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アウトドアサークル

 爽が書類一式を揃えた、翌日の放課後。

 「はい。ではまずは確かに、受領しました」

 悠久高校の生徒会長――真鍋 進は、恰幅のいい制服姿で言いながら、生徒会の受領印を押した。


 生徒会室の机の上に置かれた、一枚の結成届。

 その効力を持つのに必要な認印は、残りひとつ。

 欄外には校長の承認印と、顧問・副顧問――宏太と由奈のシャチハタがすでに押されている。

 本来なら校長印が最後に来るはずなのに、今回は順序が逆。最後の空欄は、生徒会長の承認印だった。


 今この場にいるのは、宏太と由奈、そしてこの会唯一の生徒にして、会長の爽。おまけに普段なら校長室に籠っているはずの貞夫までもが、結成届が受理されるその瞬間を見学しに来ていた。

 「……なんか、面白いサークルが出来ましたね」

 真鍋会長が何処か明るい口調で呟く。視線の先には“アウトドアサークル”の文字がくっきりと並んでいた。

 書類の代表者欄には――爽の名前。

 「……ホントに僕で、大丈夫なのかな」

 思わずこぼれた声は、かすかに震えている。


 「まぁ、校長公認ってことなら、自分が拒否する理由もありません」

 ペタン、と乾いた音。

 生徒会長は迷いなく印鑑を下ろし、“アウトドア同好会”は正式に承認された。


 「やったーっ!」

 末席にいたもう一人の女子生徒―――笹川 絢音が、ぱんぱんと拍手をしながら声をあげる。

 あまりに無邪気な調子に、爽は「……もう決まっちゃったんだし、やるしかないか」と小さく息を吐いた。

 そんな爽の独り言を漏らす一方で、

 「……って、おい。笹川はなんで此処にいる」

 宏太が思わず目を丸くした。


 笹川 絢音――宏太が受け持つ女子生徒の一人でもあり、爽のクラスメイトでもある彼女は、栗色のショートヘアが特徴的な女子生徒だ。

 そんな彼女は何処か腑抜けた調子で、

 「え? なんでって、生徒会の役員だからですけど」

 さも当然のことのように答える。

 だが宏太は続けて、

 「いやいや、俺のクラスの生徒だろ。担任なのに知らなかったぞ」

 「先生ってそういうとこ、ほんと無関心ですよねっ」

 絢音からジト目を向けられながら、けろっと返され、宏太はむぐっと詰まった。その脇で由奈は、ただ苦笑いを浮かべていた。


 爽はどうにか頷いたが――心の奥ではずっと、「僕に会長なんて……ほんとにできるのかな」という不安が渦巻き続ける。

 その一方で、

 「よし、これで決まりだね」

 その様子を後ろで眺めていた校長の貞夫が、楽しげに笑った。


 「まぁ、これからはぼちぼち部員を増やしていくといいよ。道具も初めは何もないだろうから、私から結成祝いに後でプレゼントを用意しておこうかな」

 背中越しにいいながら、貞夫は生徒会室の扉に手をかけると、いつもよりも少し軽い足取りで廊下へと出ていく。

 「校長!」

 そんな貞夫の背中に、真鍋会長はよく通る声で彼を呼び止めた。

 珍しくわずかに肩を震わせた貞夫に、真鍋会長はゆっくり近づくと、何やら二人だけでコソコソと会話し始める。


 「も、もちろん、分かっているさ……。その件については、また私の部屋で話そうじゃないか」

 結成されたばかりのメンバー――特に由奈の視線を気にした様子で、貞夫は調子はずれな様子で、

 「で、では私は失礼させてもらうよ……、明日は一日出張の予定があってね……。今日のところは早めに帰らせてもらうよっ」

 誰も聞いても居ない要件を一方的に吐き出して、足早にその場を去っていった。

 最後は何処か余所余所しい様子ながらも、傍から見た貞夫は終始上機嫌だ。


 「やっぱりなんか、解せねーな……」

 「そうだね……。これ、ただのお父さんの趣味だし……」

 不満とも不安とも言えない、どこか後ろ向きな言葉を溢す宏太と由奈。

 その後ろで何処か微笑ましいものを見るような表情の真鍋会長と絢音。

 その対照的な光景の中で――この時不思議と爽の胸の内には、後に引けない不穏な予感が渦巻き始めていた。

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