日向と日陰
第6話です。
少しずつ、「鈴花」という少女の形が浮き上がって来たように思います。
昨夜は雪が降ったようだ。
明るい日差しが降り注ぐ、日曜の朝。
「わぁー!雪!ポピー、雪だよ!!」
鈴花は寝室のカーテンをまくり開けると、日陰に浅く残った雪を見つけて大喜びした。
「ふふ。この辺りじゃ雪なんて、あんまり降らないものね。今年は寒いわぁ」
ドアの向こうから、ミヨちゃんの声が届く。
黒くて丸い毛皮は、布団の上でじっと動かなかった。
鈴花はどたどたと着替え、さっそく庭に出てみた。
住宅街にある小さな一軒家には、これまた小さいが、芝生の庭がある。
ポピーが仔犬の頃は、よく走らせて遊んでいたものだ。
今日はとても良い天気だ。
冬枯れした茶色い芝生には、確かに濡れた感じはあったものの、もう白い雪は無かった。
少し焦りながら、鈴花はうろうろと家の周りを探す。
すると、隣の家との間にある陰に、溶けかけた雪が残っていた。
鈴花は手袋をはめた手で、貴重な雪をすくい上げ、庭側の明るい軒下に持ってきた。
表面が水に戻りつつある雪は、日差しを反射してチラチラと眩しかった。
「きれい。きらきらしてる」
鈴花は力加減に気を付けながら、雪を丸く固める。
まんまる?さんかく?雪だるまにしたいけど、ちょっと量が少ないかも。
あまり強く握るとぐしゃりと潰れそうだった。
あれこれ考える余裕はなさそうだ。
地面に押し付けるようにして、細長い半丸にまとめる。
つややかな庭木の葉っぱを2つ取って、差す。
千両の赤い実を2つ添えれば、完成。
「できた。雪うさぎちゃん!」
「見て、見て―!ミヨちゃん、ポピー!」
エプロンを付けたまま、ミヨちゃんが出てきた。
「素敵ね!」
短い感想を笑顔で告げると、寒いわぁと腕をさする。
「ポピー?!ポピーも見て!」
庭に面した掃き出し窓の向こう、リビングを覗くが、黒い姿は見えなかった。
ポピーにも鈴花の声は聞こえているはずだが。でも来ない。
つまんないの。
「さ、朝ごはんを済ませちゃって。パンと炒り卵よ。寒い寒い」
ミヨちゃんに背中をさすられ、鈴花は家に入った。
午後になると、もうほとんど雪が無くなってしまった。
仕方ないので、ポピーと散歩に出かける。
ポピーは張り切って、ぐいぐい引っ張ってゆく。
なんだ、元気じゃん。
しばらく歩く。
大きな歩道で通りすがりのお姉さんに「かわいい」とつぶやかれ、
ポピーは止まって振り返った。
絶対分かってる。わざとだ。
いま、可愛いって言われたくて止まった。
私には、ちょっと、むりかも。
褒めてほしいっておねだりするなんて、ちょっと恥ずかしいもの。
キュッとリードを引っ張ると、ポピーは眉をあげ、そして軽やかに歩き始めた。
帰ってきてから、ポピーの身体を洗い、拭いて、ドライヤーで乾かす。
ずっと大人しく風を当てられていたが、「いいよ」と言うと、水飲み場へ走っていった。
気温が上がって来たのか、庭にした南向きの窓辺はとても暖かかった。
その日光が当たる縁側に、ポピーが寝ころぶ。
そして「フーッ」とため息をついた。
鈴花は声をかけた。
「ポピー」。
呼んでも、起きない。
静かにお腹が膨らんで、またへこんでいく。
もう一度呼ぶと、返事の代わりに「フーッ」と息を吐いた。
観葉植物の葉がゆれた。
日差しに照らされると、黒い毛皮の下に、茶色い毛が混ざっているのが分かる。
アンダーコートというそうだ。
長い毛と短い毛に分かれてみっしり生えているから、濡れると乾かすのが大変なのだ。
でも、とっても温かいのだそうだ。
黒いだけじゃない、茶色いもあって、白もあって、長さも色々。
いろんな毛皮で、ポピーの気持ち良いが出来ている。
ポピーは、とても満足そうだ。
「日向ぼっこが好きなんだね」
鈴花は思う。
ポピーは、さっき、褒められたいときに止まった。
今は、眠たいときに眠っている。
いろんな毛皮の中に、ポピーの「気持ち良い」が詰まっているみたい。
なんだか、羨ましい気がした。
「ポピー先生は、気持ち良い場所を、よくご存じですねぇ」
美代子が急須にお茶を淹れながらつぶやく。
湯気が立つ。
日光を浴びてふわふわと空気を含む黒い背中をなでて、鈴花は笑顔で応える。
「ポピーはね、日向ぼっこ名人。ぼっこマスターだから、ね」
ポピーは目を細め、しっぽを軽く振った。
お読みいただき、ありがとうございます!
描きたいイメージは、たくさんあるのですが、筆と脳みそが追い付きません。
季節に追い越される前に出していきたいです。
このお話の中では穏やかな冬の様子ですが、寒波に覆われた地域もあるとのこと。
皆様、どうぞご自愛くださいませ。




