結局彼は、モテ続ける
市街地からやや外れた丘陵地区にそびえる、私立悠久高校。
入学から程なくして爽は、胸を締め付けられるような息苦しさと共に放課後を迎えた。
桜が散るには少しずれた四月末ごろの校舎裏――そこに呼び出された爽は、相手の女子二人に板挟みになりながら、困惑と恐怖が入り混じった表情で身をすくめていた。
「ねぇ爽くんっ? 私たち“付き合ってる”はずだよね?」
「ちょっと、それどういうこと!? 私にはまだ“誰とも付き合ってない”って言ったくせにッ!!」
言い争いをしている二人の女子に挟まれながら、一応の当事者である爽はオドオドと視線をさまよわせる。
一人は口調こそ冷静だが、底冷えするような威圧感を感じる美人系の同級生。そしてもう一人は、アイロンで適度に巻かれた髪が印象的な、ちょっとギャルを思わせる女子生徒。
どちらも爽と違うクラスの生徒だが、二人が互いに放つ攻撃的な雰囲気に、爽の胸はじりじりと追い詰められていく。
そんな助けが来るのも望み薄なこの場所で、爽は内心で都合のいい救済を待ち望みながら、ただ無難な答えを返すほかなかった。
(なんで、いつもこうなっちゃうの……)
入学してから今日までの間、爽は意図的に女子と距離を置くようにしていたはずだった。
異性のクラスメイトから声をかけられても、必要以上の会話にとどめて、できる限り男子内のコミュニティーに閉じこもっていた――はずなのに……。
「ねぇ爽くんッ!? 聞いてるのッ!?」
責め立てるように声をぶつけられた爽は、慌てて言葉を取り繕う。
「き、聞いてたよ……? とりあえず二人とも、落ち着いて――」
爽が言いかけた時、片方の女子が割って口を開いた。
「言っておくけど、“とりあえずまた後で話そう”とか、“どっちもそんなつもりなかった”とか、そんなこと言うつもりなら、聞く気ないからね?」
先回りするように逃げ道を塞ぐその一言に、爽はいよいよ言葉を失う。
同時に爽は内心で、
(あぁ……、終わったかも)
という、漠然とした諦めが湧いて出ていた。
未だに二人の女子は、互いに牽制しながら爽との距離を詰めてくる。
背中に食い込む金網の感触が、絶体絶命の予感をさらに強めた。
(誰か……、助けてっ……)
両目を強く瞑り、爽は心の中で叫ぶ。
そしていよいよ、彼女たちが爽の身体に触れる寸前の距離で詰めてきた――その時だった。
「おいお前ら、何ケンカしてんだよ……」
気だるそうな口調で言いながら、口悪くひとりの教師が爽達の元に近づいてくる。
比較的細身ながら、短髪の髪をしっかりと立たせた、二十代前半くらいの若い男――新田 宏太は、女子二人に囲まれた受け持ちの男子生徒を一瞥すると、
「はぁ……」
深いため息をついて、あからさまに呆れた表情を作って見せた。
「とりあえずお前ら、うっせーぞ。校舎まで声聞こえてるっつーの」
注意というよりも苦情に近い言い方で、爽達にそう咎める宏太。
すっかりと熱が冷めきった三人の間に、別の意味で重たい沈黙が落ちた。
(ど、どうしよ……)
爽は再び視線をさまよわせる。
一方の女子生徒二人は、完全に白けたと言わんばかりに無表情で、ただ地面に視線を落としていた。
そんな生徒三人の様子に、宏太は再び深いため息を吐く。
「とりあえず、お前らは早く帰れ。ちょっとした騒ぎになってるぞ。多分もう少しで、お前らの担任も来るころだ」
宏太の言葉に、流石の女子たちもヤバいと感じたのか、
「……今日はここまで、みたいね」
「そうだね……。爽くん、また明日ね?」
少し威圧的な口調で、カールした毛先を靡かせながら片方の女子は、言い捨てるようにその場を去っていく。
爽は肩をビクッと震わせると、もう片方の女子生徒も少し間を置いてその場を離れた。
二人の女子生徒が足早にその場から離れていき、ようやく爽の緊張は少しほどける。
「はぁ……」
三度目の溜息を吐いた宏太に、爽は思い出したかのようにビクッと身体を反応させる。
一方宏太は、相変わらず呆れた表情を隠そうともしないまま口を開いた。
「おい、菅谷……」
「な、なんですか……?」
「いい加減、女子にモテるのやめねぇか?」




