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彼らは彼らで、違和感だらけ

 「――て、言うことがあったんだ……」

 爽は名前を覚えるのも面倒ないつものフラッペをすすりながら、一時間前にあった少女との出会いを口にする。

 辺りがすっかり暗くなった長岡駅周辺は、下校ラッシュから社会人の帰宅ラッシュが目立ち始めている。

 そんな帰りの道すがら、爽は偶然会った同じクラスの同級生の男子――下田 陽介と一緒に駅構内の改札近くにある、とあるカフェチェーンにいた。


 落ち着いた雰囲気ながら学生に人気な店ということもあり、店内では爽たち以外にも多くの若者が、思い思いに夕方の贅沢な時間を過ごしている。

 その賑やかな店内の端にある三人掛けの高めなテーブルに、爽と陽介は向かい合うようにして座っていた。


 爽が放課後にあった出来事を簡単に説明し終えると、ジトっとした目で正面に座る陽介は、

 「……で?」

 と、何処か面白くなさそうな表情で爽に短く口を開く。

 「い、いや……。だからって事はないんだけどさ……?」

 「ほーん……」

 陽介は尚もつまらなそうに漏らすと、

 「ふんッ!」

 「あたっ……!って、いきなり急にっ!」

 突如、爽の脛に軽く蹴りを入れてきた。

 涙目で訴える爽に、

 「世の男子の大半を代弁して、モテ男に鉄槌を下したまでよ」

 「僕も世の男子の一人なんだけど……?」

 「ばーか。それじゃあモテ男を区別する意味ないだろ」

 「モテ男って……。僕も普通の男子なんだけど……?」

 どこか解せないと言わんばかりの爽は、再び緑色の太いストローに口をつける。


 一方で、一足先に新作の桜をあしらったフラッペを飲み切った陽介は、呆れ交じりに爽に問いかけた。

 「爽くんや、もし君も普通の――健全な男子だというのなら、俺の視線の先にあるものに共感できるはずだぁ」

 言いながら陽介は視線を正面に向ける。

 すると徐々に、陽介はだらしなくその鼻の下を伸ばしていった。

 爽も視線を同じ方に向けると、そこには窓越しに映る二人の若い女子の姿があった。


 どちらも大学生くらいか、爽たちよりもひと回りくらいの年上に見える。

 そんな彼女たちは、細い通路を挟んだ向こう側にある物産エリアで、お土産を探している様子だった。

 キャリーケースを片手に、花火をモチーフにしたゆるキャラのキーホルダーを手にして、何やら楽しそうに会話している。

 目線の先にいる彼女たちは、どちらも顔は確かに可愛い。

 とはいえ、

 「んー……、可愛い人たち、だよね?」

 爽が感じたのは、それ以上でも以下でもなかった。


 「はぁ……」

 陽介はあからさまに冷めきった目で爽を一瞥すると、

 「爽、俺はお前にがっかりだ」

 「な、なんでっ!?」

 共感もなく全否定された爽は、戸惑いながらも陽介の答えを待つ。

 「お前……、あの二人の服装見てみろよ」

 言われた通り爽は、二人の服装に注目してみる。


 そこには、細くも健康的な太ももを強く主張するミニスカとハーフパンツ。

 既に雪は解け切ったとはいえ、春先の雪国で出歩く服装としては、まだ時期が少し早すぎる気がした。

 「よく似合ってるよね? すごく寒そうだけど……」

 そんな素直な感想を漏らす爽に、

 「ちっげーよっ! そこは“あの太ももに挟まれてぇ “が正解だろうが!」

 常識と言わんばかりに、語気を強めながら陽介は小さな丸テーブルから身を乗り出す。


 鼻息荒く言い切る陽介に、今度は爽が冷ややかな目で溜息を吐きながら、

 「それって陽介の趣味でしょ……?」

 「ふんっ、男子は総じてスケベであるべきだろ?」

 「そんなことはないと思うけど……」

 弱々しくもやや毅然と返す爽に、陽介は気まずさを打ち消すように空の容器に刺さるストローをすすと、

 「まぁ、あの女子たちがエロい話は置いておいてさ、マジな話爽ってめっちゃモテるよなー。どうしたらお前みたいになれんだよ……」

 「モテるかどうかはわからないけど……、とりあえず口についたクリームは、とった方がいいよ?」

 「ありゃ、こりゃ失敬」

 言いながら新品のブレザーの裾で、何の迷いもなく口元のクリームを取る陽介。

 高校デビューと言わんばかりのチャラついた格好をしている陽介だが、それを愚行だと思っているのは、どうやら爽だけらしい。

 半分呆れたように笑いながら、爽は容器に残ったチョコチップを啜った。


 一方でそんな爽の様子を、陽介は感心したようにジッと見つめる。

 すると徐に、

 「あぁー、そういうところか」

 どこか腑に落ちた様子で、陽介はポツリと漏らした。

 「な、何が?」

 「爽ってさ、人のことよく見てるよな」

 「そう、なのかな?」

 自覚がない様子で、爽は首をかしげる。


 だが陽介は確信を持った口調で、

 「いやだってよ、こんな少し口についたクリームなんて、俺だったら絶対に気づかないし」

 「それは陽介がガサツなだけじゃない?」

 「お前、何げにひでぇこと言うな……」

 「それは……、ごめん……」

 真面目に謝る爽の様子に、

 「いや、俺も否定しきれないから、それはいいんだけどさ……。とことん勿体ねぇよなぁ……、爽は」

 「あははっ……」

 「だけど、あの女子二人がエロい事だけは、絶対に共感させたるっ!」

 それからもしょうもない陽介との会話は、爽にとって一呼吸落ち着けるような時間だった。

 

 ただ一つだけ、爽は陽介が口にしたある一言が脳裏に残り続ける。

 (勿体ない……、かぁ……)

 爽にだって、人並みの青春に憧れる気持ちは嘘ではない。

 そんな本心の間で答えをためらいながら、爽は予定していた電車を1本遅らせて、ようやく帰路に着いたのだった。

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