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燻る火種は、まだ消えない

 「はぁ……」

 爽との偶然の再会から一夜明けた火曜日の朝。

 美鈴は教室の廊下側にある自分の席で、思わず深いため息を吐いていた。


 「ちょっとー? 美鈴ちゃん聞いてましたかー?」

 「えっ……? あぁ、ごめんっ。ハマちゃんのお弁当箱が可愛いって話だっけ?」

 少し気まずそうに聞き返す美鈴の反応に、正面の席に後ろ向きで据わる女子生徒――柿崎 奈々が不満そうに口をとがらせると、

 「ぶぅー。正解はぁ、エキナカの“フレンド”のソフトクリームが、ちょっと小さくなってた、でしたー」

 案外どうでもいいような話をしていたことに、美鈴は「なんだぁ……」と緊張が解けるのを感じる。


 ちなみに“フレンド”は、新潟県長岡市を中心に展開するイタリアン焼きそばのチェーン店だ。

 エキナカにある“フレンド”は、放課後にふらっと寄るにはちょうどいい店で、ソフトクリームや簡単なスイーツも扱っているせいか、美鈴たち地元の高校生の間では、地味に定番の場所になっている。

 「でも確かに、それってなんか……、ちょっと損した気分になっちゃうね」

 「だよねー。値段はそのまま量を減らしてくるなんて、知らない間にこの国の経済事情を感じれちゃうみたいでちょっと嫌かもっ」

 「あははっ……」

 奈々の軽口に、とりあえずの愛想笑いを返しながら、美鈴はごまかすように、いつもの笑顔を張り付ける。


 そんな幼馴染の違和感に、奈々はここにきてようやく、

 「美鈴ちゃん、なんか元気なさそうじゃん?」

 「え、そうかな……?」

 「うんうんっ、いつものめんどくさい位の元気は何処いっちゃったのかな?」

 「奈々っち、そんなふうに思ってたの……?」

 「うん、思ってたっ」

 「にしては言い方酷くないっ!?」

 「ごめんごめんっ」

 奈々はいつもの何処か飄々とした笑みを浮かべながら、自慢のお団子頭を揺らして美鈴に口を開く。


 「でもさー、なんか今の美鈴ちゃん、出会ったばかりの時と同じ雰囲気だよ?」

 「出会ったばかりの時って?」

 「じみぃーってしてて、すぐ物陰に隠れちゃうようなモジモジガール」

 美鈴はビクッと肩を振るわせる。

 「そ、そんなだったっけ……? 私……」

 「うんうんっ」

 尚も表情を崩さないまま、奈々はちょっとからかい交じりに続ける。


 「もしかして、失恋?」

 「なっ!? そんな訳ないじゃんっ!」

 美鈴は過剰に反応を見せながら、

 「別に、好きな人なんて私……」

 と、美鈴らしくないボソボソとした声が、言葉の途中で消える。

 そんな美鈴の戸惑い交じりな様子に、

 「ふーんっ」

 奈々はもの言いたげな目で美鈴を見据えた。

 「な、何その目……」

 「べっつにぃ? もしかしなくても、“例の男の子”のこととか、考えてたのかなぁ~って思ってー」

 図星だった。

 美鈴はビクッと肩を再び震わせ、「そ、そんなことっ……」と声にならない声を漏らす。


 そんな分かりやすい動揺を浮かべる幼馴染に、奈々は何処か優し気な溜息を漏らすと、

「別に、美鈴ちゃんがその男の子のこと好きでいるのはいいと思うけどさ~? でも、いい加減にどっかで、踏ん切りつけてもいいんじゃないかな? もうずっと、会えてないんでしょ?」

 何処か諭すようにも聞こえる奈々の言葉に、美鈴は一瞬だけ視線を落とし、グッと言葉を飲み込む。


 そんな彼女の様子に、「んっ?」と、奈々は不思議そうな目を向けた。

 すっかりと威勢を失った美鈴は、

 「じ、じつはね……?」

 おずおずと昨日の出来事について簡単に話し始めた。


 昔、引っ込み気味だった美鈴の手を引いてくれた少年と再会できたこと。

 だけどその少年は、当時の明るい彼じゃなかったこと。

 何よりも、美鈴のことを忘れられていたこと。


 淡々と口にする美鈴に、奈々は聞き終えると、

 「そっかぁ」

 思わしげな声で一言だけ漏らした。

 「私……、もう諦めた方がいいのかなぁ……」

 何処か弱々しい美鈴の迷いに、奈々ははっきりとした口調で答える。

 「それは美鈴ちゃんが決めなきゃ。私はどっちにしても、美鈴ちゃんの味方だからっ」

 「ありがと、奈々……」

 美鈴はようやく、素直な笑みを浮かべると、

 (やっぱり、奈々が幼馴染でいてくれて、ホントによかった……)

 正面で「ムフゥーン」と鼻を鳴らす幼馴染の顔を、しばし眺めた。


 そして美鈴は、ようやく決心する。

 「決めたっ! やっぱり私、もう一回今日の放課後に声かけてみる!」

 大切な幼馴染から、昔の記憶を追う勇気をもらった美鈴は、声高にそう宣言した。

 これに奈々は笑みを深めると、

 「うんうんっ! それでこそ、いつもの美鈴ちゃんらしいよっ」

 と、頬杖つきながら応援する。


 「でもさ、もしまた嫌な思いしたらいつでも言ってね。美鈴ちゃんの一番の親友ポジは、私だけなんだからっ」

 言いながら奈々は、机越しにグイっと美鈴に抱き着いてくる。

 「もぉ……」

 と、美鈴は控えめな困り顔を浮かべるも、彼女を無理やり引き離そうとはしなかった。


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