今年の、もくひょう
初めまして、袖丈かれんと申します。
ずっと物語が大好きでした。今年、ようやく書くことを始めました。気長に続けていけたらと思います。
しばらくの間、お付き合い頂けましたら幸いです。
机の上には、白いA4用紙が1枚あった。
2B鉛筆をこねくり回しながら、鈴花は悩んでいた。
大きな字で書いたタイトルだけが、頼りなげに紙に残っている。
「今年の もくひょう」
そこから先は、まだ何も書けていなかった。
「すずか、何してるの?」
机の下から声をかけてきたのは、黒柴だった。
いつも一緒にいる、鈴花の大切な家族。
「1年の計は元旦にあり、っていうんだよ、ポピー」
「けい?」
「今年の目標を立てるの」
「もくひょうって、なに?おいしいの?」
潤んだ丸い瞳で見上げながら、ポピーが前足をかけてくる。
おねだりの合図だ。
鈴花は小さな白い前足をそっと外しながら、考えた。
目標って、なんだろう。
「ちょっと、がんばるってこと」
「がんばると、どうなるの?」
鈴花はすぐに答えられなかった。
がんばるのは、あまり好きじゃない。
でも……
宿題を全部やったとき。
遅刻しなかった日。
運動会の前に、たくさん練習して、ちょっと早いタイムで走れるようになったとき。
できなかったことが、少しだけできるようになったとき。
大人たちは、笑ってくれた。
「できることが、増えるんだよ」
「ふうん。すずかは、できることが増えたら、なにするの?」
ポピーが机の上に乗り出し、A4用紙に鼻先を付けて嗅いだ。
鈴花は、黙った。
何をしたいんだろう?
そうして、ぽつりと呟いた。
「……大きくなりたい」
「そうなんだ」
「ママを、探しに行きたい」
声が、少し震えた気がする。
「ちゃんと」
鈴花には、とっても大切なお母さんがいる。
美代子さん。ミヨちゃんって呼んでる。
でも……
「ママ」は、もう一人いる。
違う国に住んでいる、と。
それだけを、一度だけ、お父さんが教えてくれた。
ポピーは何も言わなかった。
ただ、じっと鈴花を見あげていた。
「わたしね」
鈴花は、ほんの少し胸を張った。
そうしないと、言葉がこぼれそうだった。
「今年は、ちょっとだけ、大きくなる」
……目が覚めた。
「おはよう、鈴花。朝だよ」
ミヨちゃんがカーテンを開ける。
冬の朝の光が、部屋に飛び込んできた。
「いまの……夢?」
布団の足元を探す。いつものように、ポピーが丸くなって寝ていた。
白目をむいている。
「……しゃべるわけ、ないもんね」
「どうしたの?ふふ。初夢だったのかしら。本当に叶うんですって」
ミヨちゃんが微笑みながら、お雑煮できてるわよ、と言って出ていった。
鈴花は、しばらく天井を眺めていた。
夢の中の言葉は、もうはっきり思い出せない。
でも……
起き上がって、机の上の白いA4用紙を手に取る。
鉛筆のあとが残っている。
こすれて、ほとんど読めない。
でも、ひとつだけ、はっきりと分かる薄い文字。
「おおきくなる」
鈴花は2B鉛筆を取り、勢いよく文字をなぞり書きした。
そして、ポピーの黒い背中を撫でる。
いつもと同じ、あたたかさ。
ポピーはごろんと転がり、白いおなかを見せた。
さらに撫でる。
「今年も、よろしくね」
ポピーは黒い瞳を見せたが、またゆっくりと、目を細めていった。
いつも通りの朝だった。
でも、鈴花はもう知っている。
「いつも」は、
気づかないうちに、少しずつ、変わっていく。
幼女と黒柴の物語。少しづつ、続いていきます。
※表記の間違いを修正しました。




