鈴花、風邪をひく
更新が少し空きました。
お読みにお越しいただき、ありがとうございます!
ぼんやりとした夢を見た。
何かがあったことだけは確かなんだけど、どんな夢だったのかは思い出せなかった。
誰かが何かを作っていた気がする。大切なことだった気がするけど、なんだっけ。
朝。目が覚めてから、掛け布団を押しのけ、足元に丸くなっていたポピーの黒い背中をもしゃもしゃと揉みしだきながら悩んでいると、ついっと鼻から水が垂れてきた。
頭が重く感じるのは、夢のせいだけではなさそうで。
朝ごはんの炒り卵をつついていると、ミヨちゃんに聞かれた。
「今日は学校、休んじゃう?私も家にいるから」
てっきり、寒い中で薄着でいたから、って言われるかと思った。
ちょっぴりドキドキして、少し考えるふりをしながら答える。
「でも、起きられるよ。ずる休みにならない?」
ミヨちゃんは、そんなことか、といった感じでにっこり笑った。
「だーいじょうぶ。じゃ、学校アプリで連絡しておくね。」
朝ごはんをゆっくり食べ終わってから、歯磨きして、そして今日は、布団に戻るのだ。
いつもと違う朝の支度。時計を見る。登校時間が過ぎた。
今日はずっとポピーと一緒。それがなんだか嬉しかった。
ポピーは朝のカリカリを食べ終わると、ソファの上に伏せていたが、わたしが布団に戻るのを見て、後を追って来た。そしてベッドの上に飛び乗り、足元で丸くなる。
何回言っても直らないけど、いつも掛け布団の上から丸くなる。
「せっかくの羽根布団がぺしゃんこだ」って、お父さんは口先だけで怒っている。
そんなお父さんの愚痴を、ぼんやりと思い出している間に、ポピーは目を閉じてしまった。
カーテンの隙間から漏れる南からの日差しを、ポピーの三角耳が切り取っている。
さすが、ぼっこマスターは日差しを逃さないね……わたしはうなずいて、眠ることにした。
次に目を覚ましたときは、なんだかスパイシーな香りがした。
蹴っ飛ばした毛布を被り直し、もぞもぞと動いていると、ミヨちゃんの声が飛んできた。
「さ、お昼ですよ。ご飯は食べれそう?」
ポピーはもう、足元にいなかった。
ダイニングテーブルに並んだお昼ご飯は、ミヨちゃんがカレー。わたしのは卵雑炊だった。
「私だけ豪華トッピングで失礼しますね。すずちゃんがいるとは予定外でした。むふふ」
そう言いながら、ミヨちゃんがカレーの上に、半熟ゆで卵とゆで小松菜、福神漬けを盛る。
さらにトースターがチンと鳴り、とんかつが運ばれてきた。
飲み物も麦茶ではなく、ノンアルコールビールだ。あれは特別なときに飲むものじゃなかったっけ。
カレーの香りも相まって、とても美味しそうに思えた。
まさか、ミヨちゃんは、わたしが居ない間に、自分だけパーティするつもりだったのだろうか。
「ミヨちゃんだけ、ずるい~」
文句を申し立ててみたところ、敵は意外にも友好的だった。
「元気になってきたね。良かった。一口、食べますか?」
もちろん。別の小さなお椀に、よそってもらうことにした。
お昼ご飯の最中、ポピーはリビングの床に寝転がって、わたしたちの様子を見ていた。
「カレーはねぇ。ちょっと刺激的よね。ポピーはあんまり欲しくなさそうよね」
ミヨちゃんは決めつけたが、ポピーの目は「良ければぜひ」と言っていた。
ごちそうさまして、歯磨きして。ミヨちゃんが体温計で熱を測ってくれた。
「お熱は下がりましたね。平熱です。良かった」
ミヨちゃんは寝ていても良いと言ったけど、わたしは起きることにした。着替えて、図書室で借りた本でも読もうっと。
「偉いねぇ」
手早く食器を片付けたミヨちゃんは、お仕事部屋へ向かっていった。
そういえば、ミヨちゃんがお仕事をしているところを見たことは無かった。
いつもは学校に行ってるあいだに、会社へ行ったりお家のパソコンで仕事をしたりするから。
どんなことをしてるのかな。
ちょっと、のぞいてみようかな?
普段はできないことをする。これって、もう探検だよね!
「ポピー、こっち。こっち来て」
小さく呼びながらゴムのおもちゃをちらつかせると、ポピーが軽い爪音を立てて、そばに来た。
「ポピー隊員、我々はこれから未知の冒険にでるのじゃ。しっかり付いて来るのだぞ」
隊員はおもちゃをスンスンと嗅いだあと、素直にうなずいた。に、違いない。よし。
それから、冒険と言えばテーマソングだ。わたしは運動会で覚えたチェッコリの歌を鼻で歌いながら、リビングを出てすぐの、ミヨちゃんのお部屋のドア横まで忍び足で近づいた。
ドアは開いていた。
お部屋の中は見えなかったけど、ミヨちゃんは何か、外国の音楽を聴いているみたいだった。
お仕事してないのかな?
「ポピー隊員、いよいよ我々は誰も知らない洞窟へ入るのじゃ。準備はいいか?」
隊員から反対意見は無かったので、わたしはドアの前に伏せた。
そして、そのままジリジリと進んで入っていった。ほふくぜんしん、というのだ。
ミヨちゃんは大きなディスプレイのあるパソコン机に向かって、タッチペンを使っているみたいだった。時々、カタカタとキーボードを打つ音もする。
アロマを焚いている。甘くていい匂い。
ミヨちゃんがチラリと見たけど、そのままパソコンを続けている。
何をしてるんだろう?
わたしは思い切って、お部屋の奥、ミヨちゃんの後ろまで回ってみた。
床から少し起き上がって覗き込んだディスプレイには、可愛い女の子と飛び立つような竜のイラストが描かれているところだった。
「すごい!かわいい!!」
「ふふ。ありがとう」
ミヨちゃんは音楽を少しだけ小さくして、わたしとポピーにニッコリ笑った。
「いまはね、表紙を描いているの」
「表紙?」
「そう。本の、顔になる絵」
ミヨちゃんの手元に、分厚い紙の束があった。
「こんな世界だよって、ひとめで分かるように、見せるの」
わたしは図書室で借りた本を思い出した。
お花の妖精が旅に出る話で、そういえば、表紙の花畑がきれいだったから選んだんだっけ。
「じゃあ、ポピーのお話なら、ポピーを描いたらいいの?」
「そうね。すずちゃんも、本をつくってみる?」
なんだかとても、面白そうだった。
「うん」
「わぁ、素敵!できたら、見せてね」
ミヨちゃんは嬉しそうに笑って、またあとでね、と言ってパソコンに戻った。
わたしも、ほふくぜんしんで部屋に戻ることにした。
自分の部屋で、机にA4のコピー用紙を広げる。
わたしは本を作ることにした。どんなお話にしようかな。
ポピーはいつの間にか、リビングの庭側の窓の横で、お日様に当たって寝ころんでいた。
「ポピー隊員、お呼び出しです。ただちに来てください」
呼びかけても黒い耳が動いただけで、ポピーは動かなかった。隊員は非協力的だった。
「どんなお話がいいかな?」
呼びかける。
そうだ、今朝の夢でも、誰かが話しかけていたような気がしてきた。
中身は覚えていないけど、たぶん、大事なことだった気がする。
思い出せないけど。
わたしの大切って、何だろう?
床に押し付けた肘と膝が少しジンジンとしていたけれど、気持ちはなんだか、軽かった。
いざ文章を書こうとすると、色々な調べもの、ルール、豆知識などがあって、頭がこんがらがってしまいます。今回は改行をたくさん入れてみましたが、意味の塊としてはあまり正確ではありません。
それもどうなん……と思いつつ、まずは形にしてみました。
そして悶々と思っているだけでは、アイデアは形にならず(当たり前)。
世の作家様、ものつくる皆様は、どうしてどんどん形にできるのか?!
尊敬の念が増すばかりです。
鈴花とポピーの日常はまだまだ続きます。
できるだけ更新していきますので、ぜひまた読みに来てくださいね!




