、そもそも仮に俺が言いふらしたところで、誰が信じるという訳でもないのだ。

 だから俗楽の花も俺への情報開示は問題ないと、そう考えたにちがいない。



 六山の国へは、一度南側に回ってから、山道を通って向かう必要がある。

 西側や東側、北側にも六山への道は通じているらしいけれど、この時期は、南側の道以外、雪が深く積もっていて滑り落ちてしまう危険があるそうだ。

 北から吹く冷たい風が、山にぶつかって雪を降らせているという。

 もちろん南側の道も幾らかは雪が積もっていて、足を滑らせる危険はあるのだけれど、武芸者である俺や、実は忍びである八重ならば、多少の足場の悪さは移動の妨げにはならない。

 恐らくその気になれば、西側だろうが東側だろうが、何なら最も雪の多い北側だって、俺と八重なら通れるだろう。

 ただ、そんな事をすれば六山の国に着いた時に、悪目立ちをしてしまうけれども。


 冬は死の季節だ。

 あまりに強い寒さは、人の命を簡単に奪う。

 木々は葉を落とし、獣は眠る。

 虫の類は冬を越せず、卵だけを残して死ぬ種も多いそうだ。

 種としては残るが、個は死ぬ。

 また冬は陰気が強まり、新たな妖怪が誕生したり、既にいる妖怪の活動も活発になる。


 生き物達の都合なんて考慮しない、残酷な季節。

 だけどその季節に見られる光景は、とても美しい。

 足を止め、編み笠をあげて空を仰ぎ見れば、そこは深く澄み渡っていて、その青さと広さをより強く感じられた。

 地に視線を戻せば、葉を落として裸になった木々と、雪の白さの対比に何とも言えぬ味わいがある。

 

「四木様、息が白うございますよ」

 同じように足を止め、けれども何故か、景色ではなく俺を見ていた八重がそう言って笑う。

 確かに口から洩れる息は白いが、これだけ寒ければ当たり前で、なのにまるで童のような事を言って笑ってる。

 でも不思議とそれが楽しく思えて、俺も釣られて笑ってしまった。


「六山には、熱い湯の湧く泉、温泉があるそうです。故郷にも温泉はありましたが、楽しみですね」

 少し一緒に笑った後、八重がそんな事を教えてくれる。

 あぁ、それは実にいいな。

 これだけ寒ければ、熱い湯は実に贅沢だ。

 正直、六山の民はどうしてこんなに住み辛い場所を住処にしたのか疑問だったが、或いはその温泉の存在が、この地に人が住み付く切っ掛けだったのかもしれない。


 そして再び、俺と八重は止まっていた足を動かし、六山の国を目指して山道を歩く。

 ただその足取りは、心なしか、ほんの少しだけ、先程までよりも軽く、速くなった気がした。



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