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八重椿(転生忍者奮闘記外伝・壱)  作者: らる鳥


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 翌日、旅の用意を済ませた俺は、八重の護衛として白景の町を発つ。

 しかし行商人ではなく、歩き巫女の護衛か。

 本来なら、色々と勘ぐってしまうところだろう。

 例えば、相田屋の主人が信心に篤いのか、それとも神職の支援をする事で相田屋の印象を良くしようとしてるのか、或いは旅を支援する代わりに巫女を愛人にしてるのか、等々と。


 だが相田屋が俗楽の花、忍び衆と繋がりがあると知っていれば、下種の勘繰りの余地はなく、八重は忍びで、この旅は諜報の為なんだろうとわかる。

 ……ただ、芳信和尚に教えられたからとはいえ、俺でも知ってるくらいなんだから、相田屋と俗楽の花の繋がりは、徹底的に秘されたものではないんだろう。


 まぁ、そりゃあそうだ。

 忍び衆とて、生きた行くためには金が要る。

 武芸者が武を売って生きるように、忍び衆は忍びの技を売って生きねばならない。

 その為には、仕事の依頼を得る為の繋がりは、完全に隠してしまう訳にはいかないのだから。

 恐らくだが相田屋は、俗楽の花に忍びの仕事を依頼する為の窓口でもある筈だ。

 あぁ、たしか俗楽の花は、情報の取り扱いを主にする忍び衆だというから、情報の売買を行う窓口か。


 ただそうした完全に隠していない窓口、相田屋の支援を受けて旅する八重は、その正体が忍びであると察せられる可能性がある。

 何しろ俺が察してるくらいなんだから、或いは他の忍び衆から見れば、一目瞭然なのかもしれない。

 そう考えると、正体を隠しきれない状況で八重を諜報に向かわせるという行為には、俗楽の花に何らかの意図がある事を感じさせた。


 例えば陽動だ。

 正体を完全に隠さない八重が諜報を行えば、それを察した対象の意識は彼女に向く。

 しかしその裏で別の忍びが諜報を、または別の目的を果たす。


 この場合、時には八重の身に危険が及ぶ事も考えられるが……、まぁ、その為に護衛の俺がいるのか。

 もしくは八重自身、忍びとしてはその危険を払いのけられる程の実力を持っているのかもしれない。

 正直、所作や気の動き等を見る限りでは、それなりの心得はあるのだろうけれど、簡単に斬れるだろうと思う程度だ。

 だが俺の勘は、実際に刃を向ければそう容易い相手じゃないと告げていた。

 尤も、八重の実力を下手に探ろうとして、俗楽の花の信頼を得られなくなってしまっては元も子もないので、深く詮索はしないでいるけれども。


 まぁ、さておき、そうした厄介事で刃を振るう可能性は、考慮しておくべきだろう。

 自分一人なら、どんな状況でも咄嗟に動ける自信はあるけれど、護衛としての動きをするとなると、予め心構えが必要だ。

 街道を西へと歩きながら、俺はこれからの事に関して思考を巡らせる。


 けれども、不意に、

「四木様、今日は風が心地ようございますね」

 隣を歩く八重がこちらを見上げてそんな事を言う。


 その言葉に、冬の時期に何を言ってるんだと思いながらもふと気付く。

 確かに、今日は少し寒さが、風の冷たさが柔らかい。

 今日はそらの雲もなく、奇麗に日差しが降り注いでいるからだろうか。

 

「私は北の方からこちらに来ましたので、これくらいの風が心地よう思えます。四木様はどうですか?」

 続く八重の問い掛けに、俺は少し戸惑いながらも、

「俺は都の近くで育ちましたので、これでも寒く思います。ただ、道場では冬の寒稽古はみっちりとやらされましたから、この程度なら動くのに問題はありません」

 何とか言葉を捻り出す。

 いや、でも、この寒さが好きか嫌いかを問われているのに、寒くても動けるって返しは的外れで、上手くない気もした。

 ただ俺は、護衛としては問題なく役立てるって言いたかったんだが、そもそもそれを問われてる訳でもなかったから。

 もどかしさと羞恥に、ちょっと耳が熱くなる。


「あら、そうですか。では四木様を北にお連れする時は、暖かい時期がいいかもしれませんね。今のあちらは、それはもう、本当に寒いですから」

 でも八重は俺の言葉に、にっこりと微笑んでそう言った。

 それはつまり、八重が属する俗楽の花の意向はともかく、彼女自身は俺を里に連れて行き、大妖に引き合わせたいと思ってくれているって意味だろう。

 もちろん八重の想いだけでそれが実現する訳じゃないだろうが、それでもそんな風に言ってくれる事が、俺にはとてもありがたい。


「ではその時まで、しっかり貴女を守らないとなりませんね」

 その想いには働きで応えるしかないと、俺は決意を新たにする。

 けれども八重は、

「はい、お願いいたします。ですが、賊等が出てくれば四木様に対応をお願いするとは思いますが、私も自分の身を護るくらいはできますので、そんなに気を張って、ずっとすぐに庇えるように動いて頂かなくても大丈夫ですよ。お気持ちは、とても嬉しいんですけれど、もう少し気楽に、この旅を楽しみましょう」

 俺の言葉に笑みを深くしたけれど、一つ頷いた後は首を横に振り、気を張るなと、そう言った。


 あぁ、どうやら俺の緊張は、彼女に見抜かれていたらしい。

 実のところ、誰かの護衛をするというのは、これが初めての経験なのだ。

 単純な戦いに関しては、技は幼い頃から磨き続けてるし、獣でも妖怪でも、人であっても斬る心構えもできている。

 ただ、自分よりもまず第一に他人を庇うという護衛は、単なる戦いとは勝手が違う。

 なので、些か以上に気を張ってしまっていたのだけれど、八重はそれを指摘して、諫めてくれた。


 ……だが咄嗟に庇えるように動いてる事まで見抜かれるというのは、思っていうたよりも八重は、体術に関しても優れているんだろうか。


 まぁ、確かに。

 連れがいる旅というのもまた貴重な経験だ。

 この旅がどれだけ続くのかは、今はまだわからないけれど、折角の縁があってこうしているのだから、できる限り楽しんでみよう。


 肩の力を抜いてみれば、照る日差しの暖かさを、先程までよりもハッキリと感じる事ができた。



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