Re:007 まるで見慣れた実家のような
小さい頃から物語を作ることが好きだった。
面白い話は世の中にたくさんあるのに、それでもまだまだ知られていない話や、これから生まれていくだろう話がたくさんある。人の数だけ物語があって、それを想像するのがとても好きだった。
創作して暮らしていたいなーと思ったことはある。
生きるために仕方なくしている仕事でのストレスと、創作してる時のストレスでは、圧倒的に後者のほうが気持ちは楽だ。好きなことをしているというのもあるのだろうが、なぜだろう。仕事にしても耐えられそうな気がする。副業でライターをやっていた時も忙しさとストレスを感じたこともあったが、それでも楽しいが勝っていた。むしろ仕事だからこそ納期という〆切があるだけ、捗りそうな気さえしてくる。
とはいえ、漫画の仕事なんてしたことはないから不安のほうが強いのだけれど。
「……あの、イセイさん。創作は確かにしてましたけど、漫画となると……作品を楽しむ側ではあったんですが、漫画を作る仕事は携わったことがなくてですね……」
正直お力になれるかどうか……とこぼすと、イセイさんは口角を上げて「問題ない」と言った。
「作画したいってやつは結構いるんだが、人手が圧倒的に足りてないのは原作のほうでな」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。むしろ、小説として読みたいってやつも多いくらいだ。一話単位で考えてみろ。小説と比べて漫画だとストーリーの進み具合がどうしても遅くなるだろう?」
確かに。
私が漫画で表現するのを諦めた部分もそこだ。ストーリーを早く進めたいのに、構図やら手やら背景やらを上手く描けずに何度も書いては消しての繰り返し。結局ストーリーを全然進められないことがストレスになってしまって漫画で描くのを辞めてしまった。
文章を書き直すことは苦じゃないのに、絵となるとそうもいかない。向き不向きなんだろうな。
「なもんだから、漫画でハマって原作も読みたいってやつが前より増えてきてるんだよ。一応言っとくとウチは小説もやってるから、そっちで出すことも可能は可能だぞ。ま、俺としてはこのままギャラクティカにいて欲しいとこだけどな」
人手不足だしと笑って、イセイさんはまた新しい煙草を取り出した。
「ま、しばらくは誰かのとこについてもらって雑用とかこなしてもらいつつ業務内容を覚えてもらう感じになるな。同僚たちのことを知る時間って感じで思っといてくれ。慣れてきたらまずは企画をバンバン作ってもらう感じになると思うから」
「そ、そんなすぐ作っちゃうんですか?」
「おう。そんくらい原作者が足りてないんだよ。アイディアの種は死ぬほどあるんだが……どうも長年同じ連中しかいないと、似たような話になりがちでな。そこで新人のお前さんに、こう……新しい風をだな」
ふぃー、とイセイさんが息を吐くと煙が広がっていく。煙草の煙というより蒸気のようにも見えた。一瞬キラキラしたようにも見えたが、すぐに霧散してしまう。
「……でも、私にできるでしょうか?」
「いや、問題ないだろ。お前さん毎年何度も同人イベントに――」
「あー! わー! それは置いといてくださいっ!」
イセイさんがスイスイと宙で指を動かして私の同人誌のサンプル画像を出してきた。
「ウチにしてみりゃ立派なポートフォリオなんだから、気にすることねぇけどなぁ」
ぷかぁ、と煙で輪っかを作ってみるイセイさんは、いたずらっぽく笑って言った。
「それに、そこまでかしこまったモンを作らなくても大丈夫だ。さっきも言ったがアイディアの種は死ぬほどある。俺たちはそれをこう、上手いこと発芽させてそれを送ってやるのが仕事だ」
「送る……って、クライアントにですか?」
ゲーム会社のシナリオ案みたいなものだろうか。プロットとして複数案を作成して、通ったものをシナリオとして書き起こす。いつだったかそんな仕事もしたなぁ。
「いや、そこがちょっと違うところだな」
煙草をトントンと指で叩いて、灰皿に灰を落とす。
「俺たちは『シナリオセンダー』。その名の通り、シナリオを送るのが俺たちの仕事なんだ」
「送る……」
「どこにって顔してるな」
イセイさんはまた何やら操作して新しい画面をスワイプした。
「俺たちがよーく知ってる場所。そう、地球にだ」
画面にはさっき窓から見たのと変わらない、地球が映っていた。




