明日に向かって
ようやく更新です!
お付き合いくださり、ありがとうございます。
晩酌も終わり。
雄一は使った食器を食洗機に入れ、ボタンを押す。
どこか酔い足りないような、重い気分が残っていた。
「ポピー、散歩に行くか?」
起き上がりこぼしのようにポピーが勢いよく跳ね起き、ギラリと目を輝かせた。
あまりの変わり身の速さに、雄一は思わず、小さく吹き出す。
美代子は「風邪ひかないでね」とだけ告げて、仕事部屋へ入っていった。
1人と1匹で、いつもの定番コースを歩くことにした。
冬の冷たい空気が、鼻から脳へ刺さるようだ。
勢いよく歩くポピーに引っ張られながら、住宅街を抜け、少し小高い丘の上にある公園を目指す。
すれ違う人もおらず、窓の明かりが少なく見える。
静かだ。
……数か月前にアサインされていたプロジェクト。
揉めた時の景色や言葉が、もう何度も頭の中で再生されていた。
たまたま視察に来ていた古参の役員の前で、責任者の後藤部長に食って掛かったのだ。
きっかけは、部下の些細なデータ不備。
でも、もう限界だった。
「私たちは、ただ、本来の仕事をしたいだけなんだ」。
自分が代表するわけでもないのに、余計なことを言った、という反省はある。
黙っていれば、こうして筋の通らない責任を背負わされることも、無かっただろう。
たどり着いた真夜中の公園は、曇った外灯に照らされたブランコと滑り台だけが、静かに佇んでいた。
ポピーが自由に動けるよう、リール式のワイヤーリードを長く伸ばすと、隅のほうにある草むらに鼻面を突っ込みながら、丁寧に臭いを嗅ぎ取っていく。
ほろ酔い気分で改めて見渡せば、まるでゲームの世界にでも迷い込んだ気になってくる。
「定番は、ここからゾンビが襲ってくるか。それとも幽霊かな」
こんなことを言い出そうものなら、美代子なら間違いなく、ただちに帰ると騒ぐだろう。
鈴花はどうかな。案外、一緒に楽しんでくれるかもしれない。想像力の豊かな優しい子だ。
しかし、最後に、この公園に一緒に来たのは、いつだっただろう。
最近はあまり構ってやれていなかった。
小さな背が、見るたびに伸びているのに。
そのうち、気づいた時には、俺の方が構ってもらえなくなるのだろうか。
生まれた時は、あんなに小さかったのに。
初めて見たくしゃくしゃな鈴花の顔と一緒によぎる、懐かしい声。
…いかん、いかん。君の声を思い出すのは、気持ちが弱っている証拠だ。
鼻息を荒く吹き出して、雄一は手早くリードを手繰り寄せた。
公園を後にして、家路へと急ぐ。
冷え込んできたから、近道にしよう。
住宅街へと続く裏道をたどると、旧街道が横たわっている。
そのまま渡ろうとするポピーを引っ張って押さえ、小さな横断歩道の前で足踏みして待つ。
ポピーと出会ったのは、3年ほど前だったか。
あれから毎日、眺めているわけだが、毎日、いちいち可愛い。
これは一体どういう仕組みなのだろうか。
何か、おかしな成分でも発散していないか。
丸い頭、黒い三角耳、茶色いマロ眉と、つぶらな瞳。黒く揺れる背中、先が白いしっぽ。
「今日も可愛いな、ポピー」
思わず声に出すと、可愛いの塊が「そんなことは当然です」とでも言わんばかりに、また引っ張った。
そういえば、まだ信号は変わらない。
「長いな」
辺りをよく見れば、押ボタン式だったようだ。
ボタンを押そうと体の向きを変えたとき、しびれを切らしたポピーが道沿いに走り出した。
思い切り引っ張られた雄一は、そのまま連れていかれる。
渡ろうと思っていた横断歩道から、歩道沿いに離れていく。
あっちの道の方が良いと思ったんだが。
ま、この先の交差点でもいいか。
ポピーは、リードを引っ張り続ける。
前へ、前へ。
「おいおい、どこに行くのか分かってるのかい、ポピー?」
問いかける雄一に、ポピーは当然、答えたりはしなかった。
しかし、たどり着く先は変わらないことを、雄一は知っている。
大切な家族が暮らす、あの家だ。
「そうだな。なるように、なる。……かなぁ」
雄一は速度を速め、ポピーと並んで小走りし始めた。
吐く息が、白くなってきた。
お父さんが、しっかり出てくる回です。
伏線というほどではないのですが、少しづつ、背景という感じも出していきます。
もちろん、ポピー大活躍の回も書いていきますね。
ぜひまた、お越しくださいませ!




