初詣
鈴花と黒柴の物語り、少しづつ続きます。
初夢の中身は、もうほとんど思い出せなかった。
ベッドから出て、みよちゃんのお雑煮を食べ、
いつものように身支度をする。
歯みがきをしながら、ぼんやりと思い出したことは。
「ママを探しに行きたい」
わたし、そんなことを考えていたなんて。
自分でも知らなかった。
鈴花はA4用紙に書いた目標を、口のなかでもう一度言ってみた。
「…ちょっとだけ、大きくなる」
歯ブラシを口から取り出し、鏡の中の鈴花に、にっこりと笑いかけてみた。
それから、隣の街にある大きな神社に初詣に出かけた。
毎年、お父さんと、みよちゃん、鈴花の3人で行くのが恒例だ。
ポピーは玄関で、小さく「くーん」と鼻を鳴らして、家族を見送った。
その様子がなんだか、小さい子みたいに見えて、鈴花は多めに撫でてから言った。
「すぐ帰るからね」
この神社に続く道の両端には、お店がずらりと並んでいる。あちこちから、威勢の良い呼び込みの声が飛び交う。
「はーい、いらっしゃーい!どうぞ見てってねー!!」
寒い気温とは裏腹に、初売りの熱気はすごかった。
「毎年のことながら、賑わってるなぁ」
人の流れにそってゆっくりと歩きながら、楽しい雰囲気が大好きなお父さんが、目を輝かせて言った。鈴花の目線の高さでは、道の反対側すら見えない。
「手を離さないでね、すずちゃん」
みよちゃんがギュッと手を握ってくれた。
寒いけど、そこだけ温かい。
私も慌てて握り返した。
いくつかお店を見て回り、鈴花はぬいぐるみを買ってもらうことにした。
「この藍染めの綿織物は、この辺りの特産なんですよ。可愛いでしょう?」
お店の人に勧められた子犬のぬいぐるみが、ポピーに似ている気がして、これに決めた。
みよちゃんと一緒にお会計待ちの列に並んでいたら、いかついお兄さんが鈴花達の少し前に割り込んできた。
割り込まれたすぐ後ろのお姉さんは、困った顔で何か迷っているようだった。
しばらくお姉さんの顔を見ていたが、言い出す様子はなかった。
鈴花は、ミヨちゃんとつないだ手を握りなおした。そして言った。
「順番抜かし、だめなんだよ」
お兄さんは聞こえないふりをした。でも絶対、聞こえているはず。
ミヨちゃんが小声で、「やめときなよ、怖いよ」と言ったのが聞こえた。
でも鈴花は、深呼吸して、もういちど言った。
「順番抜かし、だめなんだよ、おにいさん」
今度は大きな声で言えた。
お兄さんは鈴花をぎろりと睨んだが、お姉さんや周りの人から見られていたのが
気になったのか、こそこそと行列の後ろに回った。
「うるせえよ、ちび」とボソッと言われたが、聞こえないふりをした。
お姉さんは、何も言わずに向こうを向いた。
同じ列に並んでいるのに、まるで1人だけ離れてしまったようだった。
「ああ、怖かった!」
お店を出てから、ミヨちゃんが大きなため息をついた。
「どうなることかと思ったわ。すずちゃん、やるわね!」
いつものように優しい声。でもちょっと緊張してるのが分かった。
「…私が間違ってた?」
「ううん、そうじゃないの。ただ、そうね、すずちゃんが危ない目にあうんじゃないかって、心配してしまったのよ」
良いことをしたと思ったのに、でも褒められもしなかった。
鈴花は、ぬいぐるみの入った袋を、ぎゅっと抱きしめた。
「ポピー、今ごろ何してるかな?」
「鈴花は本当にポピーと仲良しだな。せっかくの休みなんだし、昼寝でもしてるだろ」
「それは雄一さんの日常でしょう?」
お父さんとミヨちゃんは笑って話していたが、鈴花は玄関でのポピーのマロ眉を下げた情けない顔を思い出し、ちょっと胸が重くなった。
もし家族を置いて行ったら、こんな気持ちになるのかな。
それから人の波に揺られながら参拝して、駅まで歩きに歩いて、ようやく家に帰ってきた。
「ただいまぁ」
玄関のドアを開けるが早いか、ポピーがしっぽを振りたくりながら走ってきた。
まずお父さん、次にみよちゃん、そして鈴花に、鼻先を付けて挨拶する。
おかえり!嬉しい!と顔に書いてあった。
鈴花はポピーの頭から尾まで、たくさん撫でた。両頬の毛皮を柔らかく掴む。あったかい。
ポピーは鈴花の匂いを嗅いで、少しだけ首を傾げた。
「どうしたの?何かあった?」
鈴花には、そう聞こえた気がした。
パッと手を離すと、ポピーは勢いよく奥のリビングまで走り去っていった。
「さ、手洗いうがいして。お茶でもいれてあったまりましょ」
ミヨちゃんが台所へ入っていった。
その夜。布団の中で、ポピーに神社での出来事を話した。
「すずか、間違えたことしたのかな?」
温かい毛皮のお腹に、顔をうずめる。いつもの良い匂いがする。
「ちゃんとするって、こういうことじゃ、ないのかな?」
ポピーはひっくり返ったまま、何も言わなかった。
大きくなるって、難しい。
楽しく書いているのですが…やっぱり文を書くのは難しい!
どんどん更新したほうが良いのでしょうが、なかなか紡げません。
季節に合わせて、エピソードを進めていくつもりです。
よろしければ、もう少し、お付き合いくださいませ。




