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出会いは時に、人を選ぶ

 校舎裏での一波乱から解放された爽は、一人校門を抜けて帰路につく。

 普段は同じ帰宅部の友人と下校している爽だが、放課後に他クラスの女子からの呼び出しを受けたことを伝えると、「あぁ……、ご愁傷さん」といって先に帰られてしまったのだ。

 「はぁ……」

 

 心が晴れないまま、爽は深いため息と共に足を進める。

 先ほどの出来事が、歩くたびに脳裏をよぎる。

 それでも重い足取りのまま、何とか最寄りのバス停にたどり着いた。

 バス会社の営業所を兼ねたその場所には、爽と同じ制服を着た生徒たちがバスを待っている。

 

 日中は一時間に一本程度しか走らないこの路線だが、悠久高校の下校時間帯に合わせて、数本だけ増便される。

 それでも次のバスまで二十分近く間隔が空くことも多く、爽の視線の先には、長蛇の列ができている。

 次のバスは、五分後に発車予定の長岡駅行き。

 

 だが爽はふと思い出したかのように、

 「……次のバスにしようかな」

 自然と足をバス停の方から逸らした。

 

 (あの二人、絶対いるよね……)

 バスの中で先ほどの女子二人とバッティングする想像をして、背筋を凍らせる爽。

 少し速足気味にバスの営業所を横切ると、すぐ隣にあるコンビニで暇をつぶすことにした。

 ひとまず店内に入ると、興味もない雑誌にさっと目を通して、物珍しいお菓子がないかを物色する。

 結局毎朝通っているせいもあってか、新鮮味のある商品は何も見つけることが出来なかった。


 (まぁ、仕方ないよね)

 とりあえず何も買わずに出るのに気が引けた爽は、適当なジュースを買ってカバンにしまう。

 コンビニを出る頃の空色は、だいぶ濃いオレンジ色に変わっていた。

 「綺麗だなぁ」

 爽は不意に、そんなことを口から漏らす。

 するとその時、

 「えっ……」

 驚きと困惑が混じった少女の声が、正面から彼の耳を刺激した。


 ビクッと無意識に身体を震わせながらも、爽は声がした方に視線を下してみる。

 視線の先にあったのは、顔も姿も見覚えのない、爽と同じ学校の制服を着た一人の女子生徒だった。

 背格好は平均的な女子くらい。セミロングくらいの髪を、青色のシュシュでまとめた、整った顔立ちの少女だった。


 赤色のリボンを見る限り、学年は爽と同じ一年生だろう。

 とはいえクラスが違うのか、爽の記憶の中に、彼女のような知り合いは何処にもない。

 だが、一方の少女は、

 「も、もしかして、爽くんっ!?」

 驚きと興奮が半々といった様子で、意思が籠った瞳のまま、爽の元に近づいてきた。


 「っ……!」

 爽は反射的に半歩後ろに下がって、しっかりと距離を確保する。

 露骨に避けている事を察したのか、少女の動きがピタッと止まった。

 「え、えっと……、ごめんなさい……」

 爽は驚く彼女の表情に、とっさにそんな声をかける。


 「う、ううん。こちらこそ急にゴメンねっ」

 少し気まずそうに、少女もまた口を開いた。

 「もしかして、私のこと、覚えてないかな……?」

 爽は過去の記憶を手繰り寄せるように、目の前の少女の容姿を観察した。

 入学式から中学校のクラスメイト、さらに前の記憶に遡ろうとしたその瞬間、

 「ッ……!」

 二年前の先輩との記憶が強烈にフラッシュバックする。

 まるで“まだ逃がさない”と言わんばかりに叫ぶ、二年前の先輩の表情が、爽の記憶の引き出しに硬くカギをかけて、手に届かない位置に置かれてしまう。


 「ね、ねぇ……、だいじょうぶ……?」

 あまりにも苦しそうな表情をしていたのか、少女は不安そうに言いながら、何処か遠慮がちに腕を伸ばす。

 そんな彼女の伸ばしかけた手から、爽は反射的に身を引いてしまった。


 彼女の気遣いを拒絶しているとしか言えないその反応に、爽も我に返ると、

 「ご、ごめんっ……。やっぱり、思い出せなくて……」

 自分でも酷すぎる態度だと思いつつも、視線を外したまま、弱々しくそう口にした。

 一方の少女も気まずそうな表情を浮かべながら、

 「そ、そっか……」

 ただ一言、そんな一言を溢す。


 全身が硬直して、身体と表情が自然な動きを一瞬忘れる。

 だが美鈴は反射的に、何処か張り付けたような笑みを浮かべていた。

 顔や雰囲気は、昔とほぼ変わらない。だが今目の前にいる彼は、人との距離の取り方だけが、どこか歪んでしまっていた。

 少女は両手拳を強く握ると、明らかに無理した笑顔を作って、爽から一歩一歩後ろ向きに離れながら、

 「い、いきなりごめんねっ。いちおう私、糸川 美鈴! クラスは違うかもだけど、仲良くしてくれたらうれしいなっ」

 後半はかすれた声で、爽にそんな言葉を返す。


 一方の爽も、「う、うん……。よろしくね」と、控えめながら無難に応じた。

 爽の返事を聞くや否や、少女はバス停のある方へと走り去っていく。

 次のバスは、三分後。


 (あの次のバスって、何分だったっけ……)

 日は徐々に山の奥へと沈み、濃紺色の空があたりを侵食していく頃。

 爽は結局その場を動けないまま、一時間後に来たバスに乗るのだった。


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